009
「冒険者への登録か。二人で銀貨二枚だ、坊主」
「はい、どうぞ」
ジンとフィーネとアイリスは次の日、陸の鯨亭で朝食を食べた後、冒険者ギルドに来ていた。
朝食は白パンとスープとスクランブルエッグとソーセージでジンの味覚にも合う物だった。これで銅貨五枚なら安い。
ジンは大体銅貨一枚百円と換算していた。
銅貨が十枚で銀貨が一枚。銀貨十枚で大銀貨一枚。大銀貨十枚で金貨一枚。
ちなみに大金貨、白金貨とあるらしいが、それらは通常の流通には乗らず、大商人や貴族などだけが使うものらしい。
スキンヘッドの大男の受付が声を掛けてくる。ちなみに美人の受付嬢は人が多かったので避けた。
「おい、坊主。お前その剣、どこで手に入れた」
「ここから先に行って左にあるドワーフの工房で買った」
「ありえねぇ、あの剣は金貨五十枚とついているが売る気がねぇんだ。実際金貨五十枚持っている奴が買いに行って、剣の腕にいちゃもんつけられて買えなかったって逸話もあるくらいだ。C級の新進気鋭の剣士だったのがだぜ? だが坊主のようなFランクが持っている。これはおかしい。どういうことだ、説明しろ」
「今説明しただろう。髪の毛と同じで脳みそまでなくなってるのか? 棟梁に認められて売って貰ったんだよ。金貨一枚でな」
スキンヘッドの男は驚愕の表情を浮かべた。
「おれの髪は剃ってるんだ! それはともかくそれが本当だと言うなら俺が特別にDランクにしてやる。横の嬢ちゃんも一緒にな。だから訓練場に来い」
「いいぞ」
そういうことになった。
◇ ◇
ざわざわと訓練場が騒がしくなっている。なぜならなかなか出てこないギルドマスターがいるからだ。たまに仕事から逃げるついでにカウンターにいる程度だ。ただし厳つくて誰も近寄らないことで有名だ。
そのギルドマスターが愛用の大剣を持っている。向かい合っているのはジン。昨日新調したばかりの長剣を腰に佩いている。
「俺から一本取れなくても戦えただけでD級をくれてやる。俺は元Aランクの〈剛剣〉のガルードと呼ばれたんだ」
「その剣はいいな。賭けないか? 負けたらお互いの剣を相手に譲る」
「阿呆、この剣はミスリル合金の剣だぞ。その剣の十倍はするわ」
「じゃぁ負けると?」
「そういう問題じゃない。万が一これを取られたら妻に何を言われるか……考えただけで恐ろしい。絶対に賭けんぞ!」
ジンは小さく「チッ」と舌打ちした。ここでガルードに勝ち、あの両手剣を得られればより戦略が深くなる。アイテムは全て手に入れたいコレクター魂が疼いたのだ。
「はじめっ」
フィーネが始めの声を掛ける。野次馬たちは何が起こるのかとみんな寄ってきている。
瞬間、〈瞬歩〉を使い、ジンは剣も抜かずにガルードの懐に潜り込んでいた。
「うおっ」
震脚をしっかりした崩拳。その一撃で天地を穿つと言われたそれはギリギリで回避された。
ただ当然その回避も折込み済だ。流れるように剣を抜き、体勢が崩れたガルードに対して鋼の剣を薙ぐ。しかしそこは流石に二つ名持ちだ。両手剣でしっかりと防いだ。
「やるな」
「こっちのセリフだバカ。なんだあの一撃は。殺す気か」
「真剣で模擬戦やってたら死人も出るでしょう」
「寸止めだバカ。大怪我をさせたら治癒士やポーションの出番だがそれも自腹だぞ。真剣で模擬戦やるバカは居らん」
ガルードは叫ぶ。叫びながらもジンの一撃一撃を丁寧に捌いていた。
