005
「さぁ、行くわよ」
「フィーネ、そんなに今から気合を入れていたら逆に本番で怪我をするよ」
ジンは気合の入ったフィーネに忠告をした。
今日はゴブリンの集落を壊滅させる日だ。その為に自警団団長と四人の自警団が居る。フィーネはなんだかんだ言って同行をもぎ取ったらしい。
ハーラルは本当はもっと人数を出せると言ったがこのくらいの人数が適正だとジンが進言したのだ。その代わり村の精鋭を集めて貰った。
この人数で襲撃したらもしかしたらゴブリンが逃げ出すかもしれない。だが先日の襲撃で怪我人が幾人もいる。ならば少数精鋭で一気に叩く方が楽だし、あまり大人数だと奇襲にならない。
「ジンと言ったか。今回は指揮も任せる。なんでも言ってくれ」
「わかった。と、言っても自分の身を最優先してくれ。ゴブリンやオークの討伐くらいなら俺一人でもできる」
「はっはっは、それは凄い。その自信がどこから出てくるのかは知らないが本気だろうな。ならば安心して任せよう」
自警団の団長だと言うゾブイは笑いながらそう言った。
ちなみにジンの姿は貰った服に革軽鎧。更に鉄の剣とダガーと言う出で立ちだ。盾は邪魔なので断った。
ゾブイ含め他のメンバーも大体同じ格好だ。剣ではなく槍を持っている者もいるくらいか。斥候の男だけは軽装で、ジンの姿に盾を持った形になっている。
(なかなか装備もしっかりしているじゃないか。これなら行ける)
ジンはそう思った。彼らの実力は朝一で軽く手合わせして知っている。精鋭と言うだけあってゴブリン一体など一蹴してしまえる実力がある。先日の襲撃は相手が多かった為に被害が大きくなってしまったのだろう。
更にオークになるとそうはいかない。一対一で勝てるのはゾブイとフィーネだけ。そしてジンだけだ。
集落のオークが三体だけとは限らない。ジンは一人で最低三体のオークを相手することを決めた。
「あっちだ」
「なんでわかるんだ?」
ジンは森の中でゴブリンの集落の方向を指指した。斥候の男は自分ですらわかっていないのになぜわかったのか聞いてきた。
当然知っているからだ。ゲームであった場所に集落はある筈だとジンは確信していた。間違っていたら間違っていたで良い。斥候の者に足跡でも探させれば良いのだ。
「いいからこっちに行って見よう。間違っていたら探してみればいいだろう? ほら、ゴブリンの足跡もあるしな」
「そうだな、行ってみよう」
フィーネがジンの言う事を信じてくれた。六人は足音を消しながらジンが指指した方向へ向かった。
「本当にあった……」
「マジかよ。預言者か」
「俺にもできねぇよ、どれだけこの森を俺が歩いたと思ってるんだ」
自警団の者たちと斥候の男はゴブリンの集落が有った事に驚いていた。
ジンはゲームと同じ場所にゴブリンの集落が有った事にホッとしていた。ゲーム知識が使える。これは強いアドバンテージだ。
「やるぞ」
「おう」
「俺から行く。着いてこい」
ジンは先頭に立って言った。フィーネも自警団もジンの実力と、実際にゴブリンの集落があったことで信頼があがったのだろう。ジンをリーダーと認めてくれた。
ジンは斥候のジョブに就いたこともある。故にゴブリンたちに気付かれずに近づく事など朝の散歩みたいな物だ。
そしてオークの数を数えた。五体。これなら行ける。逆にフィーネたちは五体もオークが居ることで腰が引けていたがジンがずんずんと進むので着いてきた。
ズブッ。
まずは逸れているオークにバックアタックをする。オークは声も出せずにずずんと倒れ伏した。返り血が吹き掛かるが気にしてはいられない。目だけ瞑って顔に掛からないようにさっと避けた。
「よし、次に行くぞ。あっちだ」
ゴブリンが五体居る。そこに向かい、五回剣を振った。一瞬だった。それだけでゴブリンたちは絶命する。フィーネたちはジンの実力は思っていた以上だと気付いたようだ。
視線だけで信用が上がったのが目に見える。嬉しい事だ。これでフィーネたちはジンの言う事をきちんと聞いてくれるだろう。
「こっちだ」
それを小さく言って六人が移動する。次は十体のゴブリンだった。
「行くぞ。俺が三体ヤる。残りは頼む」
「わかった」
「わかったわ」
ジンは一瞬で三体のゴブリンの首を落とした。血走りをして持ってきた布で剣の血と脂を落とす。剣の質は良くないのでこのままでは次のオークに行けないのだ。
