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廃課金ゲーマー、ゲーム世界に転生してガチャを引く  作者: 柊 凪


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8/8

008

「いらっしゃいませ~。お二人様ですか?」

「あぁ、個室で頼む」

「待ってくれ」


 陸の鯨亭についてなかなか可愛い看板娘と話していると、フィーネがインターセプトしてきた。何事かと言うと個室は高い。

 ジンは金貨と大銀貨を持っている。更にフィーネも金貨五枚を貰っている。ハーラルの本気が伺える。

 陸の鯨亭の値段を考えれば数ヶ月は働かなくても問題ないレベルだ。


「ダメだ。贅沢は身を滅ぼす。実際コマイ村は一度滅びかけたんだ。節約しなきゃダメだ」

「節約かぁ。と、言っても大した額じゃないぞ?」


 二人部屋と一人部屋。そう値段は変わらない。だったら個室で良いと思うのだ。だがフィーネは譲らなかった。ついでにアイリスと親交を高めたいのだと言う。


(絶対マスターと親交を高めたいんですよ)

(うるさい、わかってる)


 そう思いながらもジンは諦めてツインの部屋を取った。八畳くらいの広さでベッドが二つ。机が一つある簡素な部屋だが清潔でしっかりとシーツが張ってある。


「窓ガラスがあるんだな」

「当然だろう。錬金術師が作っているからな。そうそうあるものではないけれど、このレベルの宿なら必ずある」


 ジンは少し考えて聞いてみた。


「フィーネはこの街に来た事があるのか?」

「お兄ちゃんが出てくる時に一緒に来た事があるくらいかな? あと買い出しにゾブイと一緒に何度か来た事があるわ。コマイ村に来る行商人が持って来ない必要な物とかあるからね」

「そうか、行商人だけじゃ賄えないものな」


 フィーネはコマイ村にずっと居たと思っていたが違ったらしい。まぁそれなら良い。ベッドもダブルだと流石にだがツインできちんと離れている。

 井戸もあって水浴びもできる。アイリスも姿を現してパタパタと嬉しそうに飛んでいる。


(悪くないか)


 ジンはそう判断して諦めた。



 ◇ ◇



 ジンたちは夕食までの時間買い出しに出ることにした。今は鍛冶屋にいる。装備の更新は必須の作業だ。村にあった剣は村にしては……と、言うもので本気の剣士が振るうには足らなすぎる。


「武器はこんなものか。鋼の武器は高いな」

「高いよね~。だからうちの村は鉄の武器なんだ。ゾブイだけかな。自前の鋼の武器を持っているのは。村の鉄の武器だってお兄ちゃんが仕送りしてくれなきゃ買えないんだよ」


 フィーネは怒ったように言った。

 実際鋼の武器は鉄の武器の五倍くらい違う。鉄の剣が金貨二枚なら鋼の剣は十枚だ。とても手が出せない。

 ただしフィーネの持っている短剣は鋼の武器だ。だからこそオークの毛皮を貫けたと言える。

 それだけでも金貨五枚はする。


(早くマスターに鋼の剣を買ってあげたいです)

(いいんだ。俺なら鉄の剣だけでもやれるとわかったからな)


 ゲームではレベルはなく、スキル熟練度だけあった。そして熟練度はおそらくMAXだ。感覚でわかる。スキル熟練度はAIによるアシストが入り、その通りに動けば達人のように動けるシステムだ。そしてそのアシストを寸分狂いなくジンは再現することができる。

 ならば短剣だろうがナイフだろうが無手だろうがジンは戦う事ができる。

 ──鉄の剣でもオークを斬り裂けたように。


「それでもこれは欲しいな。これは斬れそうだ」


 ジンは工房に飾ってある中で最も良い剣を手に取った。

 美しい。素直にそう思った。この剣を打った刀匠とうしょうはかなりの腕なんだろう。


「なんだ、ガキか。見せもんじゃねぇぞ」

「いや、親父。いつかは必ずこれを買いにくる。だから取り置いて置いてくれ」

「バカ言ってんじゃねぇ。お前なんかのガキに使いこなせる訳ねぇだろ!」

「ふんっ、これなら鋼の鎧ですら斬り裂いて見せるさ」


 ヒゲモジャのドワーフの工房主が出てきてジンにそう言って来たのでジンは素直にそう返した。それほどの業物わざものだと思ったし、これはおそらくゲーム内で出てきた鋼の長剣〈極〉だと思うのだ。

