021
「迷宮に潜ろう。実は金がないんだ」
「えぇ、私もかつかつよ」
陸の鯨亭本店。そこの食堂でジンはカインとトトリに詰め寄られていた。
本店と銘打つだけあって迷宮都市の陸の鯨亭は通常の倍くらいある。
当然個室を希望したのだがフィーネに却下の憂き目にあった。
「なんでそんなに金がないんだ?」
素直に聞いてみた。Cランク探索者なら金に困る事はないだろうと思ったのだ。
「迷宮は二人では潜れないのよ。最低四人揃えないと入場許可すら貰えないわ。かと言って冒険者の縄張りを荒らすと厄介なことになるわ。ジンたちみたいに元冒険者なら許されるけどね」
トトリから説明される。なるほど、それならわからなくはない。
迷宮都市は魔境に接している。故に冒険者の需要も多くある。それとは別に迷宮があるので、迷宮産の魔石も需要がある。
そしてカインとトトリの二人は冒険者登録をしていないので金銭を稼ぐ手段がない。
「ふむ」
二人の装備を見る。ジンやフィーネとそう変わらないレベルの装備だ。買うなら相当の金銭が掛かっただろう。メンテナンスにも費用が掛かる。ポーション代も当然だ。
「わかった。今日から潜ろう。マッパーはいるか?」
「私がやるわ」
トトリが手を挙げた。
ジンにはマッピングなんて必要がない。全てのダンジョンを覚えているからだ。この迷宮都市のダンジョンのマップも全て頭に叩き込まれている。
どの通路に罠があるか、宝箱はどこか。ボスへの最短距離はどのルートか。
ただそれを使っても仕方がない。フィーネの成長によくない。
フィーネを一端の探索者にするならば、きちんと最初から探索させなければならない。危険な時はジンが助ければ良いだけだ。
「よし、善は急げだ。すぐ出発しようぜ」
カインがそう言うので仕方なくジンは早めに食事を終わらせて、迷宮に向かった。
◇ ◇
迷宮「ダンガイン」。世界四大迷宮に数えられる一つだ。
転移装置があり、一度行った階層に即行けるのと帰りも帰還陣を使えば帰れるところが魅力のダンジョンである。
「俺たちは十五層まで潜った事があるんだ。十五層俺たちなら行けるだろう? 行こう」
「いや、俺とフィーネが初心者だ。一階層からやろう」
「一階層じゃ儲からねぇよ!」
カインが叫ぶがこれは決定事項だ。覆らない。
ジンが転移陣ではなく、ダンジョンの入口に向かったことでカインとトトリも諦めたようだった。
「一階層から十五階層までは完璧なマップがあるからこれに従えば大丈夫よ」
「ふむ、見せてみろ」
トトリがドヤァと見せたマップを見てジンは鼻で笑った。トトリは何で笑われたのかわかっていない。
隠し扉、隠し階段、隠し部屋。どれもがマップに表示されていない。
隠し扉はショートカット、隠し階段は次の階層へ行ける。隠し部屋には宝箱がある。どれも有用な情報だ。
「やっぱり一階層から潜らないとダメだな」
ジンはそう言い切ってダンジョンに潜った。
「敵は弱いな」
「うん、これなら私でも十分大丈夫だよ」
「当たり前だ。俺達はCランク探索者なんだぞ。十階層以上を探索していておかしくない。一階層で苦戦なんてしていたら話にならない」
ジャイアントバットやゴブリン、コボルトが出てくる。出てくる度にフィーネが先行し、倒す。
倒すと黒い靄に変わり、魔石とたまにガチャコインが落ちる。一階層にドロップはない。
こっちの方がゲームに近いのでジンとしてはやりやすいと思った。
「ガチャコインは全部回収だ。その代わり同じだけの代金をやる」
「このコインに意味があるってのか?」
「そうだ」
ジンは言い切るとマップ通りに一階層を踏破した。歩きながら二時間くらいだろうか。まぁこんなものだ。
二階層に入る。相変わらずの洞窟だ。ただ目的地は違う。
「そっち、正規ルートじゃないよ」
「いいんだよ。信じてついてこい」
トトリが文句を言ってくるが無視して目的地に行く。そこにはほんの少し色の違う岩壁があった。
「ここだ」
「何がよ。正規ルートから随分離れちゃったじゃない。確かにこの壁の向こうには正規ルートがあるけど・・・・・・なにそれ」
ジンが隠し扉のスイッチを入れると扉が回る。まるで忍者屋敷の回転扉のように壁が動き、別のルートに入れるようになった。
「凄い! めちゃくちゃショートカットじゃないよ!」
「ジン、なんで初めて入るダンジョンのショートカットを知ってるの?」
トトリは驚いているが、フィーネはジンの不可解な行動に違和感があるようだ。
それは正しい。知るはずのない情報。それを知っているのだ。
「秘密だ」
当然その答えは教えない。フィーネはぷくぅと頬を膨らませた。可愛い。
カインとトトリも不思議な顔をしている。
隠し扉を見破ったのは良い。ちゃんと理由が説明できるからだ。だがここに隠し扉があると知っていたのはまずい。
ただこれからの探索で、ジンにそのアドバンテージがあることを知っておいて欲しかった。二人の性格設定でバレることはまずないだろう。
あればジンの人を見る目がなかったとしか言いようがない。
「俺はこのダンジョンの全てを知っている。そしてここにあるものを手に入れに来た。その手伝いをしてほしい。もちろん二人が欲しいものも取るつもりだ。どうかな」
改めてカインとトトリに語りかける。二人の眼は決まっていた。
「わかったぜ。理由も何も聞かない。お前の言う事を聞こう」
「わかったわ。それにしても私が欲しいものを言ったかしら」
「欲しいものがないものはダンジョンに入らない」
ジンがそう言い切るとそれもそうねとトトリは満足した。
「むぅ~、全然理由になってないよ~。帰ったら色々教えて貰うんだからね」
「わかったよ、フィーネ。フィーネだけ特別だ」
「と、・・・・・・特別」
ゴクリと喉がなる音がした。
フィーネは最近好感度が上がる天の声がしなくなってきた。代わりにトトリの好感度が上がっている。ジンの強さに惚れたのだろう。
と、言っても元の好感度がどのくらいか、上限がいくつかなどわからないので意味はない。
高ければ高いほど良いというものではない。ヤンデレなどになられてもたまらないからだ。ちょうど良い塩梅と言うのが理想的だ。
(カインもあっても良さそうなものだけどな。そういえば男キャラは一人もいなかったな)
思い返してみるとフィーネ以外で最初に好感度が上がったのは陸の鯨亭の看板娘だった。飴をあげたら上がったのだ。なんとチョロいことか。
他にも女性に優しくすると好感度があがった。一だけでなく三あがる女性もいた。
フィーネはもう三十は上がっている。元が三十だとしても六十だ。百が上限だとしても十分だろう。
(アビスゲート・オンラインだけでなく他のゲームも混じってるのか? どちらにせよダンジョンの隠し扉は俺の知識と間違いなかった。これだけで十分な収穫だ)
ジンはそう判断し、次の三階層で隠し部屋の在り処を暴き、宝箱を見つけた三人から尊敬の目を向けられるのであった。




