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(そこそこ美味いな。こういうのは大概舌の肥えた日本人には合わないんだが日本のゲームが元だからか? それにオーク肉は抜群に美味いな)
ジンはハーラルの好意で食事をしていた。
村人は逞しく、オークをその場で解体して各家庭に配っていた。ゴブリンはまずくて食べられないらしい。
そしてジンが村に来る前に何をしていたのかと聞かれて、旅人だが戦っている最中に荷物を途中で落としてしまったことにした。
苦しいかと思ったがなんとか通用した。むしろ同情されたくらいだ。
幸いな事にジンが倒した魔物の魔石代、更に持ってきた角ウサギも買い取ってくれ、更に追加報酬を頂けた。その値段大銀貨五枚と銀貨七枚。銅貨は端数として切り上げてくれた。
これで次の街に行った時に二週間くらいは暮らせるそうだ。有難い限りである。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「それは良かったわ。客間があるから今日はそこに泊まって頂戴。それにしても本当に良かったの? ゴブリンの集落なんてCランクの冒険者の、しかもパーティに頼むような依頼よ」
フィーネが心配そうにジンを見つめてくる。ここは自信満々に返すべきだとジンは思った。即答することにする。
「大丈夫だ、問題ない」
「そう、そう言うなら止めないわ。でも絶対私も一緒に行くから」
フィーネはなにかを決意したように言った。そしてジンに部屋を案内して去ってしまう。
フィーネが集落討伐に参加するのは村長の娘ということでそこは難しいだろう。ただゲームではフィーネは冒険者をやっていたのでフィーネが冒険者になるというのは既定路線と言うことになる。
それを今のハーラルが認めるかどうかは怪しい所だがいずれフィーネは押し切るだろう。
それにフィーネの戦闘を見たがゴブリンアサシンにやられそうになったこと以外はかなり動けていた。なにせ短剣だけでオークを倒していたのだ。それだけのセンスと努力の効果があるのだ。
オークはジンに取っては単体では楽勝の魔物だったが、この世界では脅威に値するらしい。
そりゃそうだ。二メートルを超える長身に百キログラムを超える体重。更に硬い毛皮で身体が守られていて膂力は同じサイズの人間以上にある。
更にどうやって作ったのか、結構なサイズの棍棒まで持っている。
「あいつらの武器ってどっから出てくるのかな」
「それは気にしない方がいいですよ、マスター。ゲームの仕様です」
百二十から三十センチメートルくらいのゴブリンでも村人には脅威なのだ。
なにせ彼奴等は本気で殺しに掛かってくる。模擬戦ならともかく、なりふり構わず本気で殺しにかかって来る小学生中高学年だと考えればいいだろう。
それは普通に怖い。しかもなぜか武具を持っている。あれもアイリスの言う通りゲームの仕様なのだろう。普通のゴブリンが鍛冶をする筈がないのだから。
「ただあの程度問題なかったな。ちょっと違和感はあるが」
アビスゲート・オンラインではPvPでもボス戦相手でも、ジンは世界でナンバーワンだった。プロチームからお誘いが掛かる程だ。
実際仕事を辞めてプロゲーマーになろうかと思っていた所だった。
そのジンのプレイヤースキルは今もジンの身体が覚えている。どう動けば良いのか、相手がどう動いてくるのか。そのすべてを記憶していると言って良い。そしてゴブリンもオークもその知識が使えた。故にゴブリン相手でもオーク相手でも鉄の剣で戦えたし、ゴブリンの集落の討伐を受けようと言う気になったのだ。
「よし、今日はやることもないし少し疲れたから寝るか」
「それが良いかと思います。今日は濃い一日でしたしね。休息はどんな戦士にも重要ですよ」
幸い粗末とは言えない程度のベッドがある。コレもゲームの影響だろう。触ってみるとスプリングではないがなかなか寝心地も良さそうだ。
くれると言った服もなかなか着心地が良い。それもゲームの影響だろう。
