隠れた秘密
「まず、寸法を測らせていただきます」
ザイクが退出し、お針子たちが控えの小部屋に入ってきた。
「まあ。ターシャ様は少し痩せ型ですのね」
女性の平均体型を知らないので、ターシャは曖昧に微笑んだ。もしそうなら、使用人たちの食事と同等のものしか食べてこなかったせいかもしれなかった。
それよりも、内心冷や冷やしていた。お針子たちが肌を――特に背中――を見せろと言われたら、あの模様が見えてしまうかもしれない。モアナには『名誉あることだ』と言われても、継母の悲鳴を思い出すと不安が募った。
しかし、そんな心配は無用だった。無事、測定は終わり、ターシャはドレスを着なおして、布がたくさん置いてある部屋に連れていかれた。モアナがそこで何やらザイクと話し込んでいたが、ターシャが来るとすぐに隣に立った。
「では、次に生地を選びましょう。ターシャ様の肌に合いそうなお色はこれとこれと……」
三色の生地がテーブルに置かれていた。シルク素材だ。先ほどザイクの言った通り、どれもはっきりとした色だった。コーヒー色。会話に出たサファイアのような青。そして、濃い緑。三つ目の色にターシャはどこか既視感を覚えた。
――どこかで見たかしら?
手に取って、眺めてみる。モアナが横から顔を出した。
「それは翡翠のような緑ですわね」
「……翡翠?」
翡翠という宝石なら知っている。ただ、この響きに思い出した。
「この色……、わたくしのお母様の肖像画の瞳の色だわ」
「ほう。そうですか。ターシャ様の母君に」
急に切ないような懐かしいような気持になる。自然とターシャの口からこぼれ落ちた。
「……肌に当ててみてもいいかしら?」
「もちろんですとも!では、こちらの部屋へ」
「?」
――鏡はこの部屋にもあるのに。なぜ別の部屋に?
ザイルがその疑問にこたえてくれた。
「王宮での照明は少し黄色みが強く、温かみがございます。生地の具合が多少変わってきますので。……奥の部屋の照明はその仕様と同じになっております」
その部屋に入ってみると、ザイクの持っている生地の雰囲気が重くなった。こんな細やかなことにまで気を配るプロ意識を感じた。
「では、こちらの鏡の前で、どう――!?」
ターシャの方を振り向き、ザイクは愕然とした。ポカンと口を開いてしまう。
「……ザイク?」
モアナが異変に気づき、声をかける。
「……と、とにかく、ターシャ様。こちらの鏡をご覧ください」
意味が分からず、ターシャは鏡の前に立った。
「……えっ!?」
その鏡に映っている少女は、いつもの褐色の瞳ではなく、底なしの翡翠のような瞳に変化していた。




