031
「アイシクルニードル!」
「アイリスちゃん凄い!」
迷宮二十七階層。この辺りになると敵も強敵になってくる。
特殊個体オーガ。ハードスネーク。ヴァイパイアバット。それ以外にも蜘蛛型の魔物や植物型の魔物なども出てくる。
ただやはり二十階層台はオーガが主力だ。単純な質量と膂力。それにスピードもある。
そのオーガが何故か盾や剣を持って襲いかかってくるのだ。
ただジンたちはあまり苦戦していなかった。
「ふふん、オーガも頭を狙えば一発です!」
それは前回のガチャで装備が更新されたこと。更にアイリスが戦力になったことが大きい。
アイリスのアイシクルニードルは投げナイフよりも早く、更に貫通力もあった。魔銀の剣でも斬り裂くことが難しいオーガの毛皮も針のように細いものには弱いらしい。
アイリスはオーガの脳がある部分を狙い、アイシクルニードルを放つ。それは毛皮だけでなく頭蓋も貫通し、脳を破壊するのだ。
「妖精ってすげぇな。間違っても敵対しちゃダメだ」
「そうね。姿を消せて魔法が放てるだけでも問題なのにあのサーベルはヤバイわよね」
カインとトトリがアイリスを見ながら言う。
そう、金ガチャで出たサーベルだ。妖精サイズと侮るなかれ、そのサーベルには特殊効果がついていた。
簡単に言えば斬撃が飛ばせるのだ。ただそれもただの斬撃ではない。最初は数センチメートルしかない斬撃はだんだんと大きくなっていき、トトリの放つ風刃と同じくらいのサイズになる。
これはオーガを一撃で倒す事は流石に出来ないが、肉まで斬り裂くことができる。
「アイリスも一端のパーティメンバーだな」
「ふふん、マスターの御役にやっと立てました」
「いや、今までも十分たってたぞ」
ジンのものだと偽っているアイテムボックスはアイリスの能力だ。それだけで迷宮から持って帰れるものの数が倍増する。
ジンたちは荷物持ちを雇っていないが、本来は荷物持ちを雇い、彼らにドロップアイテムなどを持たせて探索するのが迷宮探索の基本だ。それがジンたちのパーティには必要ない。それはかなりのアドバンテージだった。
「ジン、また新しいお客さんよ」
「よ~し、頑張りますよ~」
「アイリス、魔力はまだ大丈夫か?」
「まだまだいけますよ~」
アイリスのサーベルも魔法も魔力を使うものだ。ここは二十七階層。油断して良い場所ではない。
「こいつらを倒したら一度休憩を挟もう」
「さんせ~い」
新しく来たオーガとダークタランチュラ、それらを倒したら一旦セーフエリアで魔力を回復し、食事や仮眠なども取る。
そうでないと三十階層など夢のまた夢だ。今はまだ余裕がある。だがその余裕が命取りになることもある。
フィーネもカインもトトリも、まだオーガの特殊個体に慣れてきたばかりだ。被弾もそこそこある。こればかりは仕方がない。ジンだって避けきれないことがあるのだ。
「ジン、右を頼んだ」
「わかった、カイン」
新しい矢筒を使ったトトリが援護射撃をしてくれている。アイリスも可愛らしく「えいっ、えいっ」と言いながらサーベルを振っている。
二つの遠距離攻撃でオーガたちは近寄れないでいる。そこに裂帛の気合を入れながらカインが突撃していく。ジンもカインの左後ろについて吶喊した。
戦闘は五分くらいで終わった。無傷とはいかないが、ポーションを飲めば問題ないレベルだ。
「さて、休みましょうか。早くしないと次が来ちゃうわ」
セーフエリアには誰もいなかった。たまに他の探索者とバッティングすることもある。
「アイリス、姿を現していいぞ」
「はいっ」
アイリスはギルドにも秘密なので他の探索者がいたら姿を現せないのだ。
新しくガチャで出た青い色の服を着て、腰には小さなサーベルが刺さっている。これで投げナイフよりも速いアイシクルニードルを放つのだから手に負えない。何せ姿も消せるのだ。
気配でアイリスの場所がわかるジンでも苦戦する予感がある。
「アイリスちゃん、ご飯にしましょう」
「私も手伝います」
「俺は待ってるぜ」
料理のできないカインは二人が料理を作るのをじっと待つ気配だ。
ドサドサドサとジンはアイテムボックスから食材を取り出させ、フィーネとトトリが料理をしていく。
