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ツキシマが思うにあの老人は、祭りの賑わいから外れた寂しげな路地に居座り、気に入らないことを若者に怒鳴りつけるような世捨て人をを気取ってはいるが、そう怖いだけの人間ではないと感じるのだ。
そもそもツキシマ自身、悪意の塊でしかない人間がいるという排他的な考えでは無いし、例え相手が面倒くさいだけの人種であろうとも、そういう輩には関わり合いにならない様にすると言った閉鎖的考えでも無い。それを彼の周りの人間に話そうものなら、彼らは恐らく激怒するか、あるいは呆れた目でツキシマを見る事だろう。
そんな、節操の無い気まぐれな好奇心と、日常に潜んだ『悪意』のトラップを見極められない鈍感さゆえに、彼は面倒事に巻き込まれやすいのだと彼自身自覚をしていない。
それが、彼にとって、または彼の周りにとってどのような影響を齎すかは、神のみぞ知ると言ったヘドが出るほど凡俗な言葉でしか、今のところは表現できないのである。
ツキシマが、先刻の空き地に到着すると、ヨツヤに連れられて来た時と同じ位置に小さく丸まった背中が見えた。相変わらず、木箱の中の花火玉の点検をしているようである。先程は背後に突っ立っていたら怒られてしまったので、トウジョウの背中に歩み寄ったツキシマは、そっと老人の顔を覗きこむ様にして彼の対面へと回った。
「ぬおっ! ま、またお前さんかい! 足音も無く近づいて来るんじゃないわ! 心臓麻痺でも起こそうってのか!?」
「……!」
結果的に、再度トウジョウを驚かせてしまったツキシマは、顔を上げて彼を視界に入れたトウジョウに、唾を飛ばしながら責められて慌てて首を横に振った。
しかし、挙動不審なツキシマにトウジョウは警戒する様な視線を向ける。
「また何しに来たんじゃ。もうお前さんら若いモンが見て面白いものなんて残って無いぞい」
「…………」
ギロリ、と細い目でツキシマは睨まれる。まだ先程の苛立ちが収まっていないようである。もしくは、安直にツキシマへの不信感があるのかもしれない。
そんな胡乱気な視線を送ってくるトウジョウに、ツキシマは片手に携えていたビニール袋を差し出した。
「あ? なんじゃこりゃ。ワシにか?」
自分の顔を指差して尋ねるトウジョウに、ツキシマは数回縦に頷いた。それを見ると、固い表情をしていたトウジョウは、驚いて僅かに目を見開く。
白っぽく濁った瞳がツキシマを映した。
「なんじゃ差し入れか? 食い物かね」
「……」
袋を受け取って、中を覗きこんで問うトウジョウに、ツキシマが沈黙したまま頷いた。
『Arms』の露店で購入した、かぼちゃのキッシュである。ツキシマとしては、先程トウジョウを怒らせてしまったお詫びの気持ちだった。
「……お前さん、見た目の割に年寄りを敬う気持ちがある様じゃの。誤解しとったわい。こいつはありがたく頂いておくよ」
ガサリ、と袋を揺らして、トウジョウは朗らかに笑った。出会ってから初めて見たトウジョウの笑顔に、お詫びを受け入れてもらえた様でツキシマは安堵しその場に膝を抱えてしゃがみこんだ。トウジョウも、それを無言で許可する。
「これ渡しに来ただけじゃないんか。こんなとこにいても、若者が面白がるようなモンはもうないぞ。表通りの方が良いものあるじゃろうて」
「…………」
トウジョウの言葉に、ツキシマは無言で首を横に振った。それを見ると、トウジョウは呆れたように息をついて肩を竦める。
「変な小僧共よ。今時の若いモンは、こんな火薬臭い物に興味なんぞないじゃろ」
トウジョウが、何やら心底怪訝そうな顔をして言った。
ツキシマは、そんなことは無いと思う。若者も年寄りも、花火を知らないだけなのだ。あんなにも綺麗で、キラキラと眩しい物に、興味を持つなと言う方が難しい。
