残響の詩
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は、メネスが勇者パーティーの戦闘を初めて目の当たりにした時の思い出を振り返ります。
彼が初めて感じた「自分だけが普通だった」という後のメネスの心に残り続けた感情…
お楽しみいただければ幸いです。
プリマヴィアを出発して数時間、オレたちは【バーゼの森】の入口に差し掛かっていた。
一時間もあれば通り抜けられる様な小さい森だが、正直、この森には良い思い出はない…
オレが早く通り抜けようと歩くスピードを上げた時だった。
『あら?なぜ歩くスピードを速めるの?』
疑問の声が後ろから聞こえる。
『いやぁ、この森には嫌な思い出があるからな』
『はは〜ん、さてはアナタ怖いんでしょ?』
『怖くなんかねぇって!ただ…思い出したくないだけだ』
『ふ〜ん…確かここで初めて魔物の群れに会ったんだっけ?』
『…ああ、オマエ達が一瞬で蹴散らしてたがな』
そう…ここバーゼの森でオレたちは、初めて魔物の群れに遭遇、戦闘になった。
戦闘は一瞬だったが、オレには嫌な思い出の一つになった出来事だった―
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『剣の方が上だ!!』
突然隊列の前から怒鳴り声が聞こえた。
『まだまだ若いのぉ!魔法あってこその剣よ!勘違いは良くないのぉ』
言い争っているのは、どうやらオレに嫌味を言ってきた剣士―確か名はノビル=スパダチノだったか。
で、相手はこのパーティー最高齢の…
この国一番と噂の魔法使いテスタルド=ペンシエロか。
『まぁまぁ…二人とも落ち着いて下さい』
その間でオロオロしているのは、確かテスタルドの弟子の…マーゴ=レジダリオだったか。
どうやら、剣が上か、魔法が上かで口論になったみたいだな。
オレから言わせてみれば、どっちが上でも良くないか?って話なんだが…二人はそうはいかないようだ。
いわゆるプライドってヤツだな…オレには無い考えだ。
オレの場合は、プライドが持てるような物を持ってないから、その考えに至らないのかも知れんが…
人の話を聞いて、勝手に卑屈になる。
そんな事を考えながら鬱々と一人で歩いていると、前からの視線に気がつく。
ふと目線を上げたところで、こちらを振り返り見ていたディアと目が合った…
『気持ち悪いですよ?』
…何が?
てか、思っても口に出すんじゃねぇって。
毎日、こんなやりとりが続くと思うとストレスで魔王の所に着くまでに死んじまわないか心配だ。
パーティー全員がクセのあるヤツばかり…しかもそれが十二人もいる…
『はぁぁぁ…』
思わず溜息が漏れた。
『気持ちはわかります。なんとかしないとですね。』
突然の声にビビるオレ。
気が付くとイルがオレの横を歩いていた。
『メネスさんの言ったとおりだ。僕がなんとかしてみます。』
…勝手にどーぞ。
オレの言った通りってのは、「こんなバラバラじゃ」ってやつか?真面目なヤツだ。
あぁ…なんかイライラする。
先頭に向かって駆けていくイルの背中を見ながらそう思っていた―
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『嫌な思い出…そんな事あった?』
『多分、オマエにはわからねぇよ』
『何よそれ!』
怒るディアの顔を見ながら、オレは苦笑した。
『何がおかしいの?』
『いや、今更ながらオマエは凄いって事だ』
『はぁ!?いきなりなに?気持ち悪い!』
ははっ、また言われちまったな。
そう…オマエ達は凄いんだ。
いわゆる天才の集まり―
凡才のオレの手の届かない所にいる存在達―
この森で、オレはそれを痛いほど感じたんだからな―
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勇者パーティーは寄せ集めのバラバラだったが、戦闘での役割は割とハッキリしていた。
だから、隊列も自然に役割ごとに別れて組まれた。
先ずは先頭を歩くアタッカー組―
戦士、剣士、傭兵、魔法使い―攻撃を主体とするヤツラ。
魔法使いは基本、サポート兼アタッカーの位置が多いが、どうやらテスタルドはゴリゴリのアタッカーのようだ……たから剣士であるノビルと揉めたのだ…正直、もう歳なんだから勘弁して欲しい。
続いて中盤を歩くサポート組―
弓使い、薬師、学者、僧侶、魔法使いの弟子―サポートからアタッカー、バックアップまでこなすヤツラ。
魔法使いの弟子のマーゴはアタッカー寄りのサポートって感じのようだが、まぁ…これが普通と思う。
僧侶はど真ん中、薬師と学者はバックアップ寄りのサポートって感じに見えた。
で、最後はバックアップ組―
ディアとお付きの騎士―ほぼパーティーの後方支援を一人でこなす天才、そしてそれを可能にしているのは、お付きの盾騎士の防御力に他ならなかった。
盾騎士への信頼がなければ、後方支援だけに集中する事はきっと出来ないだろう。
そして、その他が一人―
前に行ったり後ろに行ったり…忙しなく動く普通の少年イル。
コイツはいったい何がしたいんだか…まったく。
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イルが先頭に辿り着き、ノビルとテスタルドの間に入り話し始めた。
弟子のマーゴは未だにオロオロして二人の間を行ったり来たりしている。
しっかりしろよ…
と呆れながら見ていると、何故かイルがオレの方をチラチラ見て二人に話しかけている。
嫌な予感がする…アイツ何言ってんだ?
