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Crazys!  作者: ノンアルコール
C,8-A-2 Declare War.
53/65

『今、我々の同志が上手くやっているのならば、メトロ市民の大半が、私の声に耳を傾けているだろう。これを機に、私は世間に、我々シティアベンジャーの本来の目的を語らせていただきたいと思う。なに、長い話になるわけではない。ただ、猛々しい闘争心を持ち、世界と戦う意思のある者は、喝采を以て我々に賛同してほしい。そんな彼らには、我々は誠意を以て応えよう。我らの同志として、君が求める理想郷アヴァロンへの道を示そう』

 拡声器から流れ出る声を聞いて、唖然としていた人々も流石にザワつき始めた。

 先程の爆音も、シティアベンジャーの仕業なのか、あの拡声器はどこに繋がっているのか、一体警察や主催者団体はなにをしているのか。ざわつく市民の反応も予測していたかのように、声は更に音量を上げて街中に響き渡る。

『我々の目的は、唯一つ。平等な世界を創ることである。命の危険に怯える者、飢えに苦しむ者、権力を持つ者、華やかな者、裕福な者、そのような差別を全て無くし、劣等感や嫉妬心に駆られることの無い、平らな世界を創り上げることだ』

 一際大きく響いた男の声は、実に人間の脳味噌に好く届く声だった。

 緩慢で、流暢。それでいて力強く、ノイズ混じりで音質の悪い拡声器でもはっきりきこえる滑舌。爆発騒ぎ直後の放送とは思えないゆったりとしたペースは、余計に人々を拡声器へと引きつけた。

 その時、声が街を支配したのである。突然の出来事、大音量の拡声器からの声、華やかな騒ぎとは一転して、まるでこの世の終わりでも見据えたかのような静寂の中で人々は、その声に耳を傾けざるを得なかった。

『……平らな世界。誰もが平等に暮らす社会。想像できるだろうか? 誰もが心の隅で願いながら、諦めている安全な暮らしを。銃も無い。ナイフも無い。そんな夢の様な世界を、諸君らが想像するのは恐らくとても困難なことだろう。何故なら、諸君らはそれを体験したことが無いからだ。目の前に聳え立つ壁の向こうの住人は、化け物や犯罪者の陰に怯える事も無く、何不自由ない生活を送っているのにもかかわらず! 我々は、平和で平等な生活を、社会を夢見ることすら叶わない。我々は、あの壁の向こうの住人に劣っているのである。鉄道を引こうが巨大な駅を造ろうが、それ如きの科学力を持て囃しているようでは、我々はアレに、シティには勝てないのだ。シティという存在がある限り、我々は未来永劫、トラッシュシティでしかない。ゴミだ。我々は奴らにとってゴミ箱の住民なのだ。教養も力も無い、無法地帯で暮らすのがお似合いの、下賤な市民なのだ』

 人々に息つく暇すら与えずに、拡声器の声の主は言い放った。

スゥ、とマイク越しに息を吸い込む音が聞こえる。それだけで、人々は、拡声器の向こう側で演説する人物の様相が見て取れた。それほどまでに拡声器からの声は、臨場感で溢れていたのである。

『ならば、どうしたらいいのだろう。ゴミはゴミのままでいるべきか。……それは違う。我々は、人間である。あの壁を取り除けば、その向こう側でノウノウと暮らしている奴らと同じなのだ。可笑しなことだ。実に、可笑しい。そう思うだろう諸君。可笑しいのだ。どう考えても可笑しい。我々がこんな薄汚い荒野で生きている事が、壁の向こうで自由に生きている人々が、どうしても可笑しいのだ。だから、これは…………』

 拡声器からの声が、深く息を吸って演説の間を開けた。人々が、ごくり、と息を呑む時間が十分に取れるほど。

 シンと静まり返った街中で人々の意識は拡声器へと釘づけになっていた。

『宣戦布告だ。シティへ、いや、不平等への。我々メトロ市民が革命軍となり、力を振りかざす金持ち共を皆殺しにしてやろう。我々をゴミと称し、乾いた荒野へ追いやった自称上流階級エリート共に、我々の先祖が受けた屈辱を晴らすのだ。メトロに産まれ、失われた命の無念を晴らすのだ! そうだ、これは、戦争だ。主役は市民、君達だ! 平等を、安全を勝ち取れ。薄汚い人殺しのギャングを殺せ。汚職に塗れ、権力ばかりを振りかざす無能な警察を殺せ。金持ちを殺せ。知識人を殺せ。芸術家を殺せ。安心せよ。これは、正義の戦いである。我々を貶め、辱め、全てを奪い去った者達への、報復なのだ。怖れる事は無い。さすれば我々は平等だ。我々は、唯一一個の市民となる。革命市民軍として、この地に君臨することが許される。我々は……同志だ』

