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Crazys!  作者: ノンアルコール
C,4-3 It’s my Hero life!
30/65

 *


 カナメが警察署の中に忍び込んでから、五分ばかりの時間が経った。

 言うほど長い時間が経過したわけではないが、警察署の裏手の壁の外に、飛行機械ポット君ごと身を隠しているタツミは、半球体のロボットに取り付けられた小さなデジタル時計を睨みつけながら、落ち着きなく身体を前後に揺らして足をばたつかせていた。

 カナメはタツミに、ここで待っていろ、と言ったが、タツミ的には自分もカナメと一緒に悪い人間を捕まえたいのである。ヒーローに巨大ロボットが必要ならば、それを操縦するパイロットも必要だ。それが彼女なのだ。

 その為に改良したポット君だ。詰めに詰め込んだ武器も、使ってあげないと可哀想だと、タツミは思う。

 しかし、タツミは現時点で、誰が悪者なのかわかっていなかった。警察署の地下に研究施設があるかもしれない、というのはカナメの推測であるので、下手にポット君の武器を使って警察署を破壊してしまっては、タツミ自身が『悪い子』になってしまう。それは嫌だった。

 タツミは時計を凝視しながら、空でのカナメとの会話を思い出した。ツキシマ達を紹介する過程で、タツミは彼らとカナメも仲良くなってほしくて、ツキシマがとても強い、ということを極端に話した。男同士の友情と言うやつは、拳で決まる事をタツミは知っている。どんな相手であれ、殴り合いをすればその直後には、笑って青い空を見上げられる関係になるのだ。

 話を聞いていたカナメが、それはもう驚くほどに闘志を燃やしていたのでタツミは、上手くいった! と心の中で喜んだ。

 その時の喜びを思い出して、タツミは一人コックピットの中で笑い声をあげる。すると、愛用の斜め掛け鞄の中がもぞもぞと蠢いた。怪訝そうに顔をしかめ、驚いたタツミは布製の鞄を開けてみる。

「あ、コルトちゃーん」

 長い長い昼寝から覚醒した子猫が、空腹に耐えかねて鞄の中から顔を出した。

 子猫が、ぴゃぁ、と健気に鳴くのを聞いてタツミは慌てて服のポケットを探る。

 朝、エクスプレスの中で出された朝食のパンの欠片が入っていたので、それをコルトに与えた。硬くなってしまっていたが、子猫の歯を強くさせるにはちょうど良くも思えた。

「こんなものしかなくてごめんねー。んー、ツッキーがいたら、もっといいもの買ってくれるのにねー」

 子猫の小さな頭を撫でながら、タツミは申し訳なさそうに言った。

 小さなパンの欠片をすっかりたいらげたコルトは、タツミの膝の上で大きく伸びをすると、キョロキョロと視線を辺りに彷徨わせる。半日以上、見慣れた防毒マスクを見ていないせいで少し緊張気味の様だ。コルトは、隠れる様にタツミの鞄の中に入って行った。

「コルトちゃんも寂しいかー……、タツミもつまーんない! ……んん?」

 無造作に両手をあげて、コックピットのシートにだらしなく背を預けたタツミの目に、警察署の裏手の道の向こう側から、一台の車のヘッドライトがこちらに向かって近づいてくるのが見えた。

「わ! みつかるかくれろ!」

 タツミは声を殺してそう言うと、慌ててロボットのレバーを動かして警察署の塀の陰に隠れた。ガシャガシャと騒がしい音はしたものの、幸い日暮れ時で辺りも薄暗くなっており、遠目からなら闇にまぎれる事ができた。

 近づいて来た車…トラックの様である。トラックは、カナメが先程消えて行った警察署の裏手口の前で停まり、中から数人の男たちが降りて来たのがうっすらと見えた。

「んー、暗くてよく見えない! 暗視スコープそうび!」

 そう一人で楽しげに言うタツミは、どこからともなく子供サイズの両目用暗視スコープを取り出して目に宛てた。タツミの近辺からは、機械類の類ならば何でもすぐに出てくるようである。