ジンの震脚の痕にはしっかりとジンの足跡が五センチメートルくらい訓練場の床をへこませていた。そしてワンチャンこれで死ぬというのもわかっていた。なぜなら途中で現れたゴブリンをこれで倒し、弾けた飛んだからだ。だがガルードの立ち姿を見ただけで強いとわかった。このくらいは躱してくれないと困る。
(やるな)
それはお互いが思った事だった。ただしジンはギアがもう二段階はある。
ここまで見せる必要があるのか。それはわからない。だがここで見せて置けばフィーネに視線を寄せている奴らへの牽制にはなるだろう。
「よし、ギアをあげるぞ。ガルード」
「呼び捨てにするんじゃねぇ」
ガルードの大剣の横薙ぎが迫る。すれすれでダッキングし、ソレを避ける。地面に腕が着くほどの低さで間合いを狭めて行く。
左腕を地面についてぐるりと回転蹴り。ガルードはぐっと地面を踏みしめ、それを耐える。
それで倒れてくれれば楽だった。だが大剣が迫る。片手で地面を弾いて離脱。追い打ちも紙一重で半身になって避け、間合いを取る。
「「「おおお~~~」」」
一瞬の攻防。だがどちらに分があるかはわからない。そのレベルの戦いだ。野次馬たちはそうそう見れない見世物としてそれを楽しんでいた。
「真っ向から行こうか」
「来い」
ジンはそう宣言し、ガルードが挑発する。
〈瞬歩〉を利用した突き。それをガルードはギャリギャリと両手剣を震わせながら受ける。ガルードの肘打ちが来るので手のひらで受ける。強い。膂力では負けている。だがそれは受け流すように受けることでなんとか膂力の差を埋めている。
(元A級でこれか、この世界の人間は思っている以上に強いな)
鍔迫り合いには持っていけない。いや、あの手があったか。
口の中に小さな小石を忍ばせる。
「疾っ」
袈裟懸けにジンが斬りつけると余裕そうにガルードがそれを受けた。瞬間口から小石を弾丸のようにガルードの目玉めがけて打つ。ガルードは気付きそれを避けるが頬を裂く。
「殺す気かっ!?」
文句は受け付けない。
瞬間、ジンの蹴りがガルードの膝に入る。ガクンとガルードの力が落ちる。
ギャリンと剣を滑らせてジンはガルードの肩に剣を置いた。
「くそっ、鈍ってるな。昔はこんな不意打ちなんかには騙されなかったのによ。それにしても戦い方がえげつなくないか?」
「魔物や盗賊に慈悲など必要ない」
「間違いねぇ、おい。お前ら。ジンとその相棒フィーネに手を出す奴は俺が許さねえ。ヤるなら腕の一本落とされても衛兵に知らせるなんて真似すんじゃねぇぞ。俺が後ろ盾だ」
ガルードが野次馬たちに向かって叫んだ。
「おい、ギルマスに勝ったぞ」
「何者だあの男」
「と、言うか何をしたんだ。見えもしなかった」
「あんなのに絡むとかバカしかいねーよ。周りにも言って置こうぜ。女の子が可愛いから絡むバカは絶対出てくる。死人が出る前に周知しねぇとやべえぞ。あいつは人を殺すのに一瞬の躊躇もしない奴だ」
ジンの評判に傷がついたがフィーネに手出しされさえしなければ良い。ジンは自分の火の粉は自分で払える。だがフィーネはそうではない。
同等レベルの三人の冒険者に追われればそのまま犯されてしまうだろう。一人くらいは返り討ちにはできるだろうが多勢に無勢だ。拘束されればどうしようもない。
もしくは相手に魔法使いが居ればどうだろう。拘束魔法がある。調合師が居れば違法薬物である筋弛緩剤を作ることもできる。
(うん、やっておいてよかったな。ランクはどうでもいいがこれで有象無象が絡んでくることはないだろう)
ジンは満足して帰路についた。フィーネの熱い視線を浴びながら。