『Arms』の露店のパティだって、花火が楽しみだと言っていた。それは、彼女がそれを知らないからだ。少しでも触れれば、先のヨツヤやタツミ、それからカナメの様に興味津々になるだろう。
そう思って、ツキシマはじっとトウジョウの顔を見つめた。
「ん? なんじゃ。そんなこと無いとでも言いたいんか?」
「…………」
「あるんじゃよ。現に、メトロの若い奴らは、どいつもこいつもシティシティと叫びよる」
頷くツキシマに、トウジョウは諦めた様な寂しげな笑みを浮かべて言った。
哀愁すら漂う老人の笑みに、ツキシマは思わず何の反応も取れずに硬直してしまう。
「ワシはな、本当は、あんまりこの祭りが好きではないんじゃ。メトロで、唯一花火師を必要としてくれる行事ではあるがな。ワシは、シティが恨めしくてしょうがない人間共が造った鉄道が、気に入らなくてしょうがないんじゃ」
トウジョウが、語る様に切りだした。
メトロエクスプレスの祭典と言えば、メトロ市民の誰もが浮かれ、騒ぐ一大イベントである。トウジョウの告白に、ツキシマはマスクの下で驚き目を見開いた。
「どうしてかと言うとな……。ああ、長い話になるが、聞きたいかい?」
「…………」
コクリ、とツキシマが一度だけ、深く縦に頷いた。もとより、それが目当てで来た様なものである。頷いたツキシマを見て、トウジョウは嬉しげに微笑んだ。
「まぁ、寂しい年寄りの戯言だと思って聞いてやってくれ」
人々の喧騒から離れた、静かな空き地に腰を下ろす頑固な職人肌の老人にとって、ツキシマは良い話相手になった様である。
それも、トウジョウが自分に心を開いてくれた証拠の様な気がして、ツキシマは黙ったまま老人の語りに耳を傾けた。
「昔は……ワシにも人並みに女房が居て、せがれもおった。女房なんぞ何年も前に亡くしたが……せがれはな、生きていれば、もういっぱしの大人ってヤツになってるだろうよ」
木箱の花火玉を見つめながら、トウジョウは昔を懐かしむ様に目を細めた。しかし、その瞳には過去を思い返す懐古の念よりは、悲しみと後悔の念のみが入り混じっているように見える。
「メトロでは珍しいかも知れねぇ。父母子の、いわゆる恵まれた家庭ってヤツでな。ワシの少ない稼ぎで、イースメトロの街外れで暮らしてたのさ」
確かに、そんな家庭はメトロでは珍しいかもしれない。両親ともに存命で、まっとうな職についていて、親子で暮らしている家庭。これを一般家庭と人は呼ぶのだろうが、メトロではそうではない。家庭の何処かに、避けようの無いギャングや犯罪の影が必ず落ちているものだ。
「でも、はは、よくある話でな。女房はギャング共の抗争の流れ弾に当たって、そのまま傷が悪化して逝っちまった。あっという間だったよ。あの時ほど、人間の脆さを痛感した事は無いねぇ」
堅物で頑固者のワシに着いてきてくれる、好い女房だったのになぁ、とトウジョウは、呟く様に言った。手元の花火玉を見つめるトウジョウの瞳には、今も忘れる事の出来ない、最愛の人の姿が映っているのかもしれない。
そしてきっと、その言葉は、最も彼が愛した人に言いたかった言葉なのだろう。気難しくて天の邪鬼な性格が災いして、きっと、言えなかったのだろう。
「それからな、せがれの様子も可笑しくなっちまって……。やたらとシティに執着するようになった。今流行りの『シティコンプレックス』って奴だな。アイツの場合はかなりの重症で『シティだったら、ここがシティだったら』ってうわ言みてぇに呟いてたよ」
シティコンプレックス、その言葉が、ツキシマの頭に重くのしかかる。
メトロに蔓延する、シティへ異常なまでの執着心を持つ精神病である。その執着心の内訳は、羨望、嫉妬、憎悪、様々。基より、シティへの劣等感を抱いているメトロ市民が、目の前でシティとの格差を目の当たりにした時に、その病は発病すると考えられている。
トウジョウの息子の場合、母親がギャングによって、そしてメトロの衛生と医療環境に殺された事で発症したのだろう。