中世ヨーロッパを舞台にしたアビスゲート・オンラインだが前期中世ヨーロッパにこれほどの技術はない。思っていた以上に文明が発展している。
「でも食事は普通に嬉しいな」
「美味しそうに食べてましたものね。私に出してくれたものも美味しかったです」
本気で中世ヨーロッパを再現されていれば黒パンにスープが精々だろう。だが白パンにスープだけでなく、肉野菜炒めが出てきたのだ。更に醤油らしき調味料の香りがした。これは日本のゲーム会社が作成したのと、調理士のジョブで作れる料理の影響だろう。
そんなことを考えていたらジンはすやぁとベッドの上で寝てしまった。
◇ ◇
「絶対に行くわ。そしてジンと一緒に街に出て冒険者になる。それは決定よ」
「しかし……」
「しかしもカカシもないわ。もしそれを阻止すると言うならお父さんを再起不能にしてでも出ていくからね」
村長のハーラルは本気で困っていた。可愛い愛娘のフィーネ。その子のやんちゃが過ぎるのだ。
はじめは簡単な事だった。五歳のフィーネが自警団の訓練を見て興味をしめしたのだ。
本来は許さなかったがどうしてもと言うので訓練を積む事を許した。兄がやっていたと言うのも大きいだろう。
そしてそれが間違いだった。
フィーネは天才だった。十二歳になると自警団で誰も勝てなくなった。
自警団の団長は元冒険者だがアレは冒険者としても大成すると太鼓判を押してくれた。
だがそれだけではフィーネは冒険者になるとは言わない。フィーネはこのコマイ村を愛し、コマイ村を守る事だけを考えていればよかったのだ。
「はぁ、まぁ気持ちはわかるがな」
「わかってくれるの!?」
「理解するのと許可するのでは全く違う!」
ハーラルははっきりと宣言した。そして話はここで終わりだと言ってフィーネを部屋に帰らせた。当然フィーネは仏頂面だったがこればかりは仕方ない。すぐに決められるものではないのだ。
元々フィーネは村の有力者の息子の誰かと結婚させるつもりでいた。そしてフィーネもそれを受け入れてくれていたと思う。村を出ようなどと考える子ではないのだ。
「はぁ、そうは言ってもアレは聞かんだろう。幸いジンくんと言う有望な護衛が居る。彼と一緒だったらフィーネも安心だろう」
ジンの実力は直接その目で見ていないが、自警団の団長からお墨付きを貰っている。フィーネ以上の実力があると確かに言い切ったのだ。そしてジンにフィーネの護衛を依頼すればフィーネの安全性はより高まるだろう。ならば断る理由はない。
もともとの問題は隣村の村長の息子がフィーネに懸想したことにある。そしてその村長の息子は評判が悪く、更に見た目もお世辞にも良いとは言えない。
だが村としての立場は隣村の方が若干強い。ハーラルも娘が嫌だと言っているので受けられないとは簡単に答えられない。
ならば娘の幸せを考えるのならば勝手に冒険者になると言って家出してしまったと言うカバーストーリーは苦しいながらも使える。
(フィーネ一人なら心配だがジンくんがついてくれると言う。そこに期待だな)
ジンはゴブリンだけでなくオークも難なく倒したと言う。更に余裕そうにゴブリンの集落の討滅の依頼も受けてくれた。しかも見目も良い。性格も良さそうだ。少なくとも隣村の村長の息子に渡すよりはよっぽど親としては安心だ。
「それに確かに村の運営資金は足りていないんだよな」
「貴方、そんなことをフィーネの前で言ってはいけませんよ」
妻からはそんなことを言われてしまう。だが次男が冒険者になり、村に仕送りをしてくれている。これがバカにならない金額だ。これで毎回自警団の装備を更新し、なんとかなっていると言う現状がある。
昔はかなり死者も出たが今回も出なかった。次男が出ていった事は痛いが、結果的にはおそらく被害は次男が出ていかなかった時よりも少なくなっている。
そしてフィーネは次男よりも才能がある。すでにフィーネの方が強いかもしれない。冒険者になればより稼げる可能性があるのだ。
「仕方ない、ゴブリンの集落の依頼の完遂次第でジンくんに託すか」
ハーラルは妻の手を取り、二人でこくりと頷いた。




