第1話 所持金15万円。詰んだ気もするけど、たぶん気のせい
少しだけ、雰囲気の違う話を置いておきます。
「……15万円?」
思わず声が裏返った。
ワンルーム六畳。
築年数の主張が激しいアパートの床に座り込みながら、私は通帳を見つめていた。
残高、150,382円。
四捨五入すれば15万円。しなくてもだいたい15万円。
そして次の給料日まで、あと28日。
正直、ちょっと不安ではある。
でもまあ、今までもなんとかなってきたし。
「……いける気がする」
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1日目:計画は完璧
私はまず冷静に計算した。
・食費:1日500円×28日=14,000円
・光熱費:まあなんとかなる
・雑費:……なんとかなる
「完璧」
たぶん。
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3日目:崩壊の兆し
「今日は節約のために自炊!」
意気込んでスーパーに行き、気づいたらカゴにはこう入っていた。
・ちょっといい牛肉
・カットフルーツ
・なぜかプリン(3個パック)
「これは……必要経費」
帰宅後、私は焼肉パーティーを一人で開催した。
3日で、何かが終わった気がする。
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7日目:現実
「……もやしって、こんなに頼もしかったっけ」
冷蔵庫の中、もやし×3袋。
調理法:ゆでる、炒める、気合で味変。
私はもやしと向き合いながら、人生について考えていた。
そのとき、ふと通帳を確認する。
「……残高、2,132円」
一瞬、呼吸が止まった。
「……詰んだ?」
沈黙。
そして3秒後。
「いや待って、“2”がある。ゼロじゃない。いける気がする」
——私はこういうとき、だいたい“いける気がしてくるタイプ”だ。
もやしをフライパンに入れる。
「これは節約じゃない。“戦略的生活”」
ジュウウウ、と音がした。
ちょっと焦げた。
でも、食べた。
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12日目:覚醒
「もうこうなったら、稼ぐしかない」
私はフリマアプリに手を出した。
出品したもの:
・着てない服
・なんとなく買った雑貨
・一度も使ってないヨガマット
説明文にはこう書いた。
「生活立て直し中のため出品します」
なぜか売れた。
しかも応援コメントまでついてきた。
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18日目:副収入の味
「売れた……また売れた……!」
通知のたびにテンションが上がる。
気づけば私は、
「これ、節約じゃなくてビジネスでは?」
と調子に乗り始めていた。
その日の夕飯は、久々のまともなパスタ。
(ただしソースは半額)
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24日目:人間関係
「久しぶり!元気?」
友達からの連絡。ご飯のお誘い。
私は少しだけ悩んで返信した。
「今、ちょっと生活を見直してるところで」
嘘ではない。
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28日目:決戦の日
通帳残高。
「……3,842円」
ギリギリ。
だが、生きた。
電気も止まらず、水も出て、私はちゃんと28日を乗り越えた。
「ほら、やっぱりなんとかなった」
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エピローグ
給料日。
振り込まれた数字を見て、私は思った。
「……いけるじゃん、私」
そしてその夜。
ちょっといい寿司を頼んだ。
「これは、ご褒美だから」
人は簡単には変わらない。
でも、少しだけ強くはなれる。
たぶん。




