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黎明の詩

今回は勇者パーティー結成時のお話です。

今では伝説となった英雄たちも、この頃はまだバラバラの集団でした。

よろしければ最後までお付き合いください。

街道を歩きながら、オレは昔のことを思い出していた。

――

出発の日。

魔王討伐隊――後に勇者パーティーと呼ばれることになる一行が、そこで初めて全員揃った。

見るからに屈強な戦士。

経験豊富そうな老魔法使い。

気弱そうなその弟子。

お喋りな僧侶。

物静かな弓使い。

目つきの悪い傭兵。

プライドの高そうな剣士。

いつも独り言を呟いている学者。

優しそうな薬師。

聖女と呼ばれている少女。

そのお付きの騎士。

そして最年少の、どこにでもいそうな普通の少年――。

年齢も性別もバラバラ。

参加した動機も目的も様々。

そんな印象の十二人だった。

仲間意識?

そんなものは無かった。

何なら、いがみ合っているような連中もちらほら見られたくらいだ。

そのメンバーを見たオレは、

「果たして魔王討伐なんてできるのか?」

よりも、

「オレは生きて帰って来られるのか?」

という気持ちの方が正直強かった。

――

街道をディアと並んで歩いていると、大きな木が目に入った。

そして、ふと思い出す。

そういえば――

初めてアイツが話しかけてきたのは、この辺りだったな。

――

――

――

『おはようございます。出発の日が晴れて良かったですね』

『……ああ、そうだな』

突然話しかけてきた少年に、オレは気のない返事を返した。

正直、晴れだろうが雨だろうが関係ない。

それにオレは外野だ。

『みんな強そうですね。これなら魔王討伐もきっと成功ですよ』

オレの気持ちを知ってか知らずか、尚も話しかけてくる。

正直、少し鬱陶しかった。

『……そうか? こんなバラバラなメンバーでか? オレは不安でしょうがないけどな』

思わず本音が漏れる。

『大丈夫ですよ! チームワークはこれから高めていけばいいんですから!』

なんちゅー前向きなヤツだ。

呆れ顔で少年を見る。

すると少年はニコッと笑い、自己紹介を始めた。

『僕はイル。イル=ラコラッジです。あなたは?』

名前なんて聞いてないんだけどな……

それに、非戦闘員の名前なんて聞いてどうするんだ?

『……メネス』

わざと感じ悪く答える。

これでもう話しかけてこないだろ。

強そうなヤツなら仲良くなるメリットもある。

だが、こんな弱そうで年下のヤツじゃ、逆にオレが助ける羽目になるかもしれない。

オレは保護者じゃないんだ。

よく討伐隊に選ばれたもんだ。

そんなことを考えながら冷たい視線を向ける。

『メネスさん! よろしくお願いします!』

キラキラした目でオレを見るな。

そしてイルは、そのまま他のメンバーにも挨拶して回り始めた。

そんな姿をぼんやり眺めていると、隣に人影が立っていることに気づく。

『あなた最低ですね』

そう言ってきたのは、回復魔法の天才と名高い少女――

聖女ディア=デラクールだった。

王都で彼女の噂を耳にしない日はない。

それほどの有名人だ。

だが、初めて交わした言葉としてはあんまりである。

オレが呆気に取られていると、ディアはその一言だけ残し、

『ふんっ』

と鼻を鳴らして、お付きの騎士と共に通り過ぎていった。

『なんだよアイツ……てか、オレに構うんじゃねーよ』

悪態をつく。

だが、すぐに虚しくなった。

そんなオレの背後から、今度は別の声が飛んでくる。

『戦えない者は邪魔だ』

振り向くと、プライドの高そうなイケメン剣士がこちらを睨んでいた。

『……あ、ああ』

剣士はそれだけ言うと、ズカズカと目の前を通り過ぎていく。

わざわざ言ってくるかね……

『ちっ……』

舌打ちはしたものの、返す言葉は出てこなかった。

――

――

――

『急に立ち止まってどうしたの?』

気がつくと、ディアが顔を覗き込んでいた。

『……ああ、思い出してたんだ』

そう言ってディアを見る。

『あの頃は若かったなってな』

一瞬、時が止まった。

『はぁ!? どういう意味!?』

あれ……?

オレ、なんかマズいこと言ったか?