『ここがシティだったら……』に続く言葉は、母は死なずに済んだのに、なのだろうか。
「シティに執着、ってんじゃねぇな。アレは、メトロを憎んでた。女房を殺したメトロが、憎くて仕方が無かった様に、今なら思える。そしたらな、ある日突然、出て行っちまいやがった。ワシに何の言伝も無く、忽然と消えちまった」
行方不明か、とツキシマは頷いた。トウジョウが最初に言った、生きていればというのはそう言う事らしい。
「実は元々、アイツはワシの仕事に寛容でなくてなぁ。あんまり仲も良くなかったんだ。女房が仲介役みたいなもんでなぁ。アイツが逝ってから、余計に話す事も無くなった。せがれがシティコンプレックスに掛かってると知ったのも、大分後なんだ」
堅物の老人には、自分の息子に対して気を遣うと言う好意は、とても難しかったようである。それも、今まで気遣いとは無縁の生活を送っていたからだろう。妻が急逝したからと言って、生き方ばかりは急には変えられない。
「歳を取るとな、気持ちも弱くなっちまっていけねぇや。気付いてやれなくて悪かったな、とか、今になってようやく思うんだ。それと一緒に、母ちゃんの死から、憎しみしか生み出せなかったせがれを、一発ガツンと殴ってやりたくも思う。まぁ、もう無理だろうがな」
頑固親父としては、らしくないことを言いながらトウジョウは顔を上げてツキシマを見た。皺まみれの黒ずんだ顔を向けられ、ツキシマは首を傾げる。
「実はワシは目をやられててな。もうしばらくもすれば、殆ど見えなくなっちまうらしい」
白く濁った瞳で、トウジョウはあっさりと言い放った。ツキシマはその告白に、どきりとしたが、トウジョウの声は悲観する物ではなく、何故か、穏やかで柔らかな物だった。
「メトロの、大気のせいだとさ。間接的に、シティのせいってことになるな。そのせいで、自分が作った花火を見るのも今年が最後になりそうだ」
最後、という言葉を聞いて、ツキシマはグッと息を呑んだ。何と言ったらいいのかもわからず、どんな反応をしたらいいかもわからず、ツキシマはただ、黙りこくったまま老人の穏やかな顔を見つめる。
「でもワシはな、それでもここが好きなんじゃ。他でもない、シティでもない、このメトロがな」
「…………」
トウジョウの目は、両方とも水晶体が白く濁り、光が失われつつあるのがよくわかった。
いずれ闇に閉ざされるであろう霞み掛けた世界を見て、この老人は何を想うのだろうか。
今まで当たり前の様に得ていた物を、ある日突然失うとはどんな気持ちなのだろうか。いや、彼は既に、いくつものモノを失っているのだ。その上で彼は、それらを奪ったメトロとシティに対して、何を想うのだろう。
「女房を失おうが、せがれを失おうが、目を失おうが、ここはな、ワシのたった一つの故郷じゃよ。ここ《メトロ》がなきゃ、女房にも出会えんかったし、子供だって授かることは無かったろう。この仕事に就く事も、きっとありえんかったさ」
トウジョウが、クスリと微笑んだ。
「この場所で、ワシはワシの人生を歩んできた。後悔もある、悲しかった事もある。だが、それだけじゃぁ無いんじゃよ。嬉しかった事、好かった事、同じくらいあるのさ。ここでしか得られなかった事が多くある。月並みな想いだろうがね、ワシは、だからこそメトロが好きなんじゃ。どんな人生を歩んで、どんな人間になっても、メトロがワシの故郷である事は変わりない。ここで生きた事に変わりは無い。ここにいるからこそ、ワシはワシだった」
皮膚の固い、皺まみれの手が、愛おしげに花火玉を撫でた。
トウジョウにとっては、メトロはたった一つの『帰る場所』である。人は、居場所が無くては生きられない。それは、誰かの隣であるかもしれないし、守るべきものの傍かもしれない。もしかしたら、権力から成る地位であるかもしれないし、金で得た何かかもしれない。そんな『居場所』が、トウジョウにとってはメトロなのである。
