026
「ジン、昨日は大立ち回りだったらしいじゃねぇか」
「ねぇ、私たちにも内緒で」
探索者ギルドホール。そこでジンとフィーネ、カインとトトリは待ち合わせをしていた。
大柄なカインがジンに声を掛けてくる。
「何の話だ?」
わかっていても聞いてみる。昨日のことと言えばアレしかない。
ゲイホーンとの戦い。結局十人以上殺し、重傷者はもっと多かった。重傷者はほぼフィーネがやった奴らだ。ジンは大概一撃で相手の息の根を止めてしまう。
「もう噂になっているのか」
「そりゃそうだ。裏社会きっての武闘派、ゲイホーンが襲撃されたんだ。情報に疎い奴でも噂くらい聞くさ」
「それで今日はおかしな目で見られているのか」
ホールに入った時から気付いていた。ジンたちを見る目が昨日と違うと。
どこかしら畏れが感じられた。
ジンとフィーネは新参者だ。まだそれほど仲が良い相手は居ない。カインとトトリと後数人と言った所だ。
「それよりも襲撃を掛けるなら私たちにも声を掛けなさいよ。腕を振るってあげたのに・・・・・・」
「トトリさん、過激ですね」
トトリは誘われなかった事に不満なようだ。
だがあの襲撃は急に決まったことだった。アイリスが狙われ、その反撃として行ったのだ。日を置けば相手も警戒する。即日に反撃する必要があった。
それにカインもトトリも堅気だ。マフィアとの抗争に巻き込むには不安があった。ただそんな不安も杞憂だったようだ。
「次は誘うよ」
「おいおい、次もあるのかよ」
カインが呆れたように言う。
実際なければ良いと思う。ゲイホーンが襲撃され、手打ちしたことで他のマフィアは動かないだろう。
ただアイリスの存在はうっすらとだが都市に浸透している。どこのバカが手を出してくるかわからない。
それが貴族ならば流石にカインやトトリを巻き込めない。
「あるかもしれないし、ないかもしれない。ないことを祈るがな」
ジンはそう言うと今日の探索の話に話題を変えた。
◇ ◇
「ブモォォォォォッ」
「はっ」
迫りくるオークにカインが立ち向かう。
第十一階層。しばらくはここで様子を見る予定だった。第十階層から先はオークが出てくる。他にもキラー・スネークやクイーンビーなどが出てくる。簡単にはクリアできない階層だ。
ただ思っていたよりもカインとトトリの動きが良い。ジンが前に出てるのもあるがスイスイと進めてしまう。
(そういえばこいつらは十五階層まではクリア済なんだったか)
才能はある。実力もある。だが組む者がいない。
カインとトトリの評価はそれだった。
実力が上の者と組めば寄生になってしまう。実力が下の者と組んでも意味がない。同じくらいの者たちは大概クランに入っている。
カインとトトリもクランに誘われたらしいが、断っていたらしい。
それも戦い方を見ればわかる。
二人はソロタイプなのだ。二人ともだ。あまり大人数で戦うのに戦い方が適していない。
精々四、五人のパーティが丁度良いだろう。そこにジンとフィーネが来た。
歩き方、立ち方である程度の実力はわかる。持っている武器でもそうだ。
故にジンとフィーネは目をつけられ、カインとトトリとパーティを組んでいる。
「これこのまま十五層まで行けるんじゃないか?」
「えぇ、魔力もまだまだ残っているわよ。それに凄いわね。アイテムボックス。大金になるオークが幾らでも入るなんて・・・・・・、羨ましいわ」
ジンはその言葉に苦笑した。
「同じパーティなんだ。共有財産みたいなもんだろう。それにこれで金の心配はなくなる筈だ」
「そうね、妖精ちゃんに感謝ね」
トトリは言った瞬間、ヤバイと言う表情をした。
「気付いてたのか」
「・・・・・・それはそうよ。私は精霊種よ。同じ系統の妖精種の気配に気付かない筈がないわ。ただ隠してるみたいだからあえて指摘はしなかったけれどね」
トトリは少しだけ後ろめたそうに言った。
(精霊種にもバレるのか)
アイリスの存在はもう隠せない。アイテムボックスの件はジンが一緒に居れば良いが、希少な妖精を連れている探索者──というのは周知の事実になるだろう。
「どうしたものか」
「どうしたの?」
「いや、アイリスがな」
「あ~、ん~、隠し通すのは難しそうだね」
フィーネもトトリとの会話をこっそり聞いていた。どちらにせよ街に入って数日でマフィアから襲撃を受けたのだ。
探索者の中にも、冒険者の中にも獣人はいる。ジンたち人族とは違う、感覚器を持っている存在。
(蛇人族なんかはアイリスを認識していたしな)
昨日の戦いを思い出す。
蛇人族の男は明らかにアイリスを狙っていた。そこに居ると確信していたのだ。
腕を飛ばしてやったが、探索者にも冒険者にも蛇人族は居る。
マフィアならともかく探索者相手に大立ち回りはしたくはない。
「探索者ランクをあげるか」
「それがいいかもね」
そう簡単なものではない。探索者ランクとはそうそう上がるものではないのだ。
ただし、ジンの知識と実力がなければと言う前提がつく。
隠し扉のショートカット、隠し階段、そして宝箱のある隠し部屋。
カインとトトリも実力は申し分ない。
「そういえばカインとトトリはCランクなのになぜ金がなかったんだ?」
ふと思って聞いてみた。Cランクの報酬は良い。暮らしていくだけなら週に一回ダンジョンに潜れば良いくらいには報酬が手に入る。
「あ~、オーガには鋼の剣じゃどうにもならなくてなぁ。魔銀の剣を買ったんだよ。ついでに防具も更新した。それで金が尽きた」
「私は魔銀の鏃が問題ね。鋼だとオーガに刺さらないのよ。魔法ならなんとかなるけれど連戦となると魔力がきついわ」
なるほど、とジンは納得する。
ジンはデュランダルをガチャで出した。フィーネの魔銀の短剣もそうだ。だが普通に買えば大金貨が飛んでいく代物だ。デュランダルなど幾らになるかわからない。
「オーガか~。強敵だよね~」
オーガの特殊個体と戦って大怪我をしたフィーネがしみじみと言う。
あの時のフィーネの装備は貧弱だった。たった一撃で致命傷を負っていた。回復が間に合わなければフィーネの命はなかっただろう。
(オーガか。金コインが落ちるんだよな)
ただジンにとってはそう大変な相手ではない。鋼の剣では斬り裂けなかったが、それでも倒せた。
デュランダルのある今なら一撃で致命傷を与えることができる。そして金のガチャコインを集め、カインやトトリの装備も整える。
銀のコインで魔銀の短剣が出たのだ。金コインならもっと良い装備が出る可能性がある。
「十五層、行くか」
「お、いいのか?」
ボソッとジンが呟くとカインが嬉しそうに言った。
カインにとっても十五層を超えてオーガと戦いたいと言う欲がある。其の為に大枚はたいて装備を整えたのだ。
「この先に隠し階段がある。大幅なショートカットになる筈だ」
「ちょっと、そんなの地図に載ってないわよ」
「隠し階段だからな、手順を踏まないと出てこない」
「ほんと非常識」
マッパーのトトリがそう言いながら出会い頭のオークを倒した。
チャリンと銀のコインが落ちた。




