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皇和戦記  作者: 悟
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第2話 剣の道は生活から

 カナタが稽古場に来てから、2週間が経過した。稽古場のルールも覚えたカナタは卯の刻にいち早く起きる。井戸から水を汲んで、割ってある薪を持っていく。釜に水を入れ沸騰させ、米を入れる。


 その位の時間でツムギが来る。ツムギは釜の温度調整をする。釜の煙がモクモクと上に登った頃に、門下生達が起き上がる。玄哲は稽古場の中央でただひたすら座禅をして集中していた。


 門下生達は敷地内や門の外、外壁の掃除を始める。誰もひと言も話さず列に並び、掃除の場所に向かう。


 カナタとツムギが米を炊いている横に、野菜を切る門下生や新鮮な魚や肉を捌く門下生も増えて朝食の支度をする。


 外の掃除組が帰ってきたところで、朝食の時間が始まる。誰一人話すことなく黙々と正座で食べる。


 食後の片付けを終わらせたカナタとツムギは稽古場ではなく、畑仕事をする。玄哲が教える方法は「見る」だけではない。畑仕事にもヒントがある。 


 カナタは最初の頃は刀のことを教えて欲しい、強くして欲しいとばかり思っていた。けど「見る」ことで覚えることも多い。でもそれだけじゃ足りなかった。実戦が欲しかった。玄哲に頼むでみると、勧められたのが「畑仕事」。


玄哲:剣を磨く前に、人を磨け。


 これが稽古場の掟の一つ。強い武士を育てる為ではなく、立派な人間を育てた結果、強い武士になる場所にしたいとの思いだった。


 カナタは村でも畑仕事をしていたから、難なくできるだろうと思っていたがツムギがとある物を持ってきてカナタに装着させる。


カナタ:ツムギ、私に何かつけた?少し重いのだけど。


ツムギ:玄哲さんの言う畑仕事は甲冑に近い負荷を再現する訓練…ということで肩・背中・腰に石をつけるよ。


 武士というのは戦場では足軽であってもそれなりの装備をつけている。位の高い武士となれば全身甲冑で数時間戦をすることもある。それを見越しての体力作りなのだ。


 カナタは先ほどまで、楽そうだと思っていたのが裏目に出たのか立っている状態で精一杯だった。勿論ツムギも石をつけているが、カナタよりも長くいるからコツは掴めている。


 カナタはツムギの動きを見る。同じ重量の石をつけているのに、自分より力は弱いはずなのに、なんで動けているんだと。


 ただでさえ地面が泥で、足を引きずるのに。無駄のない姿勢を維持して乱れない。カナタは悔しくなり、無理やり動こうとしたら泥に顔を突っ込んてしまう。


ツムギ:はははっ…、カナタの顔泥まみれ。


 カナタは悔しい。昔は力自慢で大人にも負けたことないくらい強かったのに、自分より一回りくらい小さい子に負かされるなんて思わなかった…そうカナタは思った。


 するとその様子を見ていた玄哲が来て言う。


玄哲:最初から、何もかもできる人間なんていない。ツムギがカナタよりも才能があるというわけでもない。「経験」という努力の成果だ。


 経験…。


 カナタは思い出す。昔、カナタは女の子だからと近所の子に馬鹿にされてた。女の子は力が弱いから戦場には行けない…そんな事言われて泣いた。


 だから強くなろうと努力した。努力して今のステータスがある。馬鹿にされたという経験があるから努力した。


 それはここでも同じことだ。誰それ構わず自分より優れていたら「才能がある」と思ってはいけない。もちろん世の中には生まれ持った資質の差はある。


 他人の努力を才能という言葉で片付けるな。玄哲さんはそう言いたいのだろう。名のしれた武将や一国を背負う武将は家柄がよく、出世コースで成り上がったわけじゃない。


 コネを利用して上がったわけじゃない。下積みで努力して積み上げたから今がある。


 だから今はできなくてもいい、次できたらいい。そう自分の中で考えて一歩ずつ遅くてもいいから、稲を植えるカナタ。負荷荷重に腰が持たなくなりそうになるが耐えてしゃがむ。ツムギもはりきって稲を植えて昼が終わる。

