028
「トトリっ」
「わかってるわっ。風刃乱舞!」
二十を超える風刃がオーガたちに嵐のように向かっていく。
ここは第十九層。十六層からオーガとの対戦を幾度も繰り返し、ジンたちパーティも慣れてきていた。
風刃でズタズタにされた右二体のオーガをカインが受け持ち、左にはフィーネが弾丸のように短剣を構えて飛びかかる。
「オーガだけではないのが面倒だな」
トトリを狙っていたハイドスネークの首を落としながらジンは二人の戦いを見ている。狙われていたことに気付かなかったトトリは驚き、ジンの傍によってきた。
「トトリ、カインが戦っている片方、狙えるか?」
「やってみるわ」
カインが相手していない側のオーガに風弾が当たり、二歩ほどオーガが後ずさる。直接的な攻撃力には乏しいがノックバック効果の期待できる魔法だ。
「助かる」
カインは瀕死のオーガに止めを刺すと、風弾を受けたオーガに向かう。カインの方はもう大丈夫だろうと、ジンはフィーネの戦いに目をやる。
フィーネも一対一ならオーガときちんと戦えるようになっている。最初にあった恐怖心はもうない。
無理に力を入れず、隙を見つけた時だけオーガに短剣を刺し、傷を増やしている。
「あれはあれで可哀想になるな」
「そうね、もう私の魔法でズタズタだったもの」
ハイドスネークに気付かなかったことでトトリは周りを警戒しているが、索敵はまだまだだ。ジンが付いていないと少しこの階層では頼りない。
そうして見ているうちにフィーネが戦っていたオーガが倒れた。
「やった」
トトリが小さくガッツポーズをする。オーガの毛皮がドロップしたからだ。
探索者は基本的に魔石とドロップで生計を立てている。どれだけオーガを倒しても魔石だけだと装備のメンテナンスで圧迫されてしまう。
オーガの毛皮は防具素材にちょうどよく、高く売れるのだ。
「この階層も大丈夫そうだな。次の階層に行くか? と、言っても今日はもうダメだな。トトリの魔力ももうないだろう?」
「そうね、そろそろ休憩を挟みたいわ」
探索者は休める時に休まなければならない。
魔法士のトトリもそうだがジンもフィーネもカインも戦いに魔力は使っている。そしてそれは休まなければ回復しないのだ。
四体までならなんとかなるだろう。だがもし今五体以上のオーガに襲われたら、誰かが怪我を負うかもしれない。
ポーションで治せる怪我であれば良いが、命は一つきりだ。そしてジンはせっかく見つけた仲間たちを失う予定はなかった。
「あの奥にセーフエリアがあるはずだ。休もう」
「うん、わかった」
フィーネはドロップを回収してトテトテとジンに寄ってきた。
〈トトリの好感度が一上がりました〉
またかとジンは思う。出会ってからもう二十回くらいは上がっている。
実際トトリとジンの距離感は近づいている。トトリは恐怖を感じた時カインに守って貰っていた筈なのだが、最近はジンの影に隠れるようになった。
「むぅ」
フィーネがその様子を見て膨れている。
(フィーネの好感度はカンストしているのか?)