 と、そこで。唐突にブツリと、拡声器の音声が途切れた。

 ピンと張った糸を勢いよく引きちぎった様な音に、それまで拡声器からの声に耳を傾けていた人々は、ハッと我に返って辺りを見渡した。

 そしてその中の幾人かが、拡声器の取りつけられた露店の柱の下で、ナイフを持った厳つい顔の体格の良い男が、ギロリと眼を光らせて人々を睨みつけているのに気が付いた。

 今回の祭典の裏を仕切っていたギャングの一人であろうか、拡声器から伸びるコードをナイフで断ち切ったのである。男は苛立ったような顔で立ち上がると、辺りの人だかりに向けて怒鳴った。

「シティアベンジャーだかなんだか知らねえが、好き放題言ってくれるじゃねえか! こちとらさっきの爆発で小火が出て、人手が足んねえんだ! ぼーっとしてねえでさっさと……」

 男が言い掛けた時。一発の銃声が鳴り響いた。

 ドォン、と、未だ静寂に包まれていた街中で鳴り響いた銃声は、人々の鼓膜を揺らし、そして、立ち上がり、怒鳴り声を上げていたギャングの胸を赤く染めた。

「……あ?」

 何が起こったのかもわからぬまま、ギャングは赤く濡れる己の胸に震える手を当てて、引き攣った声を上げると、そのまま膝から崩れ落ちる様に地面に倒れた。

 悲鳴を上げる余裕も無いまま、人々の心は麻痺した様に目の前で起こった出来事が理解できなかった。そしてせめてもの反応として、人々の視線が、銃声の出所を探して無言のまま辺りを彷徨う。

「……指導者様が、仰ったんだ」

 徐々に、人々の視線がある一点に集中した。

 硝煙を僅かに立ち上がらせた銃口が震え、その凶悪な黒い鉄の塊を構えた男が、ガチガチと歯を鳴らしながら、震える唇で弁解するように呟いた。

「指導者様が……、これは、正義の戦いだからって……。力を振りかざす奴は……平等な世界には必要ないからって……、だから、こいつは……妹を殺したから……、は、はは…俺は、間違ってないよな? なぁ!?」

「う、うわああああああ!!」

 フラフラと、辺りを見渡して同意を求めようと銃を振り回す男に、人々は慌てた様に仰け反って恐怖で引き攣った顔を彼に向けた。

 悲鳴が上がると、そのパニックは一斉に辺りに伝染した。血だまりの中で横たわるギャングの屍を見て、銃を持った焦点の合わない男の姿を見て、人々は、今すぐこの場所から逃げ出そうと叫び声を上げて逃げ惑った。

 人々の悲鳴、武器を持ち、不平等と戦うことを決心した者達の狂ったような笑い声、そして、どこからともなく獣の様な凶悪な鳴き声が、メトロの街を包みこんだのである。



<Cookie8―2> Declare(ディクレア) War(ウォー)



 先程までの華やかな空気とは一転して、街中は大パニックに陥った。

 銃を持った市民が、ギャングや警察を撃つだけならまだしも、どこからか解き放たれたクリーチャー達が表通りに姿を現し、露店を荒らし人々を襲った。

 それもこれも、シティアベンジャーの仕業なのだろうか。先程の放送は一体何だったのか。ツキシマは、トウジョウと共に路地の入口で、混乱する通りを見つめながら憎々しげに奥歯を噛みしめた。

「い、一体どういう事なんじゃ!? なんでこんな街中に化け物が……」

 目を丸くして、辺りを見渡すトウジョウが言い掛けた時。ツキシマの視界の端で殺気を纏った影が蠢いた。ツキシマがその方向に素早く視線を向けると、薄ピンク色の肌の、凶悪な牙を携えた四足歩行の生物がトウジョウに照準を定めているのが見えた。