「だからな、シティに劣等感ばっかり抱いて、やたらともてはやすのが気に食わんのさ。街の奴らは勘違いしておる。エクスプレスは、シティへの妬みから生まれたんじゃない。メトロ市民の、明日を生きる底力から生まれたもんさ。シティなんぞ関係ない、メトロにはメトロの良い所があるよ」
メトロにはメトロの良い所、そう、トウジョウははっきりと言い切った。
大切なモノをいくつも奪われてもなお、トウジョウは、メトロが好きだと言う。何故そんな事が言えるのだろう。少なくとも、トウジョウが失ったものは、どれも理不尽にこの世界に奪われた物だ。メトロでない平和な場所ならば、彼は妻を失う事も無かっただろうし、息子はシティコンプレックスに掛かる事も無かったかも知れない。劣悪な環境に、光を失う事も無かっただろう。争いの無い平和な場所で、平穏な暮らしを送る事もあったかもしれない。
ただ、産まれた場所が、このメトロであったせいで、トウジョウの人生は悲劇的なものとなってしまった。
きっと、トウジョウの息子は、そう思ったからこそメトロを憎んだのだろう。ならばトウジョウは、どうしてメトロを憎むどころか、好きだと言えるのだろう。故郷だから、自分の居場所だから、という理由なのだろうか。
ぼんやりと、膝を抱えて思案するツキシマを見て、トウジョウが目を細め、ニッと眩しいほどの笑みを浮かべた。
「なぁ、兄ちゃん。お前さん、故郷は好きかい?」
きっと、トウジョウにとっては何気ない問いを受けて、ざわりと、ツキシマは総毛立った。
ギクリ、と無いはずの心臓が揺れた気がして、じわりと掌に汗を握った気がした。
故郷、産まれた場所、自分の居場所。そんな言葉を思い浮かべたツキシマの脳内に映るのは、ポラロイドカメラで撮影した出来の悪い写真のような、色褪せた『あの子』の絵だった。
記憶の中でそれを見つければ、今にも喋りだしてくれそうなほどに鮮明に、その景色覚えている。忘れるはずもないのだ。あの場所は、この地上のどこよりも大切な、ツキシマの居場所なのである。
けれど、ツキシマはあの場所が嫌いだ。帰ったら、きっとまた嫌な思いをする。思い出そうとするだけで、眩暈がするのだ。
「ははは、気にすんな、ちょっと聞いてみただけよ。そう簡単に言えるわけねぇよな。兄ちゃんにも色々あらぁ」
思い詰めたように俯いてしまったツキシマを見て、トウジョウが快活に笑った。辛い話をしているのはトウジョウの方なのに、そんな湿っぽさも吹き飛ばすほどの明るい笑い声である。そんなことはもうどうでもいいんだ、とでも言ってしまいそうな声だ。
ツキシマは思う。きっとこれこそが、人間らしさなのだ。
トウジョウは、誰から見ても老年だ。人は、経験を積むことによりその過程の中で、何らかの『気づき』と得るのだと思う。達観や、悟りとも言うのかもしれない。経験が濃ければ濃いほど、その気付きは大きなものとなる。
それは、人間が一生の中で見つける大きな発見なのである。限られた時間の中で生きながら、人は、何かに気づくのだ。それがあって初めて、その人の一生は『その人らしい人生』と言われるのであろう。
トウジョウは、メトロが好きだと言った。それは、きっとトウジョウらしい解答なのだろう。ツキシマにはまだわからないが、彼をよく知る人間なら、彼らしい、と頷くのかもしれない。
ツキシマは、トウジョウが一際眩しく感じた。こういうことがあるから、人間は好いのだ。羨ましいと、思ってしまうのである。
「まぁなんだ。説教じみたことも言っちまったけどな、何が言いてぇのかってーと、ワシは若者が嫌いなんじゃ! チャラチャラ着飾りおって……、古くからの伝統を邪険にしやがる。今日の小僧どもだってそうじゃ、人が丹精込めて作った花火を一瞬で灰にしおって……。もっと情緒ってもんを味わってだな……」
「…………」
どこか、湿っぽくなった空気を感じてか。トウジョウが慌てて言い繕うようにクチを開いた。
