第12話 卵だけ、ちょっといいやつを買った日
「……」
私は卵売り場の前に立っていた。
いろんなパックが並んでいる。
同じようで、少しずつ違う。
「……高いな」
ひとつ手に取る。
いつもより、少しだけ値段が上だ。
安い方もある。
むしろ、そっちが普通だ。
今までずっと、そっちだった。
「……」
私は少しだけ考える。
手に持ったまま、戻すかどうか迷う。
「……まあ」
小さく息を吐く。
「……これくらいなら、いいか」
誰に言うでもなく、そうつぶやいた。
カゴの中には、もやし。
それはもう決まっている。
変わらない。
「……おまえは、いつも通りだな」
小さく言う。
もやしは、何も言わない。
レジに向かう。
卵ともやし。
それだけ。
会計を済ませる。
少しだけ、いつもより高い。
でも、大きな差ではない。
「……」
外に出る。
袋の中を少しだけのぞく。
「……ほんとに、変わるのか」
誰にともなくつぶやく。
家に帰る。
ドアを開ける。
いつもの部屋。
ダンボール。
レシート。
もやし。
「……増えてないな」
それを確認して、少しだけ安心する。
キッチンに向かう。
フライパンを出す。
火をつける。
もやしを入れる。
ジュウウウ、と音がする。
いつも通り。
「……」
私は卵を手に取る。
さっきのやつ。
少しだけ高かったやつ。
「……いくか」
小さく言って、割る。
フライパンの上。
もやしの上に、卵が落ちる。
「……」
少しだけ見つめる。
「……なんか」
私はゆっくりと息を吐いた。
「……ちゃんとしてるな」
もやしと卵。
それだけなのに、少し違う気がする。
火を止める。
皿に移す。
テーブルに運ぶ。
座る。
箸を持つ。
「……」
ひと口。
「……あ」
私は少しだけ止まった。
「……なんか、違うな」
うまく言えない。
でも、確かに少しだけ違う。
「……おまえ」
私はフライパンの方を見て言う。
「ちょっと格上と組んでるな」
もやしは、何も言わない。
いつも通り。
もう一口食べる。
やっぱり、少し違う。
「……これくらいなら」
私は小さくつぶやいた。
「たまに、いいかもな」
食べ終わる。
満足かどうかは、よくわからない。
でも、悪くはない。
スマホを手に取る。
残高を見る。
「……」
少しだけ減っている。
「……まあ」
私はうなずいた。
「これくらいなら、大丈夫だろう」
根拠はない。
でも、さっきより少しだけ納得している。
私は立ち上がって、フライパンを軽く洗った。
「……な」
小さくつぶやく。
「たまには、こういうのもいいよな」
もやしは、何も言わなかった。
私は小さく笑って、うなずいた。
「……まあ、いけるか」
なんとなく、がこころを後押しした。




