第11話 もやしじゃないものを食べたいと思った日
短編も読んでいただき、ありがとうございます。
「……次、売れたら」
ちゃんとしたものを食べる。そう決めた。
「……」
私はフライパンの前に立っていた。
中には、もやし。
いつもの光景。
変わらない音。
ジュウウウ、と静かに広がる。
「……なあ」
私は少しだけ間をおいて、
「今日も、よろしくな」
とつぶやいた。
もやしは、何も言わない。
いつも通りだ。
「……」
少しだけ考える。
フライパンの中。
白くて、細くて、軽い。
「……おまえ、ほんと安いよな」
私はそう言って、小さくうなずいた。
事実だった。
安い。
早い。
だいたいなんとかなる。
「……助かってる」
誰に言うでもなく、そうつぶやく。
しばらく炒める。
いい感じの見た目になる。
いつも通り。
「……」
火を止める。
皿に移す。
テーブルに置く。
私は座って、それを見た。
もやし。
それ以上でも、それ以下でもない。
「……」
箸を持つ。
少しだけ止まる。
「……なんか」
言葉が、少しだけ引っかかった。
一口食べる。
味は、いつも通り。
問題はない。
「……おいしいかって言われると」
私は少しだけ考えて、
「まあ、普通か」
と結論を出した。
もう一口。
変わらない。
安定している。
「……」
私は箸を置いた。
「……なあ」
もう一度、フライパンを見る。
正確には、その中にいたものを思い出す。
「……たまにはさ」
少しだけ言葉を探す。
「もうちょっと、ちゃんとしたの食べてもいい気がするんだよな
部屋は静かだった。
ダンボール。
レシート。
スマホ。
全部、いつも通り。
私はスマホを手に取った。
残高を見る。
「……」
減っている。
当たり前だ。
でも、ゼロではない。
「……」
私は少しだけ考えた。
「……毎日じゃなくていいんだけどな」
小さくつぶやく。
「週に一回くらい、ちゃんとしたやつ」
具体的なものは浮かばない。
でも、“もやしじゃない何か”は確実に存在する。
「……」
私はもう一度、もやしを見る。
「……悪くないんだけどな」
本音だった。
「……でもさ」
少しだけ笑う。
「ずっとおまえっていうのも、なんか違う気がしてきた」
もやしは、何も言わない。
変わらない。
それが、いいところでもある。
「……」
私は少しだけ考えて、
小さくうなずいた。
「……よし」
何を決めたのかは、よくわからない。
でも、なんとなく決まった。
「……次、売れたら」
私はスマホを見ながら言った。
「ちょっとだけ、いいの買うか」
それくらいなら、たぶん大丈夫だ。
根拠はない。
でも、今までだってそうだった。
「……な」
私はフライパンの方を見て、
「それくらい、いいよな」
もやしは、何も言わなかった。
私は小さくうなずいた。
「……まあ、いけるか」
――そう思えるうちは、まだ大丈夫だ。