 それにツキシマが気付いた直後、二匹のクリーチャーが地を蹴って勢い良く駆けだした。ツキシマはクリーチャーの存在に気付いていないトウジョウの前に素早く立つと、ホルスターから銃を抜いてすぐさまトリガーを引く。

「ギャアアアッ!」

 銃を抜いてすぐに発砲した為か、ツキシマの放った弾丸は、片方のクリーチャーの前足を一本関節から吹き飛ばすのみで終わった。

 足を失くしたクリーチャーは吹き飛んだ足と共に血液を撒き散らしながら地面に転がるも、弾丸を免れたもう一匹のクリーチャーがその牙の光る大顎を開きながら、ツキシマに飛びかかる。

「キシャアア!」

「…………」

 飛びかかって来たクリーチャーのクチに、ツキシマは抜いていた銃のバレルを横向きに押しこんだ。猿ぐつわの要領で固い鉄のバレルを噛まされ、ガチリ、と歯の鳴る音が響くと、ツキシマは銃を手放し、開いている方の手でクリーチャーの頭部を掴んだ。

 人間の頭部と同じような大きさの、ボールの様なそれを掴み、それと同時に膝を振りあげ、クリーチャーの頭を己の膝に叩きつける。ゴシャァ、という骨が砕け血が噴き出す音と共に、クリーチャーの顎と咥内が、ツキシマの膝の上で粉砕した。

「ゲッ……ゲゲッ」

「お、お前さん……やりおるのぉ……」

 僅か一瞬で、己の命が危機に晒されたと同時に救われた事実に気がつくと、トウジョウは驚いた様な、困惑した様な感心した様な声でツキシマを見上げた。

 ツキシマは、無言でクリーチャーに噛ませたハンドガンを拾い上げる。血と唾液で酷く塗れていたので、ガッカリした。

「……賞金稼ぎだ」

 銃を拾い上げたツキシマの耳に、低く、虚ろな声が聞こえた。慌てて顔を上げると、アサルトライフルを構えた数人の街人が、憎しみと恐怖を携えた瞳でツキシマを睨んでいた。

「賞金稼ぎか……? もしかしたらギャングかも……」

「どっちにしろ、クリーチャーをあんな殺し方で倒すんだ。無法者だ! 俺たちみたいな一般市民な訳が無い!」

 ツキシマを睨む人々は、口々にそう言うと各々持っている銃を構える。穏やかでない空気に、ツキシマの後ろからトウジョウが飛び出した。

「待て貴様ら! そんなけったいなモン構えて何が一般市民じゃ! それを人に向ける前に、化け物どもを追い払うのが先じゃろうが!」

「黙れ! この爺さんもギャングの仲間だぞ! お、俺たち普通の人間の苦労も知らないで……! みんな、殺っちまえ!」

 人々の銃口が、ツキシマとトウジョウに向けられた。パニックによって正常な判断能力を失った人々は、あっさりとトリガーに指を掛け、銃が暴れるままに弾丸を解き放つ。

 銃がこちらに向けられるのを見ると、ツキシマは素早くトウジョウの肩を引くと彼を庇う様に銃口の前に立ちはだかった。

「なっ……!?」

 背後で、トウジョウの驚愕の声が聞こえると同時に、ツキシマの身体に銃弾が降り注いだ。肩に、胸に、腹部に、腕に、足に、トリガーの戻し方すら知らない人々によって放たれた銃弾は、無遠慮にツキシマの身体に突き刺さる。

 同時に、弾ける様な痛みがツキシマを襲った。が、膝などついてはいられない。相手が、一般市民なのかシティアベンジャーの構成員なのか区別ができない今、下手に発砲して相手を傷つけるわけにはいかない。銃を持ってはいても、彼らはまだ、ただの市民なのだ。普通の人間なのである。

「に、兄ちゃん……! お前さん大丈夫なのかい!?」

 銃弾の雨を浴びても倒れないツキシマに、トウジョウは目を見開いて問いかけるも、今はその問いに答えている暇などなかった。

 ツキシマは、無言のまま路地を指差す。表通り以外なら、まだ騒ぎになっていないかもしれない。相手が、ツキシマをギャングだと思い、トウジョウをその仲間として敵視しているのであれば、ここにいては危険だ。そう考えるツキシマの思考に気付いてか、トウジョウは怒った様に顔をしかめて怒鳴った。

