第5話 フリマで売れたので、知らない人に会いに行くことになった
「……売れた?」
スマホの画面を見て、私は小さくつぶやいた。
出品していた雑貨の一つに、購入希望の通知。
しかも、メッセージ付き。
『実物を見てから決めてもよろしいでしょうか』
「……どういうことだろう」
フリマアプリは、だいたいそのまま買うものだと思っていた。
でも、断る理由も特にない。
むしろ、売れるならありがたい。
「……まあ、いいか」
私はそう判断して、返信した。
『大丈夫です』
送信。
その数分後、場所と時間が決まった。
思ったより早かった。
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当日。
私は家を出た。
外に出るのは、買い出し以来かもしれない。
「……こんな感じだったっけ」
空気が、少しだけ違う気がする。
気のせいかもしれない。
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待ち合わせ場所は、駅前のベンチ。
少し早めに着いて、私は腰を下ろした。
隣には、持ってきた紙袋。
中には、例の雑貨。
「……これ、本当に必要なものだったのかな」
今さら少しだけ考える。
でももう遅い。
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「すみません」
声をかけられて、顔を上げた。
そこにいたのは、想像よりも普通の人だった。
「……あ、はい」
私は立ち上がる。
お互い、少しだけ距離を測る。
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「こちら、出品されていたものですよね」
「はい」
私は紙袋から品物を取り出した。
相手はそれを受け取って、じっと見つめる。
思っていたより、じっくりだ。
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「……思っていたより、普通ですね」
「どういう意味ですか」
思わず聞き返してしまった。
相手は少しだけ考えてから、
「写真だと、もう少しこう……特別感があるというか」
「なるほど」
よくわからないが、そういうことらしい。
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しばらく沈黙。
相手は品物をひっくり返したり、角度を変えたりしている。
私はそれを見守る。
「……」
「……」
駅前のざわざわした音だけが、間を埋めていた。
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「……買います」
「ありがとうございます」
あっさり決まった。
少し拍子抜けする。
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お金を受け取って、品物を渡す。
それだけのやり取り。
でもなぜか、少しだけ達成感があった。
「こういうの、よくやるんですか?」
帰り際、相手が聞いてきた。
「いえ、最近ちょっとだけ」
私は答える。
相手は小さくうなずいた。
「いいと思います」
「……何がですか?」
「なんとなくです」
そう言って、相手は去っていった。
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私はその場に少しだけ立ち尽くした。
「……なんだったんだろう」
よくわからない。
でも、嫌な感じではなかった。
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帰り道。
私は紙袋のなくなった手を見て、少しだけ軽くなった気がした。
スマホを取り出して、残高を確認する。
少しだけ、増えている。
「……まあ」
私は小さく息を吐いた。
「いけるかもしれない」
根拠はない。
でも、今日は少しだけ外に出た。
それだけで、なんとなくそんな気がした。
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家に戻る。
ドアを開ける。
見慣れた部屋。
ダンボール。
レシート。
もやし。
全部そのままだった。
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私はキッチンに向かった。
フライパンを出す。
もやしを入れる。
ジュウウウ、と音がする。
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「……まあ、いっか」
何がとは言わない。
でも、たぶんなんとかなる。