フィーネたちもゴブリンをきちんと処理していた。ただしやはりギリギリだ。フィーネと団長以外はなんとか一撃で倒せているようだ。オークの相手は難しいだろう。
オークは強い。ジンに取っては雑魚だが今の装備では一撃食らうだけで致命傷を喰らう。ジンが早々に死ねばフィーネたちも全滅する。故にジンは慎重に動いていた。
「あっちのオークを先にやろう。そろそろ気付かれる。そうすれば乱戦だ」
全員が小さく頷いた。
オークは二体。流石にこの装備では一瞬で殺す事はできない。故にフィーネに指で指示してゾブイと共にオークと戦うように指示した。
「はぁっ」
裂帛の気合を入れてオークに逆袈裟に斬りかかる。オークの皮膚は分厚い。肉までは斬れるが一撃とはいかない。だが重傷だ。
「ブモォォォォォッ」
フィーネたちももう一匹のオークと戦っている。槍持ちが牽制し、棍棒を盾を二人がかりで抑え、フィーネが短剣で斬りかかる。
ジンは半身になってオークの一撃を躱し、心臓に一撃を入れる。
ズドォン。
オークの巨体が地面に沈み込む。同時にフィーネたちも傷を負いながらもオークを倒せたようだ。
だが当然そんな戦いを繰り広げていたら集落に気付かれてしまう。
残りのゴブリンは四十体弱。オークは二体。それを六人で相手しなければならない。
「疾っ」
一撃で近寄ってきたナイフ持ちのゴブリンソルジャーの首を落とし、近寄ってきていたゴブリンアサシンの一撃を避ける。後ろ回し蹴りを喰らわせ、首の骨を折る。
「はぁぁぁぁっ」
「やぁっ~」
「くっ」
フィーネたちも集まってきたゴブリンたちと戦っている。
ジンは陣形を意識しろと指示を飛ばし、ゴブリンタンクを前蹴りで弾き飛ばす。
フィーネたちは背中合わせで円陣を組み、ゴブリンたちと戦いを繰り広げている。微妙にだが勝っている。ただこのままだと疲労と剣についた血や脂で危ないだろう。ゲームとリアルの違いが大きいと思った。
「やるか」
ジンは本気を出すことにした。今まではどこまで動けるのかわからなかったのだ。だが感触は掴んだ。これならいけると確信した。
剣に付いた脂を拭き、地面に穴が空くほどに足を踏み込む。
〈瞬歩〉。
一瞬で五メートルは移動し、フィーネを狙っていたゴブリンの背中から心臓を貫く。同時に右側にいたゴブリンを蹴りで飛ばし、近寄っていたゴブリンアサシンを足払いで転ばせ、止めを刺す。
「助かった」
「あの数はヤバイな。ゴブリンとは言え油断できん」
「まだだっ、あと三回はあるぞ。あとオークも居る。油断するな。オークは俺がやる」
ジンはそう言って近寄ってきていたオークと対峙した。
オークは棍棒を振り上げる。瞬間、震脚を使い、剣を万歳の状態になっているオークの心臓を貫く。オークは声を出す事なく前に倒れてきたので避けた。返り血は流石に避けられない。
「次」
近寄ってきていたゴブリンを三体薙ぎ倒す。
フィーネたちにも指示を出しながらゴブリンたちを鎧袖一触とばかりに倒していく。都度剣の脂を拭かなければいけないのがもどかしい。ゲームにはこんな仕様はなかった。更に剣が草臥れている。
「オークはあと一体か。ゴブリンたちは任せても大丈夫だろう」
「任せてくださいっ」
ジンは呟くとアイリスがオークの前に飛び出した。
何をするのかと思うとカメラのフラッシュを思わせる光が届く。ただし前面にだけ出したようでジンの目は焼かない。
目を焼かれたオークは棍棒を振り落とし、目を手で覆って暴れている。
「ナイスだ、アイリス」
「今です、マスター」
アイリスの機転により、楽に倒せるようになったオークにダガーを抜き、頸動脈を斬り裂いた。ついでに近寄ってきたゴブリンたちを斬り裂く。
そして戦いは終わった。
フィーネたちを見てみると二十体以上のゴブリンの死体が転がっていた。負傷している者はいるが死者は居ない。一部のメンバーは骨を折っているようだがそのくらいは安い物だろう。
「助かった」
「いや、いいさ。報酬は貰えるんだろうな?」
「当然だ。父上から搾り取ってやる。これで村も一年は安泰だろうからな」
フィーネとジンは血塗れの状態で笑いながら拳をゴツンと当てる。
そしてジンたちはゴブリンの集落の跡地を焼き払い、村へ帰るのだった。
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