024
「尾行してきてるな」
「えぇ、獣人のようね」
「やっぱり私狙いでしょうか」
ジンとフィーネとアイリス。三人で街を歩いていると、ある一定以上の距離からは離れない集団が感知された。
フィーネも十分美少女なので人攫いの可能性もある。
「フィーネが狙いかも知れないぞ」
「それもあるかもだけどね。実際不躾な視線は感じた事あるし」
「フィーネさんは可愛いですからね」
当然二人とも武装はしている。ただし防具はつけていない。
さて、どうするか。
「釣るか」
「やろう」
今いる場所は市場だ。陸の鯨亭からは離れている。なにかを物色しているように見せながら二人はそっと路地裏に入った。
「へっへっへ。この先は行き止まりだぜ」
「新人探索者にはちょっと荷が重いなぁ。そこに飛んでいるナニカと身ぐるみ置いてけや」
現れたのは三人の獣人だった。狼系、熊系、狐系と見事に分かれていて、どれもその特徴をよく出している。
特に狼系はその匂いと耳でアイリスの位置を特定しているようで、視線が姿を消している筈のアイリスに向かっている。
「やはりアイリスが狙いか」
「はっ、バレていたか。だが逃げ場はないぜ」
「狩る方がどちらかは明確だがな」
ジンはギラリと殺気を視線に乗せた。それだけで三人の獣人がビクリとなる。蛇に睨まれた蛙のように、三人の動きが止まる。
「今ならまだ見逃してやる。上にもこっちには手を出すなと言っておけ」
「な・・・・・・、何を言っているかわからねぇな。いいからそのレアもんと装備と金を置いていけ。そうすれば命だけは助けてやる」
「こっちのセリフなんだがな」
やれやれとジンは肩を竦めて相手の話の通じなさに呆れ果てた。
(殺るか)
素直にそう思えた。
ここはゲームの世界ではない。故に死んだ人間は蘇らない。
フィーネを、アイリスを狙われたのが許せない。万死に値する。
すらり。デュランダルを抜く。
「お、こいつ抜いたぜ。やる気だ」
「勝てると思ってるのか。裸猿が」
「俺たちはBランクだぜ」
だからどうした。ジンはそう思った。
ジンの方がよほど強い。フィーネは思った。
マスターは負けない。アイリスは思った。
トン。
軽くジンは地を蹴った。デュランダルはまだ構えてすら居ない。その姿は目の良い狼獣人や狐獣人にすら見切れなかった。
斬。
左下から右上に掛けて剣を振るう。剣の先に血が追いついてこようとするのを振り払うように次の一歩を進む。
二歩目。熊獣人の頸動脈を斬り裂く。そこで初めて狐獣人が気がついた。
だがもう遅い。
三歩目。逃げようとする狐獣人の足を斬り落とす。こいつは情報を吐かせねばならない。
「アイリス」
「はい、マスター」
一言でアイリスは理解し、二つの死体をアイテムボックスにしまう。
生き物は入らない。だが死体なら? 当然しまうことができる。もう二つの命はとっくに消え去っていた。
「すごい」
フィーネはほんの一瞬の出来事を全て見ていた。自分ではまだ追いつけない。その頂きを。ただいつか追いつく。隣に立って戦うのだ。
アイリスは自身の主の強さを噛み締めていた。守られている。いずれ主人を守る側になるのだ。
そう決めた。
「吐け。お前達をけしかけたのは誰だ? いや、どこだ? 狙いは?」
「くっ、殺せっ」
ふくらはぎを半分斬られ、動けなくなった狐獣人は短剣を手放してそう答えた。正直怖くて仕方がない。自身より強い二人の獣人が一瞬で命を断たれ、更に死体まで消えたのだ。
路地裏に残っているのは僅かな血痕だけ。これでは衛兵も動かないだろう。
ぽとり。
指が一本落ちた。
「うぎゃぁぁぁぁぁっ」
足の痛みが嘘のように手に移った。ただ斬り落としたのではない。わざと痛みが大きくなるように斬ったのだ。
「安心しろ。指は二十本ある」
その目は本気だった。狐獣人はそこで観念した。
「ゲイホーンだ。狙いは・・・・・・、妖精だ」
この名を出せばなんとかなると思っていた。裏社会の三大マフィアの一つ。ゲイホーン。獣人を多く擁し、戦力も高い。誰もがこの名を聞けば震え上がる。
しかし狐獣人は見た。ジンの口角がニヤリと上がるのを。
その後狐獣人の姿を見た者は居ない。
◇ ◇
「ゲイホーンか。聞いた名だな」
「ですね。裏社会を探って居る時に必ず聞いた名前です」
「私が姿を消してても気付かれる相手です。怖いです」
アイリスは狼獣人に気付かれていた事に気付いていた。あの獰猛な笑み。ジンと共に居なければ震え上がっていただろう。
だが三人の刺客はジンによって排斥された。ではこれで安全か、と問われるとそうはいかない。
ゲイホーンと言う組織全体がアイリスを狙っているのだ。元を断たなければならない。
「とりあえずカインとトトリは置いておいて、ガチャを回すか」
「え、神殿に行くの?」
「そうだ。今回はアイテムガチャを回す。案外使えるアイテムがあるんだぜ」
ジンはそう言って不敵に笑った。
神殿。そこは荘厳にて静かな雰囲気がある。神官も信徒も基本喋らない。お布施を渡し、八柱の神の像へ祈る。
「来た」
「本当にまた来られたのね」
白い部屋に三つのガチャ。
コインは銅のコインが多いが銀のコインもある。これだけあれば何かしら出るだろう。
フィーネに回させても良いが戦士系であるジンが回した方が良いと感じたので感じたままにガチャコインを入れた。
ガチャコンガチャコンガチャコン。
ガチャから白い玉がでてくる。中には銅の玉、銀の玉もある。銀の玉には上級ポーションが入っていた。当たりだ。ただ今回は使う予定はない。
本当の当たりは銅のガチャの中にある。
炸裂弾。スタングレネード。これらが合計五個。
特に獣人にはスタングレネードは効くだろう。ジンはそれらを見てニヤリと笑った。
「ねぇ、それ何」
「ん? これはでかい音と光を放つ魔道具みたいなもんだ。強烈だぞ。投げたら目を瞑って耳を塞げ」
「わかったわ。今から乗り込みに行くのよね」
フィーネもわかっているらしい。フィーネはアイリスとも仲が良い。アイリスが狙われたとあってやる気があるのだ。仮令相手がマフィアだとしても。
(うん、人を殺したけれど何も感じないな)
ジンは少し恐れていた。自分は人が殺せるのかと。
護衛依頼などでは盗賊が出る時がある。幸い幾度かの護衛依頼では魔物にしか遭遇しなかったが、盗賊が出た時に対処できるのか不安だったのだ。
だがアイリスの為ならば、人を斬ることができる。特に獣人は人と見た目が違う。魔物と言われてもおかしくないくらいだ。
人の言葉を話す魔物。そう思えば怖くはない。
もちろん同じ冒険者や探索者にも獣人はいる。彼らとの交流もある。ただ今回とそれは別だ。
アイリスを狙う者。それらは全て敵だ。
(殲滅する)
ジンは人を斬った感触を思い出しながら、手をグッパッと握って出撃の準備をした。




