027
「オーガとの戦いは初めてか?」
「いや、何回かあるぜ。毎回苦戦してたけどな。やっぱ武器がな~」
ジンの質問に端的にカインが答えた。
二日で十五階層まで踏破したジンたちは今日は十六層に挑む。
目的の相手はオーガ。
ジンやフィーネが特殊個体に当たり、苦戦した相手だ。しかもダンジョンでは群れで出てくる。単体ではないのだ。こちらが四人だとしても侮れない。
「とりあえず連携をしっかり取ろう。指示は俺が出す」
「あぁ、信じてるぜ」
「ジンの言う通り動くわ」
「魔力の限り撃ち続けるわよ」
ジンたちのパーティの戦意は十分だった。
オーガとも戦える。それだけの装備を整えてある。むしろこのために二人は素寒貧寸前まで金銭を使ったのだ。
それももうオークを大量に納品したことで懐も温かい。
予備のポーションも買い、準備は万端だ。
「よし、行こう」
ジンの声を元に四人は十五層への転移陣に乗った。
「転移って不思議よね。少しふわっとするわ」
「魔法も極めれば転移魔法が使えるぞ」
「ちょっと、それ何百年掛かると思ってるの。うちの枝の長老たちですら殆ど使えないわよ」
ジンはふと考える。ゲームならば数百時間で転移魔法がつかえるようになる。実際の人生に直してみたら何年掛かるのだろうかと。
まず魔導士に転職しなければならない。
ジンが元より弱いのはジョブに就いていないからだ。スッピンと呼ばれる状態。剣を使ってはいるが剣士ですらない。魔法もそのせいで使えない。
これはジンにとって最優先に取り組むべき事項だったが、どうすれば良いのかわかっていなかった。
フィーネはレンジャー。カインは戦士。トトリは魔法士の職に就いている。これらは生まれた時から決まっている。
残念ながらジンのジョブチェンジの方法は解明されていない。
いや、ステータス画面さえ出せれば簡単に変更できる筈なのだが、その手段がない。
(教会や神殿で転職できればよかったんだがな)
残念ながら神殿の神官に転職の事を軽く聞いてみたが要領を得なかった。お布施でなんとかなると言う状況でもないのだ。
教会や他の施設でできるならば神官も教えてくれるだろう。
(ギルドに転職の水晶とかあればよかったんだがな)
残念ながらゲーム時代からそんな代物はない。ジョブとはステータス画面で変更するものだったんだ。
「さて、どうするものか」
「どうしたの、ジン」
「いや、なんでもない。とりあえずオーガと戦ってみよう」
ないものは仕方がない。むしろジョブがないのにジョブを持っている人族や獣人の中でも十分戦えているジンが凄いのだ。
十五層を超えて十六層に入る。それまでの戦闘は準備運動のようなものだった。
「オーガ以外も気をつけて行こう」
「索敵は任せてっ」
フィーネは最前線に立って聞き耳を立てる。耳の良さだけで言うならばトトリのが良いのだろうが、トトリは魔法士だ。足音くらいは聞き分けられるが、フィーネのように索敵ができるわけではない。
「来るよっ。オーガ三」
「トトリ、詠唱準備」
「してるわよ」
フィーネが下がってトトリが前に出る。杖を前に出して圧縮された風刃が目視できるほどにできあがっている。
「風刃!」
オーガの一体目が現れた時にトトリは渾身の風刃を放った。
「グォォォォォォォォッ」
オーガも流石なもので、両手をクロスしてそれを防いだ。腕は落ちなかったが、骨まで断っている。もう腕は使い物にならないだろう。
「行くぜっ」
カインがダッシュしてオーガに斬りかかる。新調した魔銀の大剣はオーガの肩から心臓まで斬り裂いた。
「フィーネ、左を頼む」
「うん、わかった」