「馬鹿言うんじゃねえ! 一人おめおめと逃げられるかってんだ! お前さんも逃げるんだよ!」

 そう言って、トウジョウはツキシマの腕を引いた。確かに、そうしたいのは山々なのだが、このまま彼らを放っておいたら、更に被害が拡大するだろう。せめて武器を取り上げたり出来ればよいのだが。

 そう思い、ツキシマはトウジョウに引かれても動かずに、アサルトライフルを構える人々を見る。

 人々は、ツキシマが銃弾を喰らっても倒れないのを不審に思い、怪訝そうに顔をしかめてゆっくりとツキシマに歩み寄った。

「な、何だコイツ……。弾が当たらなかったのか?」

「そんな馬鹿な。でも頭をふっ飛ばしゃ確実だろうよ」

 そんな物騒なことを言いながら、人々は再び銃を構えた。一度、人を撃って落ち着いたのか、今度は銃口をしっかりとツキシマの頭部へと向けてトリガーに指を掛ける。

 ツキシマの冷たい血が、じわりと衣服を濡らして地面へと落ちる。頭を飛ばされたら、さすがに数分は気を失ってしまう。その間にトウジョウを攻撃されてしまっては終りだ。ツキシマは、血で濡れたフィルターから呼吸音を響かせながら、何か手は無いかと辺りを模索する。

 と、そこへ。ツキシマの視界の端から、なにやら黒い影が飛び出して来た。

「待てやコラァァァァ!!」

「うぐあっ!」

 ツキシマの視界の端から飛び出して来た影は、最初にツキシマに銃口を向けた街人に強烈な飛び蹴りを放ったのである。

 脇腹に、黒いブーツの底の攻撃を受け、男は呻き声を上げて数メートルほど吹き飛んだ。

「……!」

「……小僧!」

 街人を蹴り飛ばしたのは、ヨツヤであった。突然現れ、しかも一般市民に容赦の無い蹴りを放ったヨツヤに、他に銃を構えていた人々は動揺する。

 そんなザワついた空気などまるで気にもしない風に、ヨツヤはユラリと揺らめきながら、土煙りの中でギロリとその赤い眼を光らせ、地面に転がった男を見た。

「よぉ、クソ市民様。トリガーを引く気分はどうだい? 爽快か? じゃあ人を撃った気分はどうだ? 快感か? 随分楽しそーだったじゃねぇか。なぁ? 俺にも教えてくれよ、人を傷つける快感ってヤツをよぉ」

「ヒッ……!」

 ゆっくりと、ヨツヤは男に歩み寄った。案に飛び蹴りのダメージのせいか、それとも禍々しいオーラを全開にして近付いてくるヨツヤに恐怖してか、男は手に持ったアサルトライフルの存在などすっかり忘れて引き攣った悲鳴を上げた。

 周りの銃を構えた人々も同様に、嵐の暗雲よりもドス黒い空気を纏ったヨツヤに、硬直して震える事しか出来なかった。

「おいおい、怯えんなよ。人の相棒蜂の巣にしといてそりゃねぇだろ。……立てよ。得物ソイツ構えて向かって来い」

 怯え、震える男に歩み寄りながら、ずるりと、ヨツヤは腰の刀を抜いた。銀色の刃が、淡い日光をキラリと反射させ、男の顔に絶望の表情を浮かばせる。

 それを見て、ツキシマはハッと我に返った。何やら激怒しているヨツヤは、このままあの男を殺しかねない。彼は、ただの一般市民なのかもしれないのだ。それは好くない。

「おい、早くしねぇと二度と立てない様に……うおっ!?」

 今にも、男の足目掛けて刀を振り下ろしそうだったヨツヤを、ツキシマは慌てて背後から羽交い締めにした。唐突に動きを拘束され、ヨツヤはよろめいて目を丸くする。

「って何すんだお前! 止めんなら俺じゃなくてそっちで銃構えて突っ立ってる奴らが先だろーが!」

「……!」

 ヨツヤが、銃を抱えて硬直している人々をギロリと睨みつけて怒鳴るも、ツキシマは首を横に振って否定した。確かに彼らは銃を持ってはいるが、悪人ではない、と思うのだ。だから、殺したり傷つけるのは可笑しい。

