015
「楽勝だね」
「怪我もなく、順調です」
フィーネがそう言ってアイリスが相槌を打つ。あれから一週間、オークを狩りまくって居た。
ガルードは言わないがもうCランクに昇級するだけのポイントは取っている。
だが他の冒険者の手前、いきなりCランクにはできないと言われてしまった。
護衛依頼を熟さなければCランクの要件を満たさないらしい。
「オークも百体以上狩ったな。オークの集落がこの森にあることは間違いないな」
「そうですね。オークの特殊個体も出てくるようになりましたし」
先日オークマジシャンが出た時はヤバかった。即座に見抜いて予備の剣を投げ、見事胸に刺さった為に魔法を放たせる事はなかったものの、完全に参戦されていればやばかった。
「そんなことはない。フィーネの成長速度は異常だ。それでも危ない場面は幾度もあった」
「油断、だよね。何度も聞いたよ」
「フィーネさんは頑張ってらっしゃいますよ」
「あぁ、俺とのコンビネーションもかなり磨かれたしな」
そう、ジンとフィーネのコンビネーションは完璧と言える程の質に昇華していた。
アイコンタクトだけでどちらのオークを倒せば良いのか、どっちが盾役をやるのかなどすることができる。
ジンが声掛けをすることはどんどんと無くなっていった。
それだけフィーネの成長が著しいのだ。
(良い事だが油断はいけない。この世界は残酷だ)
オークなど雑魚だ。そう言えるくらい強くならなければならない。そうでなければ……。
この世界の未来は暗雲に包まれる事になる。
それをジンは知っている為にオークを倒せるようになったことで喜ぶ事はできなくなった。
ただ懐は暖かくなってきた。毎日オーク肉を食い、昨日はロールキャベツのようなものまで出てきた。ホクホクと崩れるオーク肉は最上の豚肉と言っても過言ではなかった。
陸の鯨亭の女将の腕が良いだけなのだが、いずれ自分でも料理をしてみたいものだ。
そのためにオークを一体、解体した状態でアイリスのアイテムボックスに保存しているくらいだ。
「まて、森の奥から怪しい気配がする」
「うん、私でもわかるよ。ビンビンと強い気配がする。オークジェネラルかな」
「ジェネラルなら俺が倒せる。他の敵をなんとかできるか?」
フィーネは一瞬考えて答えを出した。
「同時に四体までならなんとかなるよ」
「アイリスと共に戦えばなんとかなるだろう」
それは油断であった。オークジェネラルだと思っていた敵はオークですらなかった。
ずんぐりむっくりとした硬い表皮に覆われた大鬼。オーガだ。
この森にオーガは出ないと資料に出ていた。どこからか逸れでやってきたのだろう。
(まずい、フィーネにオーガの相手は早い)
ジンは即座に自身がオーガの相手をすることにした。フィーネはもしかして死ぬかもしれない。それほどの強敵だ。
「俺がやる。フィーネは不意を突いて撹乱してくれ」
「わかったわ。オーガなんて初めて見た。ギルドの魔物図鑑に乗っていたくらいだよ」
「オーガを倒せばオーガキラーと呼ばれる。それほどの相手だ。気を抜くな。オークとは格が違うぞ」
ジンはフィーネにしっかりと釘を打ち付け、正面戦闘は避けるように言う。
「グオオオオオォォォッッッ」
オーガは獲物を見つけ、嬉しそうにこちらへ向かってきた。
幸いにも広場になっていて、足元の心配はない。
オーガは一瞬で間合いを詰め、ジンの懐に入って。その腕の一撃は長剣で受けたが果てしない膂力だった。吹き飛ばされそうになるのを必死で耐える。
(速い)
オーガのスピードはオークのスピードの二倍以上だった。それだけ筋力の密度が違うのだろう。
大きさは大して変わらないと言うのに、実力が明らかに違う。
何せオーガはBランク冒険者が五人で戦う相手だ。それでも死人が出ると言う中堅冒険者でも会いたくない相手としてランク付けされている。
(フィーネは必ず守る)
これまでの付き合いでフィーネは良い子であることは確定していた。更にジンに好感度まで持っている。フィーネを死なせてはハーラルに立つ瀬がつかない。
ジンは自慢の長剣で踊りかかった。
オーガはそれを腕で受けた。
皮と肉は斬り裂いた。だがそれだけだ。骨まですらいっていない。
(くそっ、手強いな)
オーガはオーク五体よりも強いと言われている。それが目の前に居る。そして少し戦っただけでわかる。
オーガに襲われたパーティの帰還率は三割程だと言う。しかも慢心創痍の状態でだ。
Bランク冒険者が本気を出して倒せる。それがオーガの正当な評価だ。
「やれる。やるぞ。やらなければ死ぬと思え」
「わかったよ」
フィーネはオーガの視界に入るように、しかし決して間合いには入らない。
鋼の短剣では全体重を掛けた突きでも効果は怪しいだろう。
ジンの持っている鋼の剣でもギリギリなのだ。
フィーネを守る。そう思った瞬間に力が沸いてきた。不思議な感覚だった。
これなら行ける。
ジンは本気の一撃を喰らわせた。それはオーガの腕を斬り裂き、骨までいって皮一枚の状態にした。
ただし手負いの魔物は危険だ。ジンは油断しないように構えた。
瞬間、オーガのヘイトがフィーネに向いた。フィーネはオーガのあしらいかたなどわからない。しかしそれはもう遅かった。
オーガの右腕の一撃がフィーネの革鎧を貫通して数メートル吹き飛ばした。
「フィーネ」
「マスター、閃光をやります」
「わかった」
フィーネは生きているかわからないが、まだ胸は動いている。これならばポーションでなんとかなるかもしれない。
ジンはそれから十分間オーガと戦った。それは熾烈な戦いだった。オーガの攻撃パターンを知らなければ勝てなかっただろう。
ずずうんと大きな音を立てて首筋から血を流してオーガが倒れた。
ジンも無傷とは言わなかった。骨は折れていないが幾つかの攻撃が掠り、防具を掻い潜り、痛みを覚えた。
骨に罅が入っているかもしれないが、そのくらいは許容範囲だ。ポーションで治ることをジンは知っている。
「フィーネ」
「うぐっ、だいじょう……ぶ」
「絶対大丈夫じゃない。ポーションは飲んだのか」
「飲んだけど中級ポーションではどうにもならないみたい」
ジンはフィーネを担いだ。アイリスはオーガの死体を仕舞っている。
傷だらけだから皮は役に立たないだろうが、角はある妙薬の原材料になると聞いている。あと肝と脾臓が良いらいい。
丸頃持っていけるジンたちには関係がない。
「急ぐぞ」
「ちょっと、ジン。恥ずかしいんだけど。痛っ」
ジンはお姫様だっこでフィーネを抱えていた。だがそんなことを気にしている暇はない。
門番はもう顔見知りで顔パスで通してくれる。毎回銀貨一枚やっているだけはある。
「神殿だな」
街には教会と神殿があるが神殿の方が近い。それに神殿には元聖女が神殿長をしていると聞いている。
彼女の治療を受ければフィーネも回復するだろう。
「患者さんを急いで運びこんでください」
神殿の動きは早かった。神官たちはフィーネが重傷なのを見抜き、すぐさま担架のような物を持ってきた。
「……神殿長」
「わたくしがやる案件でしょう。他のものでは後遺症が残ってしまいますわ」
神殿長はかなり老齢の女性だった。元聖女だったと言うだけあって聖なる気が感じられる。
神殿長がフィーネの胸に触れる。診断では折れた肋骨が肺に刺さっているらしい。重傷だ。ポーションなどでは治る訳がない。
だが神殿長が〈聖癒〉と唱えただけで苦しそうだったフィーネは息が戻った。
五分くらいだろうか。
「これで良いでしょう。あとは他の神官に任せましょう」
威厳のある神殿長はそう言って去ってしまった。
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