最近フィーネの好感度アップの神の声は聞こえてこない。だが好感度がカンストしていると言うほどジンに惚れ込んでいると言う感覚はなかった。
(フィーネもトトリも可愛いは可愛いけどな)
ジンとしては恋愛ごとにかまけている暇がそれほどない。二人とも魅力的な女性だとは思うが、アビスゲート・オンラインがそういうゲームでなかったと言うのもある。NPCは見て愛でるものだったのだ。
それに次元の狭間からやってくる敵。それがいつ地上に顕現するか予想もつかないのだ。
(この世界が本当にアビスゲート・オンラインの世界なら・・・・・・)
常にそれを考えてしまう。好感度システムやステータスの確認ができないなどの齟齬はあるが、ラスボスが変わっていないならば次元の狭間からくる侵略者だ。
今のジンで戦えるのか。否。四人で挑んでも瞬殺されてしまうだろう。
「ジン、テント張って置くぜ」
「応」
カインはジンの悩みなど関係ないように動いていた。フィーネもトトリもセーフエリアで休む為の準備をしている。
ジンも本来手伝わなければいけなかったのだが、それを怠っていた。慌ててジンも手伝いに入る。
(ラスボスが来る前に尖兵が来る。それをなんとか排除できれば・・・・・・)
ジンは夕食の用意をしながらまた考えに浸っていた。
◇ ◇
ゾワリ。
ジンは舐めるような視線を感じた。
今は戦っている最中だ。しかもまだ足を踏み入れたばかりの二十階層。今日でここを攻略して転移陣まで行かなければならない。
「グオォォッ」
「ジンっ!?」
「しまっ」
一瞬の隙。ただそれさえもオーガは見逃さない。ドンと言う強い衝撃が胸を襲う。吹き飛ばされたジンをトトリがギリギリ受け止めてくれた。
「何ぼーっとしてんだ! 今は囲まれてるんだぞ」
「ジンっ、大丈夫!?」
トトリはすでに魔法を幾度も放っている。フィーネは眼の前の敵を牽制しながらジンの心配をしていた。カインは大剣をブンと薙ぎ払い、オーガたちを引き剥がした。
「悪い、気が抜けてた」
「死んだかと思ったぜ」
幸い肋骨に罅は入っていたが、防具がしっかりと役目を果たしてくれた。直撃でなく掠っただけなのも良かったのだろう。
直撃であれば胸骨すらバラバラになっていた。その一撃は心臓にも届いていたかも知れない。
「ジン、大丈夫? 行ける?」
「ありがとう、トトリ。行ってくる」
トトリにポーションを飲まされながらジンは戦線に復帰する。
集中しさえすれば問題ない。眼の前の相手はオーガが三体。カインとフィーネの押さえを抜けてジンとトトリに向かってきている。だがどれも手負いだ。トトリの魔法。ジンのそれまでの攻防。五体満足なオーガは一体も居ない。
(手負いのオーガはオーガで厄介だけれどな)
それでもオーガ本来のスピード、パワーが出せる訳ではない。三体いると言っても連携してくるわけでもない。
一体の棍棒を躱し、同時にデュランダルを振るう。一体目のオーガの首と胴が離れる。
(本気でやるか)
今まではフィーネ、カイン、トトリの成長のために、敢えて力を落として戦っていた。本来のジンならば仮令十のオーガに囲まれても問題はないのだ。
二体目。一体目が瞬殺されたことにより勢いが弱まっている。だがそれは失策だ。そのまま突っ込んで来られたほうが後ろにいるトトリを守らなければならないジンにとってはイヤだった。
「はっ」
瞬歩を使い、間合いを詰める。同時に袈裟に剣を振るう。オーガの左肩から右脇腹に掛けて剣閃が煌めき、オーガの命を奪う。
二体目の死体が消滅する前に蹴りで三体目に向かって二体目の死体をぶつける。三体目は邪魔なものをどかせるようにそれを振り払ったがそれが隙だ。
ジンの渾身の突きが三体目の心臓を穿つ。
「すごい」
トトリは一連の動きを全て見ていた。今までのジンの動きとは明らかに違う。動作は変わらない。単純にスピードと膂力が変わったのだ。
今までは首を一刀両断などしなかった。袈裟掛け一発でオーガの命は奪わなかった。腕や足などに攻撃をし、動きが鈍ったところに止めを刺していた。
ただ今回の動きは違う。全ての一撃が致命傷だ。トトリの魔法の援護など要らないのではないのかと思ってしまう。
(そういえばジンは今まで怪我一つ負わなかった。ジンの本気はどれほどなの? 底が知れないわ)
トトリは血振るいをしているジンを見ながらトクンと心臓がときめくのを感じた。
〈トトリの好感度が一上がりました〉
(今のは何だ? もしかして・・・・・・)
ただジンが考える事は違った。ナニカを見つけたような視線。ジン以外はそれを感じていないようだった。そうでなければフィーネもカインもトトリも何かしら言った筈だ。
(見つかった)
それがジンの率直な感想だった。
尖兵。次元の狭間からの使者はやはりこの迷宮都市にも来て居たのだ。
ただそれも悪い事ばかりではない。
ジンが活躍すれば、目的地である三十階層に近づけば近づくほど相手はジンを無視できなくなる。
フィーネやカイン、トトリも十分に育っている。二十層台でも戦えるだろう。
(行くか)
目的地。三十階層にあるある部屋。そこには地上への転移陣ではなく、この世界の精霊を司るクリスタルのある場所へ導いてくれる転移陣がある。
尖兵に見つかった以上、あまり悠長にはしていられない。
ジンは決意を固め、眼の前に落ちていた金色のコインを拾った。