「どれどれー? だぁれが来たのかな……。あ!」

 スコープを覗いたタツミは、レンズ越しの人物を見て驚きの声をあげた。

 車から出て来たのは、何らかの荷物を抱えたギャングの様な風体の男二人と、ツキシマであった。何やら、警察署の中から出て来た警察官と話をし、ツキシマが背中を押されて中に連れ込まれるのが見えた。

 それを見たタツミは、ぽろりと手から暗視スコープを落として、あんぐりとクチを開けたまま驚きに目を丸く見開いた。

「あ、あ、……どうしよう! ツッキーが悪者に捕まっちゃった!」

 慌てふためくタツミ。動揺にワナワナと肩を震わせながら、コックピットの中に隠れて顔を青くした。

 タツミが見たところによれば、ツキシマは何かを運ばされていた様に見えた。それが何だったか、タツミは知らないが、なんだか無理矢理運ばされている感があったのは確かである。しかも、警察署の中から出て来た男とも、ギャングたちは親しげに話している様に見えた。

 タツミが思うに、ツキシマは昼間の強盗団に捕まって、何やら仕事をさせられているようである。しかも、強盗団の仲間たちは警察署内部とも繋がりがあるようだ。やはり、カナメの言う通り警察署は悪の組織に乗っ取られてしまったのである。

 ならば、リーシャが言っていた『研究施設の噂』とは何なのだろう。悪の組織は、一体何の研究をしているというのだろう。

 考え込んだタツミは、ハッと一つの結論に至った。

 リーシャは確か、メトロの平和を守るための研究が警察署内で行われているという噂がある、と言っていた。平和を守るには、強い力が必要である。きっと、強く丈夫なツキシマを捕まえて、研究材料にしようというのだ。

 きっとそうに違いない。

「た、たいへん! たいへんたいへん! ツッキーがお化けにされちゃうよ!」

 研究材料と聞いて、タツミはいつぞやの地下研究所での、人間とクリーチャーの合成獣キメラを思い出して青ざめる。

 そしてタツミはさらに慌ててコックピットから顔を出した。もう四の五の言っている場合では無い。早く、早くツキシマを助けなければ。悪の組織の目的を知って、その研究を阻止できるのはタツミだけなのである。

 タツミは、意を決したように勇ましく額に眉を寄せて顔をあげると、しっかりとコックピットのシートに座りなおして球体ロボットの起動レバーを引いた。

 瞬間、勢いの良いエンジン音が鳴り響いた。それを確認すると、タツミは更に異なるレバーを引く。すると、球体ロボットはジェットエンジンを稼働させてゆっくりと宙に浮き始めた。

「よし! まずは建物をぶっ壊して、親玉をあぶり出そう!」

 拳を高く振りあげて高らかに言うと、タツミの声に応える様に球体ロボットは高度をあげ、徐々に徐々に空高く舞い上がる。

 内部に凶悪な武器を仕込んだ鉄の塊は、人知れずメトロの空に出現したのであった。



 *


 警察署内の応接室には、初老の男が二人対峙していた。

 一人は、糊の貼ったスーツを着こんだ小太りの男。苛立たしげに葉巻をくわえ、目の前ですました顔をしている男を睨む。

 もう一人は、厳めしい制服を着こんだ男。年老いているものの、人のよさそうなやんわりとした笑顔でソファに腰掛け、苛々とした視線を送って来る目の前の男の視線を、涼やかに受け流している。

 そして、部屋の出口には無表情で佇む二人の警官の姿がある。制帽のツバで目元を隠した男たちからは、少しでも動こうものなら即座に取り押さえられてしまいそうな威圧感が感じられた。

「それで、取引の方は一体どうなったんだね、ノールズ署長」

 痺れを切らしたスーツの男、ギャング団『グリッドブレイク』のボス、マルス・クラインが、葉巻を灰皿に押し付けながら制服の男を睨みつけて言った。

 クラインの苛立ちも静かに流し、制服の男、ノアメトロの警察署署長マーティン・ノールズはにこやかに微笑む。

「そう急かさないでください。今、部下に物の確認をさせておりますので」

 確認が取れ次第、そちらの取引を開始しましょう、と、ノールズは至って丁寧に言った。

 それを聞いて、クラインは奥歯を噛みしめる。取引と言えど、これは平等な取引では無い。相手は、犯罪者であるクラインを法的に拘束する力を持つ警察組織であり、クラインがいる場所は、まさに相手方の効力を最大に発揮できる警察署の中なのである。ここでの立場は、クラインが圧倒的に弱い。しかし、そんな不利な状況下に挑むと知っても、彼は今回の取引に応じざる終えなかったのである。

