018
「商人のホーランと申します。今日は護衛をしてくれるとの事で宜しくお願いします」
「ジンとフィーネだ。後のメンバーも揃っているようだな」
ホーランの近くには丁稚と思われる一人の少年と、三人の冒険者がいる。
三人の冒険者はフィーネをジロジロと見ているが、ガルードの話では信用できる冒険者たちだとの事で気にしてはいない。
もしなにかあれば・・・・・・。
幌付きの馬車が一台。護衛する対象はそれだけだ。期間は三日間。隣の街までの護衛だ。迷宮都市は遠いので迷宮都市までの護衛依頼は存在しなかった。
一日当たり一人金貨一枚が支払われる。オークを狩っていた方が儲かるが、ランクを上げる為なので金額は正直幾らでも良い。
「Dランクだぁ。詐欺だろ。訓練場で見たことあるぞ。護衛経験はあるのか?」
「ないな。其の為の護衛依頼だ。受けないとCランクに上げて貰えないらしいからな。だから指示は宜しく頼むよ、先輩」
「けっ、指示に従わなかったら許さないからな」
斥候の男が近づいてきて声を掛けてくるので相手をする。それだけで斥候の男は去っていった。
一緒に仕事をするのはCランクのパーティだと聞いている。ここら辺から冒険者の質と言うか、信用度が問われてくるらしい。
実際に護衛依頼を受け、商人の信用を得る。いずれは貴族の信用を得ることも必要になってくる。
(どうせランクがあるなら最高ランクまで上げなきゃね)
ジンは単純にそう思っていた。ゲーム脳である。やるならば最高ランクまで、PvPがあるならば最強を、レイドがあるならMVPを取らなければ済まない体質だ。
其の為ならお使いクエストなど幾らでも受ける。今回の護衛依頼も同じだ。
そのうち貴族の護衛依頼も受けることになるだろう。いいじゃないか、其の為にはマナーすら学んで見せる。
「出発しますよ」
「おう、新入りども。お前らは馬車の後ろを守れ。俺たちは前を守る。危なかったら手を貸してやる。みっともなく助けてくれと喚くんだぞ」
ホートンが出発の合図をし、斥候の男がフォーメーションを決める。
なんと助けてくれるらしい。先輩冒険者としてなにかあるのだろうか。
いや、単純に護衛依頼を失敗したくないだけか。ジンはそう理解した。
「意外に魔物は出てこないもんだね」
「そうだな。街道は整備されている。騎士たちも巡回している。故に魔物は出て来づらいんだ。けれど当然例外もある。ほら、草原狼が来るぞ」
「わかったよ。私一人で片付けるから護衛の方はよろしくね」
「フィーネさん、立派になって」
護衛依頼の何が面倒かと言うとその名の通り護衛だ。商人に傷をつけてはいけない。商品に傷をつけてはいけない。その二つの縛りが発生してくる。逆に言えば、その二つさえ達成すれば何をやっても許される。
「ひぃっ、助けてくださいっ」
「大丈夫だ、安心しろ」
グラスウルフの多さに怯んだホーランは慌てているが、あの程度フィーネの相手ではない。
前方を見ると三人が見事なフォーメーションでグラスウルフと戦っている。
元々グラスウルフはEランクの魔物だ。そうそう負けるものではない。
(ちょっと数が多いな。それだけは気になるが)
「終わったよ、毛皮を剥げないのが残念だね。お金になるのに。でもガチャコインは落ちたよ」
フィーネが嬉しそうに報告してくる。
アイリスもパタパタとフィーネに追従している。
楽な旅になりそうだった。
◇ ◇
「ありがとうございました。無事着くことができました」
「あぁ、こちらも稼がせて貰ったぜ」
「うちらもランクアップの為に必要だったんだ。縁があって良かったよ」
次の街へは無事着いた。三人組の冒険者もしっかり仕事をしていたし、夜番などは三日のうち二日担当してくれた。それだけでもありがたい。
フィーネにもおかしな視線を向けることなく、同等の冒険者として話していた。
アイリスは姿を現せずに不満たらたらだったが、念話で機嫌を取って置いた。
「着いた~」
「よし、すぐに陸の鯨亭の支店に行くぞ。その後は冒険者ギルドでランクアップだ」
「Bランクかぁ。信じられないよ」
フィーネがあっと言う間のランクアップ劇に驚いているが、このくらいは普通だとジンは認識していた。
元Aランクにも勝てるのだ。Aランクが対処すべき特殊個体オーガにも勝った。Bランクなど通過点。Sランクになって初めて喜べる。そう思っていた。
「あ、あそこの串焼き屋美味しそう。行こう、ジン」
「わかったよ、フィーネ。美味そうだな」
フィーネに手を引かれるまま、ジンはフィーネについていった。
「ギルドマスターへの手紙ですか。これは確かに受け取りました」
冒険者ギルドでの手続きは簡単だった。ホートンから受け取った受領証の木の札。それを渡すと六枚の金貨になった。そして同時にガルードからの手紙を渡す。封蝋がされていて、ギルドの重要事項だとわかる。当然封は開けていない。
「Bランクじゃと」
現れたのは禿頭ではなく髭面の男だった。どこかドワーフの棟梁を思い出させるが、背はジンと同じくらい高い。
筋肉が盛り上がっていて、おそらく戦斧使いだろうことが伺える。
このギルドのギルドマスターもおそらく元Aランク。しかも相当上位の方だろう。
少なくとも鋼の剣で相手したいとは思わない。
「仕方あるまい。ガルードの言う事じゃ。間違ってはおらんじゃろう」
そう言ってギルマスは受付嬢に指示をし、ジンとフィーネには銀色のギルドカードが渡された。
Dランクでは銅色だった。Aランクでは金色になるらしい。
残念ながらそれ以上の機能はない。ただその色のみで判別されるだけだ。
「Aランクになりたければ貴族の護衛を受けるか迷宮都市で一定以上の成果を上げろ。以上だ」
「わかった。明日にはこの街を出る。行き先は迷宮都市だ」
ジンはそれだけ言ってギルドを出た。フィーネがとことこついてくる。姿を隠しているがアイリスの羽音が聞こえる。
耳の良い種族、獣人やエルフに見つかればアイリスの場所など丸わかりだろう。ギルドマスターもなにか勘づいていたような感覚があった。
アイリスが狙われる。絶対に許せない。
「ジン、怖いよ」
「大丈夫だ。アイリスの心配をしただけだから。さぁ、行こう」
フィーネには笑顔を貼り付け、陸の鯨亭へ向かった。
「美味しい」
「あぁ、こっちのが美味いな」
「素材の鮮度が違うんだよ。他の支店と違うのはそれだけさ」
女将さんがジンとフィーネに追加の皿を持ってそう言った。
その日もジン、フィーネ、アイリスは同じ部屋に泊まり、夜遅くまでこれからの事を話し合っていた。




