019
「迷宮都市だ~~~!!」
「やっと着いたな」
「遠かったですね~」
迷宮都市に着いて一番喜んだのはフィーネだ。ここには兄がいる。仕送りもできる。ダンジョンも潜りたいと話していた。その全てがここ、迷宮都市にある。
迷宮都市は正確には王国ではない。三つの国の境界線上にある。
三つの国が迷宮を求めて争いあい、多くの犠牲を出した。
結果、三つの国の共同管理が始まった。
議会が制定され、三つの国から評議員が選出される。もちろん迷宮都市出身の評議員もいる。議長は必ず迷宮都市出身の者と定められている。
「国を出た感覚がないな」
「関所も何もなかったですからね。むしろ街道が綺麗に整備されていました」
ジンの呟きにアイリスが答える。
アイリスの言葉に振り向いた者がいた。二人、三人。どれも獣人だ。
逆に迷宮都市ですら妖精の姿は見えない。
アイリスの感覚で妖精の気配は探れるようになった。都市内に居ないとなるとアイリスの希少価値が高まる。
気をつけなければならない。
「迷宮都市も凄いねぇ」
「そうだな。流石独立都市だ」
も、と言ったのはその前の辺境伯の城塞都市が凄かったからだ。
今までの都市とは一線を画していた。明らかに高い城壁。四方にある櫓。常に巡回する兵士。
どこを警戒しているのか。当然迷宮都市だ。
「迷宮都市は探索者の権力が強いからな。フィーネも気をつけろよ」
「わかってるわよ」
「アイリスもな」
「は~い」
暫く過ごす中で、漸くジンとアイリスが気安くなってきた。今まではマスターマスターと畏まっていたのだ。
それがフィーネとジンの距離感とまではいかないが、ちょっとだけ縮まった。それがジンにはとても嬉しかった。
「陸の鯨亭はここにもあるらしい。チェックインしてギルドに行こう」
「わかったわ。Bランク冒険者って凄いのね。今までと扱いが全然違うわ」
「そうだな」
Cランクからギルドカードの色が銅から銀に変わる。そこで信用度が変わるのだ。途中途中の街でも護衛依頼を受けないかと誘われ、仕方なく受けた事がある。幸い道中に問題はなく、依頼ポイントを稼ぐ事ができたが、Aランクに上がるには貴族との繋がりが必要になる。
(いつかSランクにはなりたいがアイリスがなぁ・・・・・・、貴族に目を付けられたら目も当てられない)
アイリスはただのAIナビではなく、もう相棒となっていた。
絶対に手放さない。そうジンに決心させるほどに。
◇ ◇
「ここが冒険者ギルド兼探索者ギルドか」
「冒険者ギルドに迷宮に潜るためのギルドが併設されているんだね」
「建物が大きいわけだ。単純に二倍だからな」
「そうだね」
ジンたちは冒険者ギルドに入るとその賑わいに驚いていた。
今までの冒険者ギルドの二倍、いや、三倍以上の人間がいる。そこには獣人やエルフ、ドワーフまでいた。
これが迷宮都市。迷宮に潜る為の探索者が集まる場所。その中心点がこのギルドだ。
「凄いね」
「あぁ、凄い」
二人して語彙力がなくなっている。凄いBOTとかしている。
ギルドの中には酒場が併設されており、喧嘩も起きている。それを仲裁していると言うか、二人纏めて放り出してしまうのがウェイトレスだと言うのが驚きだ。
「おいおい、かわい子ちゃんがいるぜ」
「あぁ、俺の好みだ」
フィーネを不躾な目で見る輩がいる。フィーネが穢れるので見ないで欲しいものだ。
だがそいつらはジンとフィーネの前に立ってこう言った。
「先輩探索者は後輩探索者の指導をしないといけないんだってよ。だから付き合ってくれよ」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから、な?」
ジンがフィーネを後ろにかばう。どうなっても良い。この場でデュランダルを抜こうかと思った。
(こいつら腕だけは立つな。Aランクか。フィーネには荷が重い)
「おい、あいつら」
「Aランクの癖して下のランクに難癖ばかり付けてやる奴らだ」
「近寄るな。巻き添えを食うぞ」
「あぁ、触らぬ神になんとやらだな」
助けは来ないようだ。仕方ない、そうジンは思った。
ジンの目が光った瞬間、「ちょっと待った」と声が掛かった。
「チッ、ヤバイぞ。あいつらには二人しても勝てねぇ。逃げろ」
「彼奴等か。構っているだけ時間の無駄だな」
そう言って二人のAランク探索者は逃げるように去っていった。
「ふぅ、やばかったな」
「やばかったのはジンだよ。何あの殺気。私まで殺されるかと思ったよ。むしろよくあの二人はあんな殺気に気付かずに上のランクまで登れたね。信じられないよ」
「そうですよ。マスターがいつ剣を抜くのかヒヤヒヤして堪りませんでした」
フィーネとアイリスに攻められている間、止めてくれた男はつかつかとこちらにやってくる。後ろには二人の人間がいる。獣人とエルフだ。
「やぁ、やばい殺気を探知したんで止めてみたんだが余計なお世話だったかな?」
「そこに輪切りの死体が二つできても良かったのなら止めない方が良かったな」
「それは良かった。止めた甲斐があったよ」
上級だと思われる探索者は額に汗を掻いて応えた。
(こいつも強い。後ろの二人もだ。と、言うか見たことがあるな。こいつらこんな所に居たのか。探す手間が省けた。ただこいつらがパーティを組んでいるだと? 有り得ないな。強すぎて同じランクでパーティを組めず、燻っていたのがこいつらの筈だ。
こいつら、カインとトトリの二人は獣人とエルフと言う組み合わせもあり、ギルドで忌避されていた筈だ。
だが上級冒険者に庇護されている。これではパーティに誘う事ができない。
(チッ、面倒なことになってきやがった)
「まぁいいや、君たち。頼みたいことがあるんだ。ここは奢るから話だけでも聞いてくれないかな」
「構わないぞ。フィーネが絡まれるのを助けてくれたからな」
「僕が助けたのは絡んでいた方なんだけどなぁ」
そう言って大男はギルドの食堂に向かって歩いていった。




