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廃課金ゲーマー、ゲーム世界に転生してガチャを引く  作者: 柊 凪


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003

「いや~、びっくりでしたね」

「あぁ、いきなり襲撃イベントとはな」


 井戸で返り血を落としながらアイリスと会話をする。

 服についた血はもう落ちないだろう。それほどの血を浴びた。幸いフィーネが代わりの服を用意してくれるらしい。有り難く貰うとする。


(あの斬った肉の感触は慣れないけれど……戦える!)


 思った通り身体が戦闘を覚えているように動くことができた。

 まだ多少違和感はあるが、ゴブリンやオーク程度では問題ない。むしろより強い相手でも渡り合う事ができるだろう。ゲーム内の全盛期、PvPで世界一位を取って居た頃には流石に遠く及ばない。だが十分に戦闘を行うことができる。そういう感触を感じた。


「でもこれアレだよね」

「そうですね。始まりの村のイベント、ゴブリンの襲撃を撃退せよですね」

「何ウェーブ目かは知らないけれど、根本を絶たないとどうしようもないね」


 始まりの村と呼ばれるコマイ村は不定期にゴブリンの襲撃を受ける。それは森の奥にあるゴブリンの集落から巣分けされたゴブリンが村の方向に向かってきた時にぶつかるからだ。根本となるゴブリンの巣。それを壊滅させなければゴブリンの襲撃は続くだろう。


 そして村長の要請を受けてゴブリンの集落を壊滅させるクエストがある。やらなくても問題はないが、戦闘のチュートリアルのようなものなので大概のプレイヤーがやる。


「フィーネにはお世話になったしなぁ。力になりたいな」

「そうですね」


 ゴブリンの集落を壊滅させて村が安全になると、フィーネは街に出て冒険者になる。そして時折助っ人NPCとして助けてくれるのだ。村の壊滅を助けてくれたお礼として。

 そういう意味でもこのクエストは人気が高かった。スルーすると人気NPCのフィーネともう再会することはない。


「それに……」


 続きは言わなかった。

 このままゴブリンの襲撃を受け続けていたら、いつかコマイ村は壊滅してしまうのではないのだろうか。その心配がある。


 始まりの村。その名の通り初期以外に使うプレイヤーは少ないがそれでも愛着はある。

 それにココはゲームのようでゲームではない。ただ平和に暮らしたい村人たちの暮らしを、この力があれば守れるのではないか。ならば守りたい。ジンはそう思った。正直下心も少しだけある。


「ジン、服を用意したぞ。あと食事がもうすぐできる。食べていってくれ」

「あぁ、わかった。フィーネ、ありがとう」

「うん、待ってるぞ。あそこの一番でかい家だ」


 イベントについて考えているとフィーネが着替えを持ってきてくれた。

 石鹸でもあれば良いのだがそんなものはない。冷たい井戸の水で返り血を必死に落とし、タオルで水気を拭き取り、フィーネが用意してくれた服を着る。初期装備であったペラッペラの服よりは厚みがあり、良さそうなものだった。


「行くか。そういえばアイリスは攻撃とか補助とかできないのか?」

「えぇと、妖精魔法を覚えればマスターの力になれると思いますよ。簡単な物ならば使えますが攻撃力のあるものは覚えていません。あと小さいですがアイテムボックスがあります」

「あるのか!? 中身が入ってたりは……しないか。してたらとっくに渡してくれているものな。それでも話し相手がいるってだけで助かってる。それにそのうち妖精魔法の魔導書を手に入れよう」

「はいっ、ありがとうございますっ! マスター!」


 ジンとアイリスはフィーネの家にじゃれあいながら向かった。



 ◇ ◇



「私、冒険者になる」

「ダメだ」

「嫌よ。なると決めたの。兄さんだってそうしてる。私は戦う力がある。それに村に仕送りできれば村が潤う。少なくとも自警団に混じって私が戦うよりはね。実際兄さんの仕送りで村の自警団の装備を整えてなんとかやっていけてるじゃない」

「ぐっ、それはそうだが……。フィーネはなまじ強いから反対もできん。だが親心としてはダメだとしか言えん」


 ジンが言われた家に近づくとそんな声が聞こえた。

 流石に入るタイミングではなかったので落ち着くのを待ってノックをする。すると「は~い」と返事が来てフィーネがドアを開けてくれた。


「いらっしゃい。貴方は村の救世主よ」

「大げさだよ」

「いいえ、そうでもないわ。本来今回の襲撃で死者が出ててもおかしくなかった。そのレベルでヤバかったのよ。それなのに重症者が出ただけで済んでる。これだけで十分感謝する理由にはなるわ」

「そうか。感謝は受け取る。ただ俺は事情があって一文無しなんだ。多少の謝礼をしてくれると助かる」


 ジンがそう言うとそれはわかっていると言う表情でフィーネが頷いた。


「ジンくんと言うのかね。先程は本当に助かった。私は戦えないがこの村の村長をしているハーラルだ。そして村人は村の財産だ。フィーネはもちろんのこと自警団に死者が出なかったのもジンくんが加勢してくれたからだとフィーネから聞いている。改めて感謝を。もちろん謝礼もさせてもらう」

「えぇ、俺にはそれなりに力があります。困っている人が居れば助けるのは吝かではありません。しかし謝礼は有り難くいただきます」


 ジンは内心でよっしゃとガッツポーズしていた。

 そしてジンの言う事は間違っていなかったが少しだけ事情が違う。

 この世界がアビスゲート・オンラインの世界だと言うのならば善行は確実に影響がある。


 ゲーム内には裏ステータスでカルマ値と言うのがあり、それがガチャの運に影響すると言われていたのだ。もちろん多少の差異でしかないのだが、何百万、何千万円もつぎ込むとなるとその多少もかなり違う。ジンはこの世界にもカルマ値があるものとして、積極的に困っている人は助けようと思っていた。

 どこでガチャができるのかはわからないが、ゲーム内世界だと言うのならばガチャは絶対ある筈だ。


「ジンはお腹が空いているのよね。ご飯、用意したから良かったら食べて行って。あと今日はうちに泊まっていいわ。希望があれば空き家も貸すわよ。タダじゃないけれどね」

「いや助かる。さっきも言ったが無一文なんだ。食事も宿を借りることもできない。どうしたものかと思っていたんだ」

「事情があるって言ってたけれど貴方ほどの剣士が無一文てどういうことなの? 冒険者ギルドに登録して魔物でも狩ればいいじゃない」


 ジンは少しだけ考えて答えた。


「そうするつもりだよ。ただ街に入るのに通行税などが取られる可能性もあるだろう? ギルドの登録料も払えない」


 ジンが答えるとハーラルがフィーネに向かって口を開いた。


「フィーネ、ジンくんの能力はそんなに高いのかね?」

「見た感じだけれどうちの自警団は誰も相手にならないでしょうね。近隣の村で最強だった兄さんでも勝てないわ。それほどの隔絶した差があるわ。何人かうちに来た冒険者たちでも太刀打ちできないと思うわ」

「……そんなにか」


 ハーラルの問いにフィーネが素直に答える。


「それならゴブリンの集落の討伐を手伝ってくれないか。もちろん依頼料は払う」

「お父さんっ!」

「ジンくんほどの戦力がうちの村に来ることはない。呼ぶだけの金もないことはないがギリギリだ。そして今回ゴブリンの襲撃が来たということは集落にいるゴブリンは少ないだろう。これは大きなチャンスなんだよ」


 フィーネの言葉にハーラルはさとすように答えた。


「いいですよ」


 そしてそのチュートリアルクエストにジンはあっさりと応じたのだった。


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