023
(神の声か。実際神は俺に何をさせたいんだろう)
フィーネやトトリの好感度は上がる。だがUIはなく、迅として得た課金アイテムもない。あるのはジンとして培ってきた戦闘の動きだけだ。
(もう少しだ。もう少しであの感覚が掴める)
戦闘を重ねる毎にジンは強くなって行った。それこそフィーネが驚くほどに。
ただフィーネも負けてはいない。Bランク冒険者としての十分な実力を持っている。
魔銀の短剣を持っていればオーガとすら渡り合うだろう。
問題はカインとトトリだ。まずあの二人の自尊心を粉々にしなければならない。
二人を勧めてくれた上級冒険者、名前は何と言ったか。彼はAランクだと言う。Aランクだと認めさせるだけの覇気があった。
だがカインとトトリはない。このまま行けばBランクが精々だろう。
ただそれでは困る。二人はSランクになって貰わなければならない。
そうでないと死ぬ。少なくともジンに付き合っている限り。
「一人も死なせたくないな」
「みんないい人ですもんね」
最初はアイリスだけだった。フィーネが加わり、カインとトトリが加わった。
三人とも良いメンバーだ。アイリスの素性は話していないが、十階層を超えるとオークが出てくる。
オークのドロップは美味しいのでアイテムボックスを披露しなければならないだろう。
そしてアイリスとの話し合いで、アイリスは姿を現さず、アイテムボックスをジンが使っているように見せかけるようにすることにした。
それにはフィーネも同意している。
「アイリス、俺はお前を精一杯使いこなす。着いてこい」
「はいっ、マスター。身命をとしてマスターの役に立って見ます」
「俺はもうこの世界で生きていくことに決めた。アイリスもいるし、フィーネもカインもトトリもいい奴だ。前の人生に後悔はないとは言わないが、大好きだったアビスゲート・オンラインの世界にいるんだ。・・・・・・それに、フィーネに惚れられているからな」
「絶対そうですよ。あの反応を見て惚れてないなどありえません! マスターには言えませんがフィーネさんからも色々聞いていますよ」
ジンは驚いた。アイリスが主人であるジンに言えない秘密を持っていると言うのだ。
自我の発芽。アイリスは最初からAIナビらしくなかったが、最近よりその傾向が強くなってきた。それをジンは好ましく思っていた。
アイリスはジンの大切な仲間だ。彼女の為に早く妖精魔法の魔導書を手に入れなければと思っていた。
◇ ◇
「せいっ、やっ」
「甘い」
ジンはギルドの訓練場でフィーネの相手をしていた。カインとトトリはそれを見ている。
フィーネが踏み出す。半身になって避ける。トンと肩を押す。それだけで体勢が崩れる。片足になったフィーネに接近し、ダガーの木剣を首筋に押し当てる。
「ま、参りました。も~、なんなのよ~。いっっっっかいも勝てない!」
「フィーネは身体の動かし方は良いが、フェイントに弱い。魔物ばかりを相手にしてきて対人戦をしてこなかった弊害だ。盗賊や騎士など相手にすれば即座にやられるぞ」
「くっ、わかっていても引っかかっちゃう」
この対戦でジンはフェイントを三つ入れた。視線のフェイント。肩のフェイント。そして半歩踏み出そうとしたフェイント。
その全てにフィーネは引っかかり、あっという間に負けたのだ。
「次、俺とやろうぜ」
「構わないよ」
カインが名乗りを上げる。カインは大剣を使う剣士だ。モンスター相手には良いが小回りが利かない。
特に魔物相手には振り回すことが正義となる。当たれば大ダメージが入り、当たらなくても牽制にはなる。ただ対人はそうはいかない。
ジンが出ようとした瞬間、その隙間を狙っていたように大剣が迫る。しかしそれはフェイントだ。髪の毛を掠めて大剣がピタリと止まる。この後薙ぐのか、払うのか、下段から攻めるのか。決めるのはカインだと思っているだろう。
しかしそうはいかない。ピタリと止まった大剣の上に足をそっと乗せる。
「おらぁっ」
これで選択肢はなくなった。カインはそれをかち上げるように振るう。そこが隙だ。
下段逆袈裟に振られた剣はそう簡単に戻らない。その合間を縫って一歩踏み出し、片手剣を逆胴に当てる。
「いてぇっ、なんでフィーネには寸止めで俺には当てるんだよ」
「悪い悪い、寸止めしそこなった」
「嘘つけっ!」
当然嘘だ。痛くなければ人は覚えない。フィーネは女の子だから手加減しているが、それでも当てる時は当てる。
木剣でもそれなりのスピードで当てれば痛いのだ。骨が折れることすらある。
ただ骨を折ってしまうとポーションが必要になるか、ギルド専属の治癒士に診て貰わなければならない。そうならないように加減はしてある。
「さて、今日は十一階層に行こうか。ただし、そっから先には進まない。オークたち相手に連携を積む訓練だと思って欲しい」
「わかったわ、行きましょう」
見物していたトトリが立ち上がって言った。
トトリはジンたちが立ち合う前に魔法の修練を積んでいた。今は魔力の回復中だそうだ。
それも終わったのだろう。やる気が漲っている。
「じゃぁ行こうか」
ジンが声を掛けると三人はぴったりと頷いた。
◇ ◇
ダンジョン十一階層。そこは初心者脱却の階層だと言われる。
アークスパイダー、ラピッドラビット、そしてオーク。しかもオークの特殊個体も出るのでこの階層を超えられないと上級探索者への道は拓けないのだ。
「スパイダー、来てるぞ」
「オークが来ているわ。一匹ヤるわね」
「私は牽制しておくよ」
「俺は前に出るぜ」
十一階層で幾度も連携の確認をする。
基本的にジンが左、カインが右。フィーネが中衛でトトリが後衛。
トトリは弓も使えるのでたまにジンやカインの脇を掠めて矢が飛んでくる。
彼女の弓の腕前は名手と言って良いもので、信用がおける。
今もアークスパイダーの目に刺さって牽制をしてくれている。
「オークが二体、来るぞっ」
「応っ」
「風刃!」
トトリの風刃ではオークは両断できない。肉まで斬り裂き、オークは悲鳴を上げるが足は止めない。
フィーネは後ろから来たラピッドラビットの相手をしている。
元より打ち合わせ通りにカインが右に、ジンが左に分かれる。
「ブモォォォォォッ」
オークが咆哮を上げ、棍棒を振り回す。縦、横、斜め、そこっ。
ジンはオークが隙を晒した瞬間に〈瞬歩〉を使い、間合いを一瞬で詰め、オークの心臓にデュランダルを突き刺した。
右手を見る。カインはオークの棍棒と打ち合いをしている。形勢は良い。あのまま油断しなければ怪我はないだろう。
瞬間、オークの右肩に矢が刺さる。棍棒の軌道が変わる。カインもその隙を見逃す男ではない。
元よりオークの相手は今までもしていたのだ。
斬。
大剣がオークの脇腹から右肩に掛けて斬り裂き、オークは絶命して靄になった。そしてそこには銀色に輝くコインとオークの棍棒のみが残るのであった。