「迷宮で温かい料理が食べられるのは良いですよねぇ」
「ほんとそう。乾燥パンなんてもう食べられないわ」
フィーネは最初からジンとともに迷宮に入ったが、トトリたちはすでに迷宮に潜っていた。迷宮内で温かい、きちんとした食材の料理が食べられることはカインとトトリにとっては望外のことだったのだ。
ただジンは最初からアイテムボックスは隠してなかったので、このパーティでの食事は常に温かく、美味しいものになっている。
「美味しいですぅ」
アイリスも妖精用の特注の小さな椀を持って出来たスープを食べている。ジンやカインも自分たちの椀に注がれたスープを食べる。
「ふぅ、魔力の回復も早くなっている気がするぜ」
「まぁそれは気の所為だろうけどな」
食事をとっても魔力は回復するが、乾燥パンと温かい料理でそれほどの違うがある筈がない。ただカインがそう思うならそう思っていけば良いと思った。
「さて、ちゃんと休むぞ。女性陣と男で二交代だ。先にフィーネとトトリが休め」
「はいっ」
食事を終わらせ、ジンたちは二交代で休憩を取ることにした。
◇ ◇
「だんだんきつくなってきたわね」
「階層が上がる毎に敵が強くなってきますからね」
一戦終わった後でフィーネとトトリが埃をはたく。カインはオーガの攻撃を避けた際に芋虫型モンスターの糸に絡め取られて危険に陥った。ジンがそのオーガを斬り伏せた為に問題なかったが、命の危機であったことは間違いない。
「もうすぐ三十層だ。もう少しだぞ」
「そうね、矢を多く持ってきて正解だったわ。魔法の矢筒最高ね」
「魔銀の短剣も予備があってよかったです。一本はもう研がなければ攻撃力がありません」
「俺の剣も研ぎたいな。予備の片手剣がなかったら危なかった場面も多かった」
もうダンジョンに入って一週間。二十五層から一階層ずつしっかりと上がってきた。日の光が懐かしい。ダンジョンは淡く発光はしているがやはり日光とは違う。
ジンは、いや、他三人もアイリスも早くダンジョンから出たいと思っていた。
「よし、魔力は回復したな。三十層は最短で攻略するぞ」
「わかったわ」
「三十層もきちんと攻略して行こうぜ」
「矢も魔力も十分にあるわよ」
ジンは手書きのマップを取り出した。十五層まではカインたちが地図を持っていたが、それ以降の地図は持っていない。ただジンの頭の中には全て詰め込まれている。
パーティの構成としてフィーネが先行するので地図の共有は必須だ。ジンが毎回指示していてはパフォーマンスが十全に発揮できない。
故にジンは手書きの最短距離、隠し扉、隠し階段などを書いた地図を共有していた。
「こっちだな」
「行きましょう」
「待って待って、ちゃんと索敵するから」
先に進もうとするカインとトトリを止めて、フィーネが先にでる。
アイリスは攻撃魔法は覚えたが索敵系の魔法は覚えなかった。故にジンの近くを飛んでいる。
ジンはパーティの中では中衛に当たるので先に出る訳にはいかないのだ。
「前方に敵がいるよ。おっきなの四、小さなのが三」
全員が武器を構える。トトリは魔法を唱えている。もう一週間もダンジョンにいるのだ。全員の連携もよく取れるようになった。
これなら行ける。目的地はもうすぐだ。
戦闘を終えて、次の順路に続く。ダンジョンは階層が深くなるほどに広くなっていく。故に三十階層も簡単に攻略はできない。合間に休憩を入れ、隠し部屋の宝箱に歓喜し、時に危険に陥りながらも先に進んでいく。
「ついたー!」
三十階層の転移陣の周りには多くの探索者がいた。彼らはこれから三十階層や三十一階層を探索するのだ。
新しい三十階層攻略者が現れたことに彼らは好奇の目で見ている。
最近はジンたちも大量に素材を納品していることを見られているので有名になってきている。
「さて、本来の目的はこの階層にあるんだが一度地上に戻ってゆっくり休もう。しっかりと準備しないと危険だからな」
「そういえばジンは三十階層に用事があると言ってたな。なんなんだ?」
「それは秘密だ」
クリスタルのことは世界に関連する内容だ。他の探索者が耳を欹てている中で話すような内容ではない。
「さぁ、帰ろう」
ジンが率先して転移陣に乗ろうとした瞬間、またゾワリとした視線を感じた。