「……まさかお前、一般市民だから傷つけるな、とか言うんじゃねぇだろうな」

「……」

 必死で首を横に振るツキシマを見て、その真意に気が付いたヨツヤが、片眉を吊り上げて問いかけた。怒気を含んだその声音に、ツキシマは、うっと息を呑んで黙り込む。

 問われて、びくりと跳ねあがった反応から、ヨツヤは図星を突いた様だと察し、酷く深いため息をついた。

「……お前、わかってんのか? 撃たれたんだぞ? 敵意を向けられてんだ。敵意には敵意を以て返すのが普通だろーが」

「……」

 そう言われてしまえば、確かにそうなのだが。

 しかし、今ツキシマに敵意を向けている人々は、どう考えても悪意がある様には思えない。騒ぎに己を見失って、流れるがままに動いている様にも見える。

 今の彼らは、そこら辺の露店の店員が、わけもわからず凶器を手にし、銃口を向ける相手も区別できずにいる様なものだ。もしかしたら、シティアベンジャーの一員なのかもしれないが、地面に転がっている男の怯え様や、硬直している人々を見るに、常々自分の生活や力を持つ者に苛立ちを覚え、溜めこんでいた鬱憤が爆発して、錯乱状態にあるものの様に思える。

 つまり、彼らはそのコンプレックスにつけ込まれて、シティアベンジャーに好い様に操られているだけなのだ、と思う。

「…………」

 無言のまま腕を離そうとしないツキシマを見て、ヨツヤは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、舌打ちをしてツキシマの腕を振り払った。

「……わかったよ。ったくどこまでも馬鹿だなお前は。痛ぇのは嫌なんじゃなかったのかよ」

「……!」

 不満げに吐き捨てながら、ヨツヤは刀を下ろしくるりと刃を反転させて持ち替えた。峰打ちの構えを見て、ツキシマはヨツヤを離し、嬉しげに何度か頷いた。

「……俺も随分丸くなったもんだぜ。身の丈に合わねぇことする身の程知らずをきっちり教育するのは、割と面白いんだけどなぁ」

「……」

 酷く残念そうに呟くヨツヤに、ツキシマは不安の沈黙を返した。ヨツヤの理解を得られたわけではないようだが、まぁ手綱を握れたようでとりあえずは一安心である。

「おい! 待てお前さんたち! ワシを忘れるんじゃない!」

 路地の入口で、すっかり腰を抜かしていたトウジョウが、慌てて跳ね起きてツキシマ達の傍に駆け寄った。ヨツヤはそれを横目で確認すると、ニタリと笑みを浮かべる。

「よぉじーさん。腰は大丈夫かい? 今のうちだ、さっさと逃げとけ」

「馬鹿モンが! ガキ共残して逃げられるかい! 年寄りを舐めるんじゃないわい!」

「……言うと思ったけど、守れる保証はねぇぞ」

 硬直していた人々が、徐々に気力を取り戻し、まるで幽霊の様にユラユラと揺れながら、背中合わせに身構えるツキシマ達を取り囲んだ。人々の目には、人間らしい生気がまるで無く、ただ動く木偶人形の様に、慣れない手つきで銃を構える。

「シロートに銃持たすのが一番厄介だ。ギャング共のがずっと分別が付くからな。撃って好い時、悪い時、関係なくこいつらはぶっ放すぜ」

「じゃ、じゃぁ……どうしようって言うんじゃ?」

「どうしようじゃねーよ。どうにかするんだよ」

「策無しかい! お前さんらは本当に命知らずじゃの……」

「じーさんがそれ言うかよ」

 ヨツヤが愉快そうに笑った。笑っている場合ではないのだが、確かに笑うしかない状況ではある。素人の、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる戦法ほど、厄介な事は無い。彼らは、何処を撃てば人に当たるかを理解していない上に、半ば錯乱しながら発砲する為に弾道が読めないのである。それに加えて相手が大人数ともなれば、ツキシマ達が相手にするのは無差別に降り注ぐ銃弾の雨と言っても相違無い。

「さーて、どうするか……」

 向けられた銃口を睨みながら、ヨツヤが呟いた。ツキシマ達を取り囲んだ人々は、今にもその引き金を引きそうである。もはや、再び蜂の巣になるのは避けられないのだろうか、と心内で覚悟しつつ、ツキシマはハンドガンのグリップを握った。


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