010
「じゃぁやるか。D級になったけれど、まずはF級のクエストから受けていこう」
「えぇ、わかったわ」
ジンは慎重に一番下である近くの森にある薬草採取からやることにした。
ただこれは二つアドバンテージがある。薬草の種類、採り方など全て知っている事。値段すらわかっていること。採取ポイントがわかっていること。
更にアイリスが鑑定をし、一緒に薬草を見つけてくれることがあるからだ。
薬草を採れるポイントにはゴブリンや角ウサギが出るが、その程度ジンとアイリス、フィーネの三人では十体同時に出てきたとしても問題はない。
フィーネは高いポーションを五本も持っていて、怪我をしたとしても骨折や部位欠損しない限りは大丈夫だ。
更にジンはフィーネに怪我をさせるつもりがない。預かったからにはできるだけ守ろうと決めていた。
「マスター、そこにサクラダ草が生えていますよ」
「よし、採って行こう。フィーネ、警戒を」
「はいっ」
そういう感じで警戒を交代しながら薬草を採取していく。アイリスが見つけてくれるのでスムースだ。採取ポイントを初めて来た筈のジンが把握していたのもフィーネは驚いていた。
だがそれもジンだから……と諦めていた。
何があっても驚かないと心の中でフィーネは決めていたのだ。
「よし、これだけ集めればいいだろう。角ウサギも三匹、ゴブリンが八体。怪我なく倒せた。これで一日分の宿代と食事代くらいにはなるだろう」
「なるどころじゃないよ! こんなの三日分か五日分の薬草採取量だよ。明らかに目立つよ!」
フィーネが驚いたように言うがジンにとってはこの位当たり前の採取量だ。むしろ少ないまである。
武器は新調できたが防具が新調できて居ない。更に冒険者ランクもC級、できればB級までしておきたい。
ただこれは受付嬢に聞いた所数年単位掛かるのが通常らしいので、ヤナイの街では難しいだろう。
F級からD級への昇格も最短で半年らしい。D級までは実力のある者が下の階級に居ると依頼の取り合いになってしまい、弱い者が虐げられてしまうのでD級まではさっさと上げてしまうのが慣例らしい。
「よっ」
「おっ、おつかれさん。いきなりD級の冒険者証を見せてきてびっくりしたぜ。特例ってやつだよな。お前は他とは違う奴だと最初から俺は思っていたぜ」
「はははっ、そうは言っても今日は銀貨はないぞ」
門番とジンが笑いながら言いあう。冒険者証を持っていれば入場も出るのもタダでできる。元々入場料が掛かるだけで出るのはただなのだが、憲兵に手配などされていることがあるのでチェックされるのだ。
「今日は豊作だったな」
「えぇ、流石はジンね。まさか採取ポイントまで知っているとは思わなかったわ。……何者なの、貴方は」
「それは……、そのうち話すよ。だから待っていて」
「わかったわ」
フィーネは少しだけ拗ねたようにして答えた。やはりジンの生い立ちは気になるのだろう。そこら辺は街に着くまでにも何度か話し掛けられて躱している。うまく説明できないからだ。
(本当になんて説明すれば良いんだ? ゲームの世界にアバターで転生した? 有り得ない。うまく説明できる気がしないな)
「おう、来たな」
ガロードが冒険者ギルドで待ち受けていた。行きは受付嬢だったのだが呼ばれたらガロードの元へ向かわない訳にはいかない。目がこっちへ来いと言っている。
実際受付嬢は混んでいるし、時間短縮の為にガロードの元へ行くのが良いだろう。
「ほぅ、薬草の量が多いな。普通の冒険者の三倍くらい採ってきているぞ。更に採り方が良い。どの薬草も必要な部分だけ採っていてそれ以外を採って来ていない。当然全部採り尽くすなんてことはしてねぇだろうな?」
「当たり前だろう。七割採って三割残す。そうしている」
「わははっ、わかってるじゃねぇかっ!」
ガロードは嬉しそうに薬草のチェックをしている。ついでにジンはフィーネに教えて貰った角ウサギの解体や、ゴブリンの心臓近くにある魔石の取り方を教わった。なんで知らないのかとフィーネは訝しんで居たが、知らないものは知らないのだ。こればかりは仕方ない。
ゲームでは解体スキルで一発だったのだ。
「ほれ、大銀貨二枚と銀貨三枚、銅貨七枚だ。Fランクの採取依頼で大銀貨を稼ぐ奴なんて居ないぞ。と、言うかDランクなんだからDランクの依頼を受けろ。Fランクのひよっこが困るだろうが!」
「まずはFランクの仕事がどんなものか知りたかったんだよ。知らずにやっていったら基本のきが抜けてしまうだろう」
「ちっ、可愛くない奴だ。普通の奴はDランクから始まったら喜んでDランクの依頼を受けて稼ぐぞ。だがその考えは正しいから文句も言えん」
ガロードは苦虫を噛み潰したような表情をしてジンに言った。
フィーネはなぜDランクの依頼からしないのだろうと思っていた。だがジンは思慮深く考えていたのだ。
〈フィーネの好感度が一上がった〉
幾度も出てきたポップだ。こんなところがゲームらしい。だがアビスゲート・オンラインでは好感度システムなんかなかった。
故にジンは油断しない。慢心もしない。ゲームの事を隅から隅まで知っていると自負していても、知らないことは山程ある。この新しい好感度システムのように……。
(戦闘だけだと思った方がいいな、ゲーム知識が通用するのは)
ジンはゲームとリアルの違いを痛感し、明日はEランクの依頼を受けようと決めた。
◇ ◇
(凄い)
フィーネは素直にジンの事を思っていた。戦いもそうだが門番とのやり取り、宿でも心付けとして途中で買った飴を看板娘の子に渡していた。そんなことをフィーネは考えたこともなかった。
しかもそれを当たり前のように、スマートにやるのだ。それが格好良く見える。フィーネは実感していなかったが、ジンに対する好感度が一上がった。
(ジンも元は村人だったと言っているけれど絶対違うわ。だってこんな村人見たことないもの。いつか正体を暴いてあげるんだからね!)
フィーネの世界には紳士は居なかった。
村人は農作業に忙しいし、自警団は村を守る事しか見ていない。幾つかの仲が良い夫婦を見たこともあるが、旦那は妻の事を大事にしている様子はそれほどなかった。男尊女卑が強いのだ。それは当然、実家でもそうだった。
ジンの紳士さはフィーネの胸を打った。
「さぁ、行こうか。フィーネ」
「えぇ、わかったわ」
ジンが誘ってくる。手を差し出してくれれば取るのにと思いながらも、ジンが先に行ってフィーネに色目を使ってくる奴らを牽制してくれているのがわかる。
昨日も同じ部屋に泊まって、襲われるのも覚悟していた。男は狼だとハーラルからも兄からも教わっていたからだ。
だがそんなことはなかった。ジンは紳士で、着替える時は外に出てくれたし、水浴びを覗きに来ることもなかった。むしろフィーネが覗きに行きたくなったくらいだ。
ジンが着替える時はフィーネがいいからと言って着替えさせた。
引き締まった肉体。無駄のない筋肉。あれがあの戦闘力の源なのだ。
(よし、絶対いつかジンを落としてやるんだから)
フィーネは猫科の肉食獣のように、ジンにターゲットを定めた。
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