最初の街【プリマヴィア】に着いたのは午後を少し過ぎた頃だった。

ディアは、あれから口をきいてくれない。

誤解だと何度説明しても聞く耳を持たなかった。

まぁ……オレとしては、仮にそういう意味だったとしても本当のことだし――

いや、やめておこう。

これ以上考えると面倒なことになりそうだ。

街に入ると、これからの旅に必要な物を買い揃える。

十年前は通り過ぎただけだったが、この街も随分大きくなったもんだ。

そういや、ここってアイツの領地だったか。

アイツ――三英雄の一人、ノビル=スパダチノ。

たしか魔王討伐から帰還した時、国王から勇者の名を継ぎ、王国騎士団長になってほしいと頼まれたんだったな。

だがノビルはそれを断り、この街の領主になることを望んだ。

きっとアイツなりに思うところがあったんだろう。

街の中心に建つ大きな屋敷を眺めていると、不意に声を掛けられた。

『おい!まさかメネスか?』

驚いて振り返る。

そこには髭を蓄えた紳士が立っていた。

……誰だ、このオッサン。

訝しげな視線を向けていると、相手は慌てて声を上げた。

『オレだよオレ!ノビルだよ!』

『……ノビル!?』

『おいおい、気付いてなかったのかよ』

月日の流れは残酷だ。

あのイケメン剣士が、こんな立派なオッサンになるなんて。

最後に会ったのは七年ほど前だったか。

たしか結婚式だった気がする。

もう記憶も曖昧だ。

歳は取りたくないもんだな。

『後ろ姿が似てたから声を掛けたんだよ。でも振り返った瞬間、自信なくなったけどな』

『なんでだよ?』

『想像以上に老けてたからな、お前』

『はぁ!?オレは変わってないだろ!』

『オレは?』

『……』

『さては今、オレを見て老けたなって思ってただろ?』

図星だった。

『お互い様だっての!』

苦し紛れにそう返す。

『ははっ!変わらんなぁ、お前』

『お前は変わり過ぎだって』

言った瞬間、自分でもおかしくなって吹き出した。

ノビルもつられて笑う。

しばらく笑い合った後、ノビルが尋ねてきた。

『ところで、お前こんな所で何してたんだ?』

『買い出しだよ。旅に出るためのな。ていうか、そいつはこっちのセリフだ』

コイツはこの辺り一帯の領主のはずだ。

真っ昼間から何をフラフラしてるんだ。

そんな視線を向けると、ノビルは咳払いを一つした。

『日課のパトロールだ。領主たるもの、領民が何に困っているか知るのも仕事だからな』

言い訳を終えると、今度は興味津々な顔になる。

『旅って言ったな?どこへ行くんだ?一人か?』

『……二人だ。行き先は、まぁ北の方だな』

『二人か』

ノビルは感心したように頷いた。

『お前が二人旅をできる様になるとはな。成長したもんだ』

『成長?どういう意味だよ』

『だってお前、昔から協調性ないじゃないか』

否定できない。

『お前に合わせられたのは、オレかマーゴかディア――それに……イルくらいだったしな』

最後の名前を口にした瞬間、ノビルの声が少しだけ止まった。

オレも気付いた。

だが何も言わない。

『……懐かしいな』

ノビルは空を見上げる。

『行ったのは十三人。帰ってきたのは、たった四人だ』

静かな声だった。

『懐かしくはあるが……もう二度と行きたいとは思わんな』

同感だった。

あんな旅は一度で十分だ。

それなのに、オレは再び同じ道を歩こうとしている。

我ながらどうかしてる。

『北へ旅か……』

ノビルは苦笑した。

『領主の仕事さえなければ、オレも付き合いたいところなんだがな』

オレには忙しく見えないんだが。

まぁ、領主には領主の苦労があるんだろう。

そう思いながらノビルを見ると、なぜか視線がオレの後ろへ向いている。

『どうした?何かあるのか?』

オレが振り返るより先に、ノビルが呟いた。

『二人旅って……相手はディアだったのか』

振り返る。

そこには、いつの間にかディアが立っていた。

満面の笑みで。

『そうよ。この人にどうしてもって頼まれてね』

ディアはオレの腕に手を添える。

『一人じゃ死んじゃうでしょ?弱いから』

笑顔なのに怖い。

しかも、前半は事実じゃない。

反論したかったが、ディアの笑顔があまりにも怖くてやめた。

『ははっ。相変わらずだな、お前たちは』

『ノビルに会うのは二年ぶりくらいかしら?相変わらず暇そうね』

『暇じゃないって。領民に聞かれたらどうするんだ』

多分もう知ってると思うぞ。

それでも慕われているんだから、名領主なのは間違いないんだろう。

『そうだ!』

ノビルが手を叩いた。

