第32話 雨の音は、少しだけ部屋の近くに来る
「……」
音がする。
目を開ける。
雨。
窓の外を見る。濡れている。
空は暗い。
「……」
少しだけ、部屋も暗い。
私はそのまま座っている。
特に急ぐことはない。
雨の音が続いている。
一定の音。
強くはない。
でも、止まらない。
「……」
少しだけ、聞く。
前は、あまり気にしていなかった気がする。
雨。
音。
外のこと。
でも、今日は少しだけ近い。
窓の向こう。
道路。
傘。
歩いている人。
みんな、少し急いで見える。
「……」
私は急いでいない。
少しだけ、不思議な気がする。
立ち上がる。
キッチンに向かう。
冷蔵庫を開ける。
もやし。
卵。
水。
「……」
変わらない。
少しだけ安心する。
もやしを取り出す。
袋を開ける。
フライパンを出す。
火をつける。
ジュウウウ、と音がする。
雨の音。
フライパンの音。
少しだけ似ている気がする。
「……」
箸で動かす。
湯気が上がる。
窓の外を見る。
雨はまだ降っている。
隣の部屋から、水の音がする。
シャワーかもしれない。
「……」
生活している音。
少しだけ聞こえる。
前から、あったのかもしれない。
でも、今日は少しだけ残る。
「……」
火を弱くする。
雨の音が続く。
シャワーの音も続く。
部屋の中は静か。
でも、何もないわけではない。
「……」
少しだけ、近い。
何が近いのかは、わからない。
火を止める。
皿に移す。
テーブルに運ぶ。
座る。
一口食べる。
「……」
同じ味。
でも、今日は少しだけ温かい気がする。
雨のせいかもしれない。
もう一口食べる。
外では、まだ雨が降っている。
「……」
窓を見る。
少し曇っている。
手を伸ばして、少しだけ触る。
冷たい。
「……」
小さく息を吐く。
スマホを見る。
通知は来ていない。
画面を閉じる。
少しだけ静か。
でも、完全には静かじゃない。
雨の音。
シャワーの音。
遠くの車。
全部、少しだけ聞こえている。
「……」
「……まあ」
小さくつぶやく。
私は箸を置いた。
部屋の中にいる。
外は雨。
遠い。
でも、今日は少しだけ近い。
それでいい気がした。
私はそう思って、もう一口食べた。