 ゲーム内の鍛冶師が作れる中でも最高峰の業物だ。これがこんな最初の街に売っていることすらおかしいと感じる。これがゲームと現実リアルの差かと思った。


「おう、そんなに言うならやってみろ。コレは儂の最高傑作じゃが相当の剣豪でも鋼の鎧は斬り裂けん。この街の冒険者にソレができる者など居らん。本当にそんなことができるならばそれを金貨一枚で売ってやる。ただし傷一つでもつけたら金貨五十枚、ビタ一文負けないからな。借金奴隷になってでも返して貰うぞ!」

「ちょっ、ちょっと。金貨五十枚なんて逆立ちしたって出せないよ」

「フィーネ、大丈夫だ。俺を信じろ」


 フィーネは慌てたように言うがジンは落ち着いていた。この剣があればオークなど一刀に伏してしまえる。血脂がついていても問題がないだろう。むしろ血脂がつかない加工までしてある。

 手に取っただけでそれだけの感覚がある。そしてゲーム内の知識が正しければ、スキルレベルMAXならば通常斬り裂けない鋼の鎧さえも斬り裂くのだ。



 ◇ ◇



 ザンッ。


「うそっ」


 フィーネは信じられなかった。鍛冶屋の試し切りをする場所に鍛冶師が鋼の鎧をセットした。当然それは売り物だ。金貨三十枚。鉄の剣だけでなく鋼の剣でも傷一つつけるのがギリギリの筈だ。

 だがそれをジンは一閃して斬り裂いてしまった。


「そうでしょうそうでしょう。マスターは凄いのです」


 アイリスがない胸を張っている。

 この目で見た筈なのに信じられない。それは鍛冶師の棟梁も同じようだった。


「まっ、まさかっ。剣聖並みの腕じゃぞ。鋼の鎧と鋼の剣。どちらが厚いと思っちょる。それを剣に傷一つつけず斬り裂くなど神業じゃ。この目で見たのじゃが魔法でも使ったのかと思ってしまうくらいじゃ……」

「どうだ。爺さん。やれるだろう?」


 ジンは自信満々にどうだと振り返った。


(かっこいい)


 フィーネはジンに惹かれている自覚があった。ゴブリンの襲撃で命を救って貰った事。ゴブリンの集落を怪我一つなく壊滅させたこと。そしてフィーネが冒険者になる為の一助となってくれたこと。


 様々な理由があるが、フィーネは自覚していなかったがフィーネは強い男が好きなのだ。

 自分を守ってくれる男。自分より強い男。そしてそんな男は自身の兄しかいなかった。

 故に恋に落ちる事などなかったのだ。


(もしかして、これが恋?)


 フィーネはその感情が正しいかどうか理解できなかった。だが恋に近いものであることを感じていた。

 心臓がドクドクと跳ねている。顔が熱い。耳が赤くなっている。


「フィーネさん、マスターは格好いいでしょう」

「そ……、そうね」


 フィーネはアイリスがドヤ顔で言ってくるのにギリギリで返した。それどころではなかったのだ。

 そんなことをしているうちに工房主のドワーフとジンはすっかり意気投合していた。


「どうだ、やっただろう」

「うむ、見事にやり遂げたな。これならばこの剣を使うのを許そう。金貨一枚の大盤振る舞いじゃ。持ってけ泥棒」

「有り難く貰っておくぜ」


 そう言ってジンは鋼の剣を自身の剣帯に差した。


(きゃ~~~っ)


 似合っている。あれほどの剣がジンの腰に刺さっているだけで格好良い。

 そう思ってしまったがフィーネはその感情に蓋をすることにした。

 色恋などにかまけている暇はない。これからジンと冒険者として大成し、村に仕送りをし、迷宮を攻略するのだ。


(お兄ちゃんにも会いたいしね)


 フィーネはそう思いながら赤くなった顔を手で仰いだ。




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