オーガの数は三だ。ジンとフィーネが一体ずつ相手しなければならない。
一体目が倒されたオーガたちは怒り狂っている。
ずんぐりむっくりとした姿のオーガは、片手に持っていた棍棒でジンを殴り殺そうとしてくる。
(ダンジョンのオーガも一緒か)
オーガの動きの起こり。それは野良のオーガもダンジョンのオーガも同じだった。
ジンにはこれからオーガがどのように動くのかわかる。
ブンと目の前を棍棒が走る。だがそれは一欠片もジンには当たらない。
次に体当たりがくる。それが読めたジンはオーガの足持ちにデュランダルを振った。
踏み込んだ瞬間、オーガの足が千切れる。デュランダルの斬れ味は鋼の剣とは違った。オーガの硬い皮膚も、肉も、骨すらも断った。
横に倒れたオーガの首元にデュランダルを差し込む。末期の悲鳴を上げてオーガの息が止まった。
同時期、フィーネはオーガと戦っていた。
戦い方はヒットアンドアウェイ。以前不覚を取ってからフィーネはオーガとの戦いを望んでいた。
手には魔銀の短剣がある。後ろにはジン、カイン、トトリと言う信頼のおける仲間がいる。
フィーネを掴もうとするオーガの腕を躱して、魔銀の短剣で斬りつける。
(斬れる)
バッと血が吹き出て、肉まで断った感触が手に残る。
これなら戦える。
「フィーネ、右っ」
トトリから声が掛かる。フィーネは言われた通り右に避けた。トトリの火矢がオーガの顔に当たる。それは致命傷にはならなかったが、十分にオーガの視界を防ぐことに成功する。
「ふっ」
フィーネは両手で短剣を構えて思いっきり脇腹に突き刺す。
「グギャァァァァァッ」
オーガの腕が迫ってくる。ダッキングで避けたフィーネはオーガの太ももを蹴って短剣を抜いた。
だくだくと血が流れ、致命に近い一撃を与えたことが見て取れる。
フィーネが離れた瞬間、カインが前に出る。
「おらぁっ」
カインの一撃は残念なことに棍棒に防がれてしまった。だが脇腹の一撃が効いていたのか、オーガの態勢が崩れる。
「カイン、私にやらせて」
「応」
カインはフィーネの意図を汲み取ってくれた。
このオーガはフィーネの獲物だ。以前戦ったオーガとは違う個体だが、オーガはオーガだ。
恐怖心はある。オーガを怖れる気持ちは、あと一歩を遅らせる。それでも。
(ジンに置いていかれたくない)
恐怖を克服し、フィーネは前に出る。
「グルォッ」
オーガの太い腕が迫る。フィーネにそれを防ぐ手段はない。
前のめりになり、一歩前に出て躱す。狙うは心臓。ちょうど見えている。
片手で構えていた短剣の柄に左手を添え、思い切り渾身の一撃を繰り出す。
ずぶり。
オーガの厚い胸筋を貫き、心臓に届いた感触が手に伝わる。
「ウグッ」
オーガの動きが止まり、スローモーションで後ろに倒れていく。
ズドォン。
二百キログラムを超える巨体が倒れ、キラキラとした粒子に変わる。
オーガの皮がドロップアイテムとして残る。
フィーネは残心を取り、他の敵が来ていないかチェックする。
「ふぅ」
倒せた。自分一人の力ではないが、オーガとの戦いを優勢に進められた。怪我一つしなかった。
これはフィーネにとってとても大きな一歩だった。
「フィーネ」
「なぁに、ジン」
「あの戦い方だと次が来た時に危ないぞ」
「・・・・・・うん、わかってる」
恐怖に竦む足を奮い立たせて出した一撃だった。故に次の事など考えていなかった。
オーガがもう一体居たら。他のモンスターが居たら。仲間が傍にいなければ。
「もう大丈夫」
「そうか、頑張ったな」
ジンはわかっているようだった。フィーネに対する眼差しはとても優しかった。




