第13話 もらったスパイスを使ってみたら、少し違うことになった
「……ん」
キッチンの棚を開けて、私は手を止めた。
見慣れない小瓶。
ラベルは、少し読みにくい。
「……こんなの、あったな」
いつだったか、もらったやつだ。
たしか「これ、なんにでも合うから」みたいなことを言われた気がする。
「……なんにでも、か」
私は小瓶を軽く振った。
中で粉が動く。
「……まあ」
少しだけ考える。
「……今日なら、いいか」
フライパンを出す。
火をつける。
もやしを入れる。
ジュウウウ、と音がする。
いつも通り。
「……おまえは、いつも通りだな」
小さく言う。
もやしは、何も言わない。
卵を手に取る。
この前買った、少しだけいいやつ。
「……今日は、もう一歩いくか」
私は小瓶を見た。
「……なんにでも、だしな」
少しだけ迷う。
どれくらい入れればいいのか、わからない。
「……まあ」
私は軽く振った。
パラパラ、と落ちる。
「……これくらいか」
「……」
手が止まる。
「……“なんにでも”って、どこまでだ?」
もやしを見て、卵を見て、
「……まあ、今さらだな」
多いのか少ないのかは、わからない。
いい匂いがする。
少しだけ、いつもと違う。
「……それっぽいな」
私はうなずいた。
卵を割る。
もやしの上に落とす。
さっきのスパイスが、全体に混ざっていく。
「……」
少しだけ見つめる。
「……ちゃんとしてる気がする」
根拠はない。
でも、そんな気がした。
火を止める。
皿に移す。
テーブルに運ぶ。
座る。
箸を持つ。
「……」
一口。
「……あれ」
私は少しだけ止まった。
もう一口。
「……」
少しだけ考える。
「……なんか」
言葉を探す。
「……いい匂い“だけ”はするな」
「……味は」
さらに考える。
「……主張が、全員バラバラだな」
「……誰も責任を取らない味がする」
でも、それだけだった。
まずくはない。食べられる。
でも、何かが違う。
「……」
私はフライパンの方を見た。
「……おまえ」
小さく呼びかける。
「そのままで、よかったかもしれないな」
もやしは、何も言わない。
もう一口食べる。
やっぱり、よくわからない。
「……なんか、遠いな」
何がとは言わない。
でも、味が少し遠い気がする。
「……」
私は小さく息を吐いた。
「……まあ」
全部食べる。
残すほどではない。
でも、満足でもない。
「……」
スマホを手に取る。
残高を見る。
変わっていない。
当たり前だ。
「……まあ、いいか」
私はうなずいた。
立ち上がる。
フライパンを見る。
少しだけ、洗うのが面倒そうに見える。
「……増えたな」
何がとは言わない。
私は水を流しながら、小さくつぶやいた。
「……次は、普通でいいな」
もやしは、何も言わなかった。
私は少しだけ笑った。
「……“なんにでも”は、信用しないことにした」




