第2話 所持金15万円生活、今度は固定費に殺されそうです
「よし、今月こそちゃんと節約する」
私はそう決意して、テーブルの上に広がったレシートを軽くまとめた。
飲みかけのペットボトルが一本、横で転がっている。
スマホの充電は、残り3%。
「……まあ、まずは現状把握から」
私はスマホを手に取って、銀行アプリを開いた。
開いた瞬間、閉じた。
「……今の、見なかったことにできる?」
できないので、もう一度開く。
引き落とし履歴。
見覚えのない名前が、いくつか並んでいた。
「……この700円、誰?」
いや、人ではない。たぶん。
でも記憶にもない。
スクロールする。
また一つ、知らない引き落とし。
「え、まだある?」
さらにスクロール。
「……まだある?」
私はそっとスマホを伏せた。
現実は、いったん距離を置くことでやり過ごせる場合がある。
たぶん。
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5分後。
私は覚悟を決めて、もう一度スマホを手に取った。
「よし、一個ずつ確認しよう」
まずは一番上の700円。
サービス名をタップする。
ログイン画面。
「……ああ、はいはい」
メールアドレスを入力する。
パスワードを入力する。
『パスワードが違います』
「知ってた」
もう一度入力する。
『パスワードが違います』
「うん」
三回目。
『一定回数を超えたためロックされました』
「……早くない?」
私はスマホをそっと机に置いた。
横で、空になったペットボトルがカランと転がる。
「……なんでだよ」
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私は天井を見上げた。
うっすらとしたシミが、なんとなく魚に見える。
「……まあ、月700円だし」
小さい出費だ。
気にするほどではない。
そう思って、もう一度スマホを見る。
別の引き落とし。
500円。
さらにその下。
980円。
その下。
1,200円。
「……合計、いくら?」
計算はしていない。
したくないとも言う。
私はゆっくりとスマホを伏せた。
「……いやでも、全部必要だった気もするし」
たぶん過去の私が、何かしらの理由で登録したのだろう。
過去の私は、だいたい楽しそうに生きている。
今の私は、その請求を受け取っている。
「……まあ、いいか」
よくはない。
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それでも、私は立ち上がった。
「一個くらいは解約しよう」
小さな成功体験は大事だ。
さっきとは別のサービスを開く。
ログイン。
今度は、なぜか入れた。
「おお……!」
少しテンションが上がる。
設定画面。
「解約はこちら」
「やさしい」
指が震える。
本当にいいのか。
これを解約してしまって。
私は一瞬だけ悩んだ。
そして、押した。
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「……できた」
解約完了の文字。
その瞬間、なぜか達成感があふれた。
「私、やればできるじゃん」
たった一つ。
でも確実な一歩だ。
私は満足して、スマホを置いた。
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そのとき。
画面に通知が表示された。
『ご利用ありがとうございます』
「いや、ありがとうじゃない」
思わずツッコミが出る。
よく見ると、さっきとは別のサービス名だった。
「……え?」
嫌な予感がする。
私は震える手で、その通知をタップした。
登録完了画面。
「……今、押した?」
記憶がない。
でも、さっき色々触っていた。
「……まあ」
私は深く考えないことにした。
「必要になるかもしれないし」
ならない気もする。
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私はスマホを机に置いた。
レシートの山と、空のペットボトル。
その中で、画面だけがやけに明るい。
「……とりあえず」
私は小さく息を吐いた。
「今月も、たぶんなんとかなる」
根拠はない。
でも今までだいたい、そうだった。




