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所持金15万円で一人暮らししてるけど、たぶんなんとかなる ―もやしとフリマで続いていく、ゆるい生活―  作者: 春凪とおる


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第35話 少しだけ、返してみてもいい気がする


「……」


スマホを見る。

通知が来ている。


フリマアプリ。


「ありがとうございます」

いつもの短い文章。


「……」


しばらく見る。

前なら、そのまま閉じていた。


返すときもあった。

返さないときもあった。


どちらでもよかった。


「……」


今日も、どちらでもいい気がする。

でも、少しだけ指が止まる。


画面を開く。

文字を打つ場所がある。


「……」


何を書けばいいのか、少しだけ考える。


ありがとうございます。

こちらこそありがとうございます。


またよろしくお願いします。


「……」


どれも、少しだけ違う気がする。

でも、どれでもいい気もする。


「……」


私は、ゆっくり文字を打つ。

こちらこそ、ありがとうございました。


「……」


見る。


少し丁寧すぎる気がする。

でも、悪くはない。


送信する。


「……」


送った。

それだけ。


スマホをテーブルに置く。

部屋は静かだった。


「……」


少しだけ、変な感じがする。

何かをした気がする。


でも、何かをしたというほどでもない。


「……まあ」

小さくつぶやく。


立ち上がる。

キッチンに向かう。


冷蔵庫を開ける。


もやし。

卵。

水。


「……」


ある。

もやしを取り出す。


袋を開ける。

少しだけ、匂いを確認する。


「……」


大丈夫。

たぶん。


フライパンを出す。

火をつける。


ジュウウウ、と音がする。


もやしを入れる。

湯気が上がる。箸で動かす。


いつもの音。

いつもの手順。


「……」


スマホが鳴る。


「……」


少しだけ止まる。

火を弱める。


テーブルを見る。

スマホが光っている。


「……」


返事かもしれない。

でも、今はもやしがある。


「……」

私はフライパンを見る。


もやしは、返事を待ってくれない。

待ってくれないというか、焦げる。


「……」

それは困る。


箸で動かす。

少しだけ笑う。


火を止める。

皿に移す。


テーブルに運ぶ。

座る。


スマホを見る。

通知が一つ。


「ご丁寧にありがとうございます」

「……」


短い。

でも、少しだけ長い。


「……」


私は画面を見ている。

もう返す必要はない気がする。たぶん。


返してもいいのかもしれない。

でも、返し続けると終わらない。


「……」


終わらないのは、少し困る。

画面を閉じる。


テーブルに置く。

一口食べる。


「……」


同じ味。少しだけ熱い。

もう一口食べる。


「……」


悪くない。

外の音がする。


車。

足音。

誰かの話し声。


「……」


人は、外にもいる。

スマホの中にもいる。


でも、少しだけ遠い。

そのくらいが、今はちょうどいい気がする。


「……」

私はもやしを見る。


「……おまえは」

少しだけ考える。


「……返事しなくていいから、楽だな」


もやしは何も言わない。

当たり前だった。


「……まあ」

私は小さくうなずいた。


箸を進める。

スマホは静かになっている。


部屋も静かだった。

でも、完全に何もないわけではない。


送った言葉。

返ってきた言葉。


皿の上のもやし。

全部、少しだけここにある。


「……」


少しだけ、距離がある。

でも、切れてはいない。


それでいい気がした。

私はそう思って、もう一口食べた。


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