『今日はオレの屋敷に泊まっていけよ。ご馳走するぜ。旅に必要な物があれば用意するしな』

『いや、そんな悪いって』

まだ旅に出て半日しか経ってないし。

『遠慮するな。お前たちに家族を紹介したいんだ』

『そこまで言うなら……どうだ、ディア?』

『私は構わないわよ。ノビルに聞きたいこともあるし』

『ってことだ。世話になる』

『……もう尻に敷かれてるんだな』

『何か言いましたか?』

『いや、気のせいだ』

ノビルは即座に首を振った。

『さぁ、行こう。歓迎するぞ』

そうしてオレたちは、ノビルの案内で屋敷へ向かって歩き出した。

夕食は豪華だった。

昨日まで酒場の賄いを食べていたオレには、すべてが眩しく見える。

まるでテーブルの上に宝石が散りばめられているようだった。

『……お前、まさか毎日こんな物を食べてるのか?』

よだれを垂らしそうになるのを必死に堪えていると、ノビルが豪快に笑った。

『まさか。お前達が泊まると妻に伝えたら張り切ってしまってな』

『ん?……そうか』

なんで張り切るんだ?

疑問はあったが、今はそれどころじゃない。

『食事の前に家族を紹介させてくれ』

今のオレには、お前の家族よりテーブルの上の料理を紹介してほしいんだが……。

『まずは妻だ。結婚式に招待したから、お前達も顔は知っているだろう?』

『ノビルの妻、ブオナです。夫は今でも、皆様に何度も命を救われたと話しております。私や子供達にとって、皆様は英雄なんです』

確かに三英雄は、それぞれが勇者を名乗ってもおかしくない人物ばかりだ。

だが、誰一人として名乗らなかった。

……

『続いて子供達だ』

『はじめまして。私はイルネスと申します。父様から皆様の英雄譚を聞いて育ちました。本日はお会いできて光栄です』

何て利発そうな子だ。

しかもノビルに似て、なかなかのイケメンである。

……ん?

待てよ。

イルネス?

イルはイルから取ったんだよな?

じゃあ、ネスはどこから出てきた?

『おっ! 気付いたか? イルとお前から名を貰ったんだ。いい名前だろう?』

イルは分かる。

だがネスは駄目だろ。

心の中で盛大にツッコんだが、口には出さなかった。

本人も気に入っているようだし、そっとしておこう。

しかし、どんな話を吹き込んだら、こんな立派な子に育つんだか。

『次は娘だ。おととし生まれたんだ。これは俺から紹介させてくれ』

そう言って娘を抱き上げる。

その顔は緩みっぱなしだった。

幸せなのが嫌というほど伝わってくる。

『名はマディア。こちらもマーゴとディアから名を貰った』

『なんて良い名前ですか! きっと私のように美しく、そして強く育つでしょうね』

なんちゅう自己肯定感の高さだ。

圧倒的である。

オレが若干引いていると、ノビルがふと真面目な顔になった。

『なあ……メネス。良かったら聞かせてくれないか? あの英雄の詩を』

『父様、私も聞きたいです』

『……私も』

ディアまで何を言い出すんだ。

オレは目の前の宝石のような料理を名残惜しく見つめながら、仕方なくリュートを取り出した。

ボロン……♪

これは本物の英雄達の詩。

そして――

その英雄達へ捧げる鎮魂歌。

そうして夜は更けていった。

――

翌朝。

オレ達は旅立ちの準備を整え、街を後にしていた。

手には、今朝ノビルから託された一振りの剣。

英雄ノビル=スパダチノの剣だった。

出発の際、半ば強引に押し付けられたのだ。

――

『これを持って行ってくれ。オレの魂を預ける』

『駄目だ。こんな大切な物、預かれない!』

『いや、オレの代わりに持って行ってくれ。この剣が、お前達をきっと守る。頼む』

『……しかし』

『お前達の向かおうとしている場所は、なんとなく分かった。だからこそだ』

『……分かった。必ず返す』

ノビルは、オレが押しに弱いことを知っている。

結局オレは折れ、剣を受け取った。

そして踵を返し、歩き出す。

街を出る直前――

ふと振り返った。

『アイツの守りたいものか……』

そう呟いた肩に、無言でディアがそっと手を置く。

『旅は始まったばかりだ』

オレは自分に言い聞かせるように呟く。

そしてディアと肩を並べ、再び歩き出した。




















最後までお読みいただきありがとうございました。

今回はメネスがイルと出会った日の回想でした。

当時のメネスは、まさかあの少年が自分にとって特別な存在になるとは思ってもいなかったでしょう。

次回もよろしくお願い。



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