よくいる、頑固親父らしいボヤキ文句を並べるトウジョウを見て、ツキシマは可笑しそうに肩を揺らす。
人を羨ましいと思う感情が、何も間違っているとは思わない。人を妬ましいと思う心もあれば、憎らしいと思う心もある。それらはすべて、等しく人間らしい感情の一つであり、悪であるわけではない。ただ、忘れてはならないのは、前を向くことだ。どんなに太陽がまぶしくても、顔をあげて、人の道を歩くことが、最も大切なのである。
ツキシマは、膝を抱えながらぼんやりとまとめる。トウジョウと話ができてよかったと思う。彼の話は、ツキシマでは考えの及ばない場所での話であった。
人にとっての『限界』というのは、人間性を引き出すための大きな要因となるのである。ツキシマには、それがない。
まるで流れる滝のごとく、昨今の若者たちへの文句を垂れ流しているトウジョウを見つめながら、ツキシマは退散の機会を覗った。
トウジョウの話は、非常に興味深いものではあったのだが、ツキシマとしてはそろそろ立ち上がって『Arms』の露店で一休みしたいところである。
しかし、そんな僅かな欲求を心の隅で浮かべるツキシマの耳に、次の瞬間鼓膜を劈かんばかりの爆発音が轟いた。
「!?」
「な、なんじゃぁ!?」
地を揺らすような爆音は、疲弊したツキシマの頭の中で起きた幻聴などではなかったらしく、ツキシマの目の前に居たトウジョウも、驚きのあまりその場から飛び跳ねて辺りを見渡した。
「何が起こったんじゃ!? 爆発か!?」
飛び跳ねたトウジョウは、そのまま立ち上がって空地を飛び出し、表通りへと走った。当然、ツキシマもその後に続く。
爆音は、通りにも響き渡ったらしく、道行く人々が驚き戸惑い、慌てふためきながら悲鳴を上げて、走り回っていた。
「なんじゃなんじゃ! 祭りのさぷらいずいべんととかじゃないんか!」
若干、舌が捻じれたような発音でトウジョウは叫んだ。
通りを逃げ惑う人々を見つめるトウジョウの横で、ツキシマが街中に上がった赤い火柱を見つける。表通りに面した露店の一部から、煌々と燃え上がる炎の柱と、真っ黒な煙が上がっているのである。ツキシマはそれを見て目を丸くしながら、指をさしてトウジョウにそれを伝えた。
「火事か!? さっきの音は、まさか爆薬でも爆発したんじゃあるまいな。一体どうしてこんなことに……」
トウジョウが、奥歯を噛みしめて呟いた。しかし、ツキシマはわかる。メトロは本来、こういう場所だ。いつどこで爆発が起きるかわからない。いつどこで銃声が轟くかわからない。そして、いつどこで人が死ぬかわからない。
愉快で明るい祭りの日、一瞬たりとも朗らかな空気を味わえたとしても、所詮ここはメトロ。犯罪やトラブルとは、切っても切れない街なのである。
ツキシマが考えていると、またも唐突に、メトロの街中全体に、大音量で放送開始を伝えるチャイムが鳴り響いた。今回の祭りで使用するために街の至る所に取り付けられた、拡声器からの音である。耳を塞ぎたくなるような、甲高いチャイムの音に通りを逃げ惑う人々が一瞬だけ静まり返ると、その隙を狙ったかのように拡声器から若い男の声が流れ始めた。
『えー……、ごきげんよう。メトロ市民の諸君。我々は、シティアベンジャー。栄光ある正義の革命軍である』
まるで、時代錯誤でも起こしたかのような、仰々しくも恭しい言葉は、ガサガサというノイズ音を交えて、しかしはっきりとくっきりとしたよく通る声でメトロの街中に響き渡った。
僅か一瞬だった。巨大なチャイムの音が鳴り響いて、一瞬、人々の気が拡声器の方へと向けられたのである。
そしてその瞬間、恐らくこの祭典の中では、多くの人々がその存在を忘れ、聞くのもおぞましく、そして絶望的な感情を湧き起こすのであろう組織の名前が街中に響き渡った時、人々は、先ほどの爆音のことなどすっかり忘れて、続いて拡声器から流れ出る男の声に聴覚を奪われた。
to be contenued...