 それもこれも、あのうっとおしい『ヒーロー』のガキのせいだ。クラインは心の中で毒つく。

「は、そうですか。それにしてもまさか警察が、あんなモンを欲しがるとは思いませんでしたよ。街の平和を売ってでも、そんなにもあの毒が欲しかったんですかねえ?」

 理解できない、とクラインは皮肉めいた事を言う。クラインにしてみれば、あんなモノは唯の『粉』だ。多額の金をつぎ込んでまで、ましてや犯罪から市民を守る事が職務である警察が、それを投げ売ってまで欲しがる物とは到底思えない。馬鹿馬鹿しいとすら思える。

「はは、それはそうかもしれませんが、あんなモノ、のお陰で、貴方の組織はなんとか息を吹き返すことができる、ということをお忘れなきよう」

「……チッ」

 途絶えぬノールズの微笑に、クラインは舌打ちをする。それを聞いて、ノールズはどこか不気味に、一際深く笑むと、細めていた目をうっすらと開き、温厚のなかに鋭さを隠した瞳でクラインを見た。

「アレはね、素晴らしい物ですよ。重度の患者はもちろん、軽度のシティコンプレックス患者をあっと言う間に依存させてしまう。アレを吸った患者はすぐに、アレ無しでは生きられなくなってしまう」

 どこか、狂気すら孕んだ様なノールズの視線に、クラインは反射的に背筋が寒くなるのを感じた。

「依存というのは『力』に次ぐ理想的な権力の形だ。人は、ソレが欲しいというだけで簡単に善悪の区別などつかなくなる。ソレが与えられるなら、道徳など路傍で生きる雑草の如く踏みにじる事も出来るのです」

「なるほど、それで多くの警官共を傀儡にしたって事ですか」

 クラインは、部屋の出口に立つ屈強な二人の警察官を見た。外見こそ、何を言っても動じない岩の様ではあるが、その実、彼らの内面はあの白い粉によって蝕まれ、ノールズの道化と成り果てている。謂わば人形だ。

 そんな、自意識の無い部下など何の役に立つのだろう、クラインは嘲笑を以てノールズを侮蔑した。

「ええ。すごいでしょう。貴方との取引の為に、建物内にいるのは全て私の部下で固めました。取引を邪魔する人間などいません。ですから焦りは無意味なのですよ」

「……そこまでして、アンタは一体何をするつもりだ?」

 このメトロで、警察署長と言う地位に就きながら、法外な手段で部下を支配し、更にはクラインの様なギャングとも繋がりを持とうとする。この、マーティン・ノールズという男の目的とは一体何なのか、クラインは、背筋にゾクリとした寒気を感じながら問いかけた。

「……力がね、欲しいんですよ」

 静かに、初老の男は微笑みを浮かべながら答える。

「安全と平和が約束された…謂わばシティのような場所には、必ず厳格な『秩序』があるのです。人々は、決してソレを犯さない。ソレを犯したら、生きてはいられないからです。厳格な秩序、定められた絶対のルール…。メトロに足りないのは、ソレなんですよ」

 ノールズは、急に真顔になって語り始めた。とり憑かれた様な話ぶりに、クラインは思わず黙り込む。

「秩序を得るためには何が必要か。定める力、発言力、誰も抗うことのできない大きな力! そう、権力です。誰もが頭を垂れてひれ伏す様な、絶対的な権力が必要なのです。全ての人間が私の傀儡に、私の一声で一つの種族が虐殺されるくらいの神にも等しい権力。私が是と言えば、それは是になる様な、すさまじい言葉の力が欲しいのです」