イルが話し終えると、ノビルが凄い顔で、こちらを指差して何か言っているのが分かった。
最悪だ…オレを巻き込むんじゃねぇ。
オレは歩くスピードを緩め、パーティーから距離を置く事にした―
その瞬間だった…
ガサガサガサッ!
森の奥から突然現れた影に体を持っていかれる。
『何だよ!?クソッ!?痛ぇ…』
気がついた時には片腕を咥えられぶら下がっていた。
自分の置かれた状況が理解出来ない。
パニックになりながらも攻撃魔法を繰り出す。
『【ランチャフォーコ】!』
どうだ!オレが使える最強の魔法だ!
炎に包まれる魔物の顔…オレだってこのくらいは…
しかし、オレの予想とは違う結末が待っていた。
弾かれる炎の槍…
無傷の魔物がこちらに目を向けた瞬間、オレは死を悟った。
駄目だっ!
目を瞑った瞬間、体が地面に落とされた。
恐る恐る目をあけると、そこには剣を抜き放ち魔物の首を両断する姿。
『イル…!?』
なんとイルが魔物の首を落としていたのだ。
驚くオレに、イルは申し訳なさそうに謝って来た。
『すいません、油断しました。直ぐ治します。』
そう言うと回復魔法を唱える。
『【グランクーラ】!』
グランクーラだって!?上級回復魔法じゃないか。
みるみる回復していく自分の腕を見ながら目を見開く。
『アナタなかなかやるじゃない。』
声のした方向を見ると、ディアが楽しそうに拍手をしている。
おいおい…"なかなか"何てもんじゃないぞ。
『オマエ、剣は何処で習った?』
気がつくとノビルがイルに話しかけていた。
『まだ、いますよ。油断は禁物です。【カテナフル】!』
広範囲に雷撃が繰り出される。
コイツ…バケモノかよ…
『ほほぉ…なかなかの魔法よ。弟子のマーゴといい勝負ができそうじゃわい』
テスタルドか、コイツにもアレが"なかなか"に見えるのか…
『師匠…勘弁してください。僕は力加減が不得意なんですから…森ごとなくなっちゃいますよぉ。』
謙遜しながら、とんでもない事言いやがる…
『魔物の名前は、黒狼ルポネーロ、身体に隠密魔法と、弱い魔法を弾くバフがかかってます』
この声は学者か?
『さっきの雷撃で敵の数と位置は把握した。数は20、見える範囲は任せる、私は見えない位置のヤツラを担当しよう』
今度は弓使いか―この状況で、何で冷静でいられるんだよ…
『ハイハイっ、治療を変わるよぉ。ってほぼ治ってるね』
『確かに、でも痛かったでしょ?これをお飲みなさいな』
ノリの軽い僧侶と、優しげな薬師がオレを看病してくれる。
『おい、そんな役立たず構ってないで戦えよ。ソイツ助けても金にならんだろ?』
『そう言うな…ここはオレ一人でも大丈夫だ。怪我人を、優先してくれ』
傭兵は嫌味…
戦士は人格者のようだ…
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戦闘は一瞬だった。
イルを中心に全員が役割を果たした…オレは何も出来ず、次々と打ち倒されていく魔物の群れを見ていた。
無力―
オレは自分の手を見て思い出していた。
オレの放った魔法は炎系でも中級魔法に位置する…普通の魔物ならダメージを与えることは勿論の事、一撃で倒すこともできるはずだ。
その魔法を簡単に弾くレベルの魔物…それを一撃で倒すバケモノ達…
『レベルが違う』
心の声が漏れた。
『当たり前でしょ?このメンバーは魔王を倒すために集められたんだから。「自分にもどうにかできる」とか思ってたの?おめでたい人ね』
顔を上げるとディアがオレの顔を覗き込んでいた。
オレは、たまらず目を背けた。
わかっていた…わかっていたが―
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気がつくとバーゼの森を抜けていた。
オレの様子が気になっていたのか、ディアが顔を覗き込んで来る。
『大丈夫?よっぽど嫌な思い出だったみたいね…』
『いや、もう大丈夫だ。』
ディアの顔を見て思い出す…
あれ?オレに最もダメージを与えたのはコイツだったような―
今じゃ、笑い話か。
苦笑するオレに詰め寄ってくるディア。
『また笑ってる。今度は何よ?私の顔見るたびに笑ってるでしょ?』
『いやな、オマエも変わったなってな。いい意味で』
『いい意味?』
『そう、いい意味だ…今のオマエの方が好きだって話だよ』
『…は!?はぁ!?』
ん?何だ?顔真っ赤にして…
もしかしてコイツ、お高く止まりすぎて、誰からも褒められないから、慣れてないのか…可哀想なヤツだ。
『オレが褒めてやるから安心しろ』
バシッ!
『痛っ!なにすんだよ…』
ケツを蹴られた。
『バカ言ってないで進むわよ』
『おい、待てよ!オレ何かしたか?』
先に行くディアの背中を追いかける。
その背中越しに霞んで見えたのは、あの事件が起きた山【オンブラ】。
そこでオレたちは、再び過去の出来事と向き合うことになるのだった―
第四話『残響の詩』を読んでいただきありがとうございました。
今回はバーゼの森での出来事を通して、メネスが勇者パーティーの実力を初めて目の当たりにした場面を描きました。
無力な凡人…
今でもメネスの心に残り響き続ける感情の原点でした。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。




