016
「あれ、ジン?」
「フィーネ!」
神殿の診察台でフィーネは目を覚ました。流石ゲームの世界だ。元の世界ならおそらくフィーネは死んでいた。致命傷だったのだ。
だがもうフィーネは目を覚ましている。怪我などなかったかのようになっている。
新しい防具も良かったのだろう。次はもっと良い防具を買おう。ジンはそう決めた。
「神に祈って帰ろう。神殿へのお布施はしてある」
「ジンが私を神殿に運んでくれたんだね。オーガは倒したの?」
「あぁ、なんとかな。装備が良ければ余裕だったんだが刃が通らなかった」
「凄いね、ジンは!」
〈フィーネの好感度が一上がった〉
ピロンと脳内に音が聞こえる。相変わらずどこから聞こえてくるかわからない音だ。
だが問題ない。ゲームの仕様だと思えば良い。
今生きている世界は確かにゲームだが確かに現実だ。
この世界に落ちてきて最初の数日はゲーム感覚が抜けなかったが、フィーネとの交流を経て、彼女たちは本当に生きている人間なんだと思えるようになってきた。
「行こう、フィーネ」
「えぇ、ジン」
神官に導かれながら拝殿に行く。この神殿では女神を祀っているようだ。
教会は一神教。神殿は多神教。どちらも水面下で争いをしているが、大きな戦争などになってはいないようだ。
ちなみに国境は神殿であり、教会は別の国の国境であったりする。
ただ今は聖女ソフィアが教会に所属していることがあって、教会の力が強くなっている時期らしい。
(教会は腐敗している。それも邪神の企みだ。なんとかしなければ)
ジンはそう思いながら女神像に祈った。
瞬間。祈りの間から真っ白な部屋に視界が変わった。フィーネもアイリスも居る。
「え、何、ここ」
「俺もわからん。だがあの三つのガチャだけは知っている」
「ガチャ?」
「マスター、ガチャですよガチャ。やっぱりアレはガチャコインでしたね!」
アイリスにはジンがどこかにガチャがあると話していた。そして実際にガチャはあった。
ガチャコインは銀が十三枚。銅が四十二枚。金は一枚。
金はオーガから落ちたものだ。しかもただの金ではない。確定ガチャコインだ。
あのオーガはやはり特殊個体なのだろう。そうでなければ鋼の剣〈極〉で斬れない筈がないからだ。
「フィーネ、これはガチャと言うものだ。コインを入れてガチャりと回す。そうするとアイテムが出てくる。不思議だな。どのガチャから何が排出されるのかがわかる」
「私はわからないわ」
「私もわからないですね。マスターだけの特殊能力なんでしょう」
三つのガチャポンはキャラガチャ、武器ガチャ、アイテムガチャだった。
キャラガチャは本来キャラ、アバターが出るのだがそうではない。今回の場合で言うとフィーネなどのNPC専用装備が出るようだ。
武器ガチャは誰にでも使える武器が出てくる。このガチャからしか出てこない武器も多い。
アイテムガチャはポーションなどが出てくる。エリクサーやネクター、ソーマなどの特殊アイテムは合成ができない。ガチャで出すしかないのだ。
「どのガチャをやろうか。とりあえず銅のコインと銀のコインはフィーネを強化する為に全部キャラガチャに回そう」
「言っている意味がわからないけれど、私が弱いのは今日で十分わかったわ。足を引っ張らないようになれるなら何でもやるわ」
「じゃぁこのガチャコインを入れてガチャを回してくれ。多分俺が回すと全てのキャラの専用装備が出ると思う」
ジンはフィーネにガチャコインを渡し、回し方を教えた。
基本はガチャコインを入れてガチャリと取っ手を回すだけだ。
ガチャコンガチャコンガチャコン。
十枚で十一連出せるのは思っていた通りだった。そして一個だけ当たりがあった。銀のコインから出た奴だ。
魔銀の短剣〈極〉。この短剣ならばオーガの肉すら斬り裂くことができる。
「やった、当たりだ」
魔銀の短剣はガチャの色すら違った。これでフィーネもガチャにハマることだろう。
ガチャ狂いのジンとしてはフィーネにもハマって欲しいと思う。ガチャは悪い文化だと思うが、射幸心を煽ると言う意味では最も良い効果があると思うのだ。
「凄い。この短剣なら」
「あぁ、フィーネの専用装備だ。フィーネが使うと良い」
他は中身が食料だったりした。ポーションも混じっていた。金銭的には問題ないが良いポーションを得るのは難しいので単純にありがたい。
食料もガチャのまま持っていれば時間が経過しない。
中にはハンバーガーなども混じっていて懐かしい気分になった。
「さて、武器ガチャを回すか」
最後に残った確定金コイン。コレは武器ガチャかアイテムガチャかに迷ったが、武器ガチャに回すことにした。
今回上級以上のポーションがあればフィーネが危ない事はなかった。だがそれは銀コインガチャで出た。
エリクサーがあれば瀕死の状態からでも回復できるが、回復魔法を得る予定はある。上級ポーションも自分で作り出す事ができる。
ならば苦戦した相手、特殊個体オーガを切り裂ける剣が欲しい。
ガチャコン。
金色のコインを入れてガチャを回す。そうして出てきたのは金のガシャポン。その中に入っていたのは長剣だった。
聖剣デュランダル。幾度もお世話になった剣だ。中盤まではこれ一本で行くことができる。
ただ斬れ味が良い。頑丈。それだけなのだが鞘に収めると刃毀れや折れても新品の状態に戻る。
元々頑丈なので折れる心配も竜でも相手しない限り大丈夫だろう。
少なくともオーガの特殊個体くらいは一撃で倒せるようになる。
「よし、防具を更新しよう」
「えっ、もう?」
「もうも何も今日の戦いで二人の防具はボロボロだ。買い替えないとオークとも戦えないぞ」
「あっ・・・・・・」
フィーネは自身の姿を見て気付いたらしい。大怪我を負ったのだ。当然防具は消耗する。
帰りたい。そう願っただけで白い部屋から二人が祈っている神殿に戻った。
アイリスは姿を消したままだ。
アイリスの妖精魔法の魔導書も見つけなくてはならない。妖精魔法には攻撃魔法から幻影魔法、治癒魔法まで様々な魔法が網羅されているのだ。
◇ ◇
「たった一週間で壊しおったのか」
ドワーフの棟梁には二人の姿を見て呆れられた。
それも仕方ないだろう。たった一週間前に買った防具がボロボロなのだ。
「まぁ儂は客が買ってくれるというのならば問題はないのじゃけどな」
そう言って今度は増えた予算に合わせて良いものを選んでくれた。
ジンはワイバーンのスケイルメイルを。フィーネにはオーガの特殊個体の革を使ったものを。
二人は多少の調整が必要だったので今日は休む事にした。
「はぁ、今日は死ぬかと思ったわ」
「俺もフィーネを失ったかと思って眼の前が真っ暗になったよ」
「・・・・・・それって?」
フィーネがなにか期待したような視線をジンに投げてくる。
だがジンはそれに応えられる気がせずにそっと視線を逸らした。