 ノールズは言う。その目は既に、温厚な警察署長のそれでは無くなっていた。

 権力と言う亡霊にとり憑かれた、狂った独裁者のそれである。 

「あ、アンタは…、あの薬を使ってメトロを支配しようとでも言うのか!? メトロの人間を全て麻薬中毒者にして、ひれ伏せさせようと?」

 馬鹿馬鹿しい話だと、クラインは思った。それに加えて恐ろしい思想だとも思った。それは、人の心の闇に付け込んだ、恐ろしい支配の形である。

 しかし、クラインの否定の声を聞いたノールズは、実に冷やかな視線でクラインを侮蔑する様に見た。

「いいえ、それでは足りませんよ」

 クラインの背後に、突如気配が現れた。ハッとして彼が振り返る暇もなく、耳元でがちゃりと、忌々しい拳銃を構える音がした。

 視線のみを這わせて、クラインは背後を確認する。扉の前に佇んでいた二人の警官が、銃口をクラインの頭部に向けて無表情で立っていた。

「署長……貴様ァ…!」

 奥歯を噛みしめて、クラインはノールズを睨みつける。温厚な微笑みを一変させ、冷酷な笑みを浮かべた初老の男は、満足そうに頷いてクラインを見下ろした。

「薬の力だけでは、足りないのです。シティに羨望や恨みを持っていない人間もたくさんいる。そんな人間をねじ伏せるために、物理的な『力』が必要なんですよ」

 悪魔の様な笑みを浮かべたクラインは、ソファから立ちあがって天井を仰ぐ。そして語りを続けた。

「化け物は……、とても素敵な道具だ。その異形さ、人を喰らう残酷さ、人間以上の身体能力。しかし、頭が悪い。そのせいで、人は化け物どもを恐れることなく排除してしまう。それはいけない。ならば、化け物を更に強く賢くして、人が恐れるクリーチャーを造り上げればいいのです」

「そんな…化け物を改造するっていうのか!? 馬鹿げている……そんなことできるわけが…」

 クラインが吐き捨てる様に言うと、ノールズは口端を吊り上げてにたりと笑った。

「ご存じないのですか? 人と、クリーチャーの生態は、酷似しているのですよ」

 その言葉を聞いて、クラインはゾッとした。

 警察署の留置所、日々連行されてくる犯罪者、そして、クラインは長いことメトロでギャングをしてきたが、捕まったギャングが『留置所から釈放になった』という話を聞いたことが無い。刑務所の存在は、犯罪者からの襲撃を避けるためにあえて市民はその所在を知らないものだと思っていたが、実際メトロの人間は『刑務所』がどこにあるのか知らないのである。

 まさか、警察という組織が、捕えた犯罪者を使った人体実験でもしていたというのだろうか。そんな、馬鹿げた話が…。

「ば、馬鹿な……! そ、それじゃあ…ウチの部下たちは……。今回の取引は……」

「権力を得ると、人間が実に扱いやすくなる。貴方は組織の復興を餌に、驚くほど愉快な道化を演じてくださった」

「……!」

 クラインが青ざめ、がくりと肩を落とす。全ては、マーティン・ノールズの掌の上だったのである。全て、この男が仕組んだ罠だったのだ。

 がくりと項垂れるクラインを見て、ノールズは嬉々として笑う。

「警察が、犯罪者に本当に手を貸すと思いましたか? 実に愚かだ! 笑える! 今頃、貴方と共に来たゴロツキ共は、我が有能なる部下の手によって殺されている事でしょう! はは、は、は……、またメトロの悪が消えた。平和だ…はは、はははは!」

 応接室に、狂った様なノールズの笑い声が響き渡る。

 馬鹿なシティコンプレックス共を誑かす薬も手に入り、あとは、人間とクリーチャーの融合実験に使う、肉体的に優秀なサンプル体の抽出が済んだと、研究室から連絡があれば、ノールズの計画はまた大きく歩を進める事になる。それを考えると、愉快で仕方が無いのだ。

 とそこへ、ノールズが待ちわびた応接室の内線の、呼び出し音が鳴りだした。部屋の壁に取り付けられていたそれに、飛びつく様にしてノールズは受話器