 

 

 カナタはツムギのステータスが気になって一度聞いてみたら見せてくれた。


 ツムギ 12歳・女

 武力20 知略5 統率5

 俊敏32 耐久23 魅力30


 殆どのステータスがカナタよりも下回っていた。これがステータスでも測れない努力というものなのか。


ツムギ:私も見せたんだから、カナタのも見せてよ。


 カナタ 12歳・女

 武力36 知略8 統率5

 俊敏28 耐久32 魅力25


ツムギ:すごい、武力がもう少しで40いくじゃん!


 けど玄哲さんには勝てなかった。自分が思うやり方でコテンパンに負けた。


ツムギ:だって玄哲さんって、有名な将の領地で仕えてたくらいだからね。


 自分のことのように玄哲さんを褒めるツムギ。確かに最初あったときから、ただならぬオーラを感じた。静かで揺らぎのないオーラだけど…どこか重圧を感じるような。


 年月が経って現役とは程遠くなった今でも地元では強いと評判らしい。でも納得がいく。こんな山奥に設備の整った環境は見たことがない。それに門下生の質も違う。


 全員が武士になりたくて来ている。半端者が一人もいない。休憩の時は笑って話しかけてくれる先輩門下生も稽古場では戦場にいるかのような目で、竹刀を振る。


カナタ:途中でやめた人っているの?


ツムギ:いるよ、沢山ね。1ヶ月以内に辞める人がほとんど。


 厳しい稽古や生活に耐えられなくなる人は多い。決められた時間で起きて、稽古してっていうのが苦手な人もいる。辞めるのに止めることはない。武士になりたくて来たのに、この程度で辞めるなら資格がないからだ。


 辞めた彼らは稽古が厳しいから、僕は悪くないなどど言うのかもしれない。自分自身は悪くない、悪いのはあの場所だと他人のことばかり否定する。そんな奴はどこに行っても上手くいかないだろう。


 平和な世だったらそれでもいい。だが今は自分自身の身を守らないといけないくらい大変な世。


ツムギ:仲が良かった子もいたんだけどね、やっぱり親がいると怠ける人が多いんだよ。



 お昼を過ぎたあたりで、玄哲師匠がみんなを中央の建物に集める。この時間帯は山に潜って「鬼ごっこ」をする。山の高低差を活かした自然な鍛え方。


 門下生全員で行うのは、一人一人の動きが違うからだ。足の速い者や、身軽な者、地形を読むのが上手い者。それぞれに対応しなければならない。


 戦いとは自然を活かすことで、1人で戦っても10人に勝てる可能性がある。


 鬼はカナタから始まる。ツムギや門下生達は颯爽と逃げる。最初は鬼が1人だが、捕まったものは鬼となり増えていく。


 カナタは慣れない山道を走っていく。木々の根っこやぬかるみがいい感じに足の邪魔をしてくる。目で逃げる人を追わないといけないのに、足元ばかりに目をやるせいで目の前の敵を逃がしてしまう。


 そんな中ツムギが近づいてくる。


ツムギ:つまずいてでもいいから思いっきり走ってみてよ。


 ツムギはそう言って木々の上から身軽に飛び回る。長年荷重をかけた畑仕事をしていたからなのか空気のようにスラっと飛び回る姿を見たカナタは、羨ましいと思った。


 ツムギが言ってくれたように、考えては遅いから思いっきり走ってみようと思う。カナタは昔遊んでいた様に無邪気な心で山を駆け上がる。


 するとどうだろうか、先ほどまで木の根やぬかるみに気を取られていたのに、気にしなくなった。気にしなくなったというより分かる気がする、それが瞬時に物事を理解するに繋がるんだと今、分かったのだ。


 

 カナタの勢いは止まることを知らない。たった2週間の稽古で人間は変わる。カナタはこの稽古場に来て、いろんな視点を学んだ。今まで一方通行だったのが枝分かれするようになった。


 体の動き方も一定じゃない。その時に、その場所で合わせる。体はそれに応えてくれる。


 カナタが山を駆け上がる様子を遠目で見ていた門下生達は慌て出す。決して焦っていたわけではない。「油断」をしてしまったのだ。


 油断は戦場の中で一番してはいけない行為。戦場では相手を見誤るその一瞬が勝敗を分ける。 


 数分もしない内に半分が捕まってしまう。鬼が増えることで逃げる側は狭い空間で逃げなければならない。森の中では何処から敵軍が来るか分からない状況で上手く立ち回れるかが重要になる。


 言いたいことは、何も逃げる選択だけとは限らない。



 逃げる側は多少の工作ができる。予め準備したものではなく、土壇場で作るものに限る。足を引っ掛けるために縄をはったり、深くない程の落とし穴。


 だが一番簡単で鬼から逃げることができる方法は、枝や石を地面に置く…これだけ。置いた場所を意識して、草むらや木々に隠れて身を潜める。鬼は走って追ってくるので、足元にある枝や石など気にしないことが多い。


 それを鬼側が踏む事によって鬼の居場所を特定して、逃げることができる。こういった事をするのは稽古場の中でツムギが一番長けている。


 本人が身軽でありながら、木々を伝って移動できる。俊敏が30を超えてるので一般人よりも早く移動することができる。


 だからツムギを捕まえようとする先輩門下生は触れることすらできず、ギリギリの間合いをとられる。だが、これはおちょくっているわけではない。


 ツムギは「囮」になっているのだ。自らの得意分野で囮になる事で、ツムギだけに鬼が集中して、逃げる側を安全に逃がしているのだ。


 逃げ側が逃げ切った合図を出せば、ツムギもそれに応じて簡単に鬼側の包囲網から脱出する。


 夕方になった頃、稽古場方面で合図の笛が鳴る。この笛は終わりを意味する。鬼ごっこは終わり、みんなは寮に戻る。


ツムギ:最後まで私の策にハマったね。


カナタ:うん、負けちゃった。けど楽しかった。


 

 次の日…

 昨日の鬼ごっこの稽古の疲れが今日になってきた。門下生達は重い腰を上げて、畑仕事に励んている。カナタもそうだった。


 昨日あんなに踏み込んで走ったから、足全体が麻痺っている。玄哲からは今日一日休むよう言われ、寮内で過ごしていた。


 面倒係でツムギが横にいる。


カナタ:ごめんね、ツムギにまで迷惑かけて。


ツムギ:いいのいいの、私も昨日の事で頭が疲れちゃったから。


 今は7月半ば、夏の季節がやってきて外は猛暑。そんな中、次の稽古が予定されていた。


 「山中演習in2泊3日」


 山中演習in2泊3日はその名の通り、山に潜って2泊3日過ごす稽古になっている。戦場では何日続くかも分からない事を想定して、水や食材は現地調達。1組2人になり、行動を共にする。


 夜中には見張りを立てないといけない。参加者には木札が1組1つ渡される。木札はこの演習上命と捉えられる。夜中に参加していない門下生達と玄哲が襲いに来る。その際、危険視することなく寝ていたら木札を奪われてしまう。


ツムギ:カナタはどうする?


 この「山中演習in2泊3日」は自主性で参加者だけ募る。玄哲は強くなりたい者だけを募集する。見送る門下生がいても叱ることはない。己が決めたなら、それでよいと言う。


カナタ:強くなるため、私は行くよ。


ツムギ:カナタが行くなら私も行く。カナタと一緒なら変化がありそう。



 「山中演習in2泊3日」の希望者は門下生30名の内10名が集まった。それぞれの希望者はツムギよりも前に門下生としている先輩ばかり。カナタとツムギが少し浮く感じがしたが、誰もそう思わない。


 希望しただけで覚悟がある者と皆に認められているからだ。


 ここから…始まる「山中演習in2泊3日」どのような結末になるのだろうか。



「鬼ごっこ後のステータス」

カナタ

武力36 知略8

統率5  俊敏28→30

耐久32 魅力25


ツムギ

武力20 知略5→7

統率5  俊敏32→33

耐久23 魅力30


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