014
「ガルードは信用できるか?」
「あ? いきなり何言ってるんだおめぇ」
ギルドに帰ってきて即、ジンはガルードに詰め寄った。ギルドのトップ、ギルドマスター。それが信用ならないのならばギルドすら信用ならない。
(ゲームならこんなこと考えなくても良かったのにな)
「儂がギルドの回しもんだってか~? そんなわけないじゃろ。それにギルド員は全員儂の子供みたいなもんや。みんな隠し事の一つや二つある。それをひっくるめて守るんがギルドマスターの仕事や」
「じゃぁ今日は奥の解体室を使わせて欲しい」
「あぁ、えぇで」
ガルードは指先にチリンと鍵をくるりと回してすぐに席を立った。
アイテムボックスの存在。アイリスの存在。それがどれほど貴重か。商人でも冒険者でも騎士でも、必ず狙ってくるだろう。
それを撃退するのもジンの仕事だ。仮令身が汚れようとも、必ずアイリスを守って見せる。
それは仲良くなったガルードですら例外ではない。
ギルドマスター殺し。冒険者として最もやってはいけないものだ。だがジンは優先順位は間違えない。
「それでなんだ?」
「アイリス」
「はい!」
「妖精!? おいおい、んなもん見たの何十年振りじゃぞ。貴族が捕まえたと自慢していたのを見ただけじゃ」
「そうだろう。そしてアイリスは一つの能力を持っている」
ジンが実践させようとするとアイリスは即座に頷いた。
「よいしょ」
アイリスが作り出した黒の空間からはオークの身体が丸ごと出てくる。それは解体室の解体台の上に寝っ転がった。
それが十体。
「おいおいおいおい。マジかよ」
「言ったら殺す。漏れても殺す。誰かがアイリスを狙ったら殺す」
「わかったわかった。絶対に言わん。ただ儂以外のギルドでは隠した方がいい。利益に釣られてポロッと言うギルドマスターに何人も心当たりがある。貴族の子飼いのものもいる。そいつらに見つかったら……わかるな」
ジンは答えを返さずに視線で返した。
「お~、こええ。殺人者の目をしてるぜ」
「仮令貴族を殺しても俺はアイリスを守る。絶対だ」
ガルードはおどけて肩を竦めた。
「こんな新鮮なオークを十体。これを十回繰り返せばCランクへの昇級も無理じゃないぞ。それだけの価値がある」
「余裕だ」
「わかった。だが今回の金で防具をもっと揃えろ。今のお前達の防具じゃ危なくて送り出せもせん」
「それもわかってる」
ジンはガルードの忠告にこくりと頷いた。
◇ ◇
アイリスに手伝って貰ったオークは金貨十枚にもなった。
それを持ってジン、アイリス、フィーネは鍛冶屋のドアを潜った。
「おう、なんか問題があったか? 研ぎか?」
「いや、それもやって欲しいが今回は防具を買いに来た」
「あぁ、お前らの防具は粗末だからな。買い替えた方が良い」
棟梁がそう言い、二人に合う革鎧を持ってきた。既に予算は伝えている。二人で金貨十五枚。その間に収まれば良い。
「こっちは嬢ちゃん用だ。オークの特殊個体の革を使っておる。軽さは今と変わらんが防御力は断然こっちのが上じゃ。特に魔法防御力に優れておる優秀な防具じゃ。坊主のはオーガの革を使っておる。少し重くなるが問題ないじゃろう。どうじゃ、二つで金貨二十枚で良いぞ。破格の値段じゃ」
払えない値段ではない。明日オークを狩ればなんとかなるだろう。少々予算オーバーだがそれだけの価値はある。
そうジンは見た。フィーネはよくわかっていないようだ。
だがこれからオークマジシャンなどと戦う時に必ず魔法防御力は必要になってくる。
「よし、買った」
「流石じゃな。見抜いたか。普通なら金貨三十枚出しても買えん代物じゃ。お主だから譲るんじゃ。死ぬんじゃないぞ。儂の剣を使ってジャイアントキリングを起こしてくれ」
「あぁ、わかった」
ジンは即座にオーガの革鎧をつけた。フィーネも迷いながらも革鎧をつけている。今までつけていたものはサブの防具としてアイリスのアイテムボックスに仕舞っておくことにした。
剣もそうだ。次金銭に余裕があれば鋼の剣を買おうとジンは思った。
◇ ◇
それから三日は金策に走った。
薬草採取、オークの討伐。特にオークの討伐は二人のコンビネーションを意識して倒した。
「右、任せた」
「わかったわ」
「閃光、行きます」
ジンが真ん中のオークを唐竹割りに斬り裂き、右のオークをフィーネが担当する。
後続のオークたちにアイリスがフラッシュを使う。目が眩んだオークたちにジンたちは容赦しない。
ジンの鋼の剣が、フィーネの鋼のダガーが、オークの首筋を、心臓を、喉笛を斬り裂いていく。
「よし、今日はもういいだろう」
「えぇ、もう十四体もオークと戦ったわ。掠り傷はあったけれど、大怪我はなかったわね」
「アイリスも頑張りましたよ」
「あぁ、アイリスも役に立ってた」
アイリスがない胸を張る。フィーネも短剣をかざしてまだやれるとアピールするが、そろそろ日も落ちる。
街の門が閉じる時間がある。さっさとアイリスに回収させて、撤退するべきだ。
パーティーのリーダーとして、ジンはそういう判断は間違えなかった。
「野営装備を持っていない。門から締め出されたらベッドでも寝られない。一度体調を崩せば次の日が働けなくなる。それだけは絶対にダメだ。明日は休みにするぞ。服や装備を更新しよう」
「はいっ」
普通の冒険者は一日働いたら二日は休む。そのくらいでないと万全なパフォーマンスを出せないからだ。
ただジンたちは違う。連日戦っても大丈夫なだけの体力を持っている。
しかし今日の戦いでフィーネに疲れが見えた。本人は気付いてもいないだろうが、ジンにはお見通しだ。
「さて、今日は帰って焼肉パーティだ。オーク肉を食べるぞ」
「わ~、オーク肉美味しいわよね。村ではなかなか食べられなかったから嬉しいわ」
フィーネは嬉しそうに言った。
村へゴブリンたちが攻めて来るのは季節に一回くらいらしい。そしてオークを連れてくる可能性は少ない。
あの時は本当に運が悪かったのだ。
そんなことをフィーネは帰り道で語った。
「フィーネさん、そんな時にマスターが助けに来てくれたんですね」
「えぇ、そうよ。ゴブリンアサシンの一撃で死ぬかと思ったところだったんだから」
フィーネとアイリスは相変わらず仲が良い。良いことだと思った。
ガルードも大量のオークに喜んでいてくれている。ギルドが潤うらしい。
ギルドの解体員はどうやってこんなにオークを運べるのかと訝しがっているらしいが、そこはギルドマスターお得意の腕力で黙らせたらしい。
「う~ん、美味しい。やっぱお肉はオークよね」
「そうだな。これ以上美味い肉はなかなか食べられないよな」
ジンとフィーネは宿の女将さんに頼んで納品しなかったオーク肉を焼いて貰っていた。
それは舌がとろけるほどの柔らかさで、あの強そうなオークとは思えない肉だ。和牛で言うとA5ランクか。食べた事はないがそのくらい美味く感じる。
「よし、今日も早く寝て明日また頑張るぞ」
「えぇ、いっぱい稼いで迷宮都市に行きましょう。お兄ちゃんも居ることだしね」
ジンとフィーネはベッドに入った。
次の日、大変なことになるとも知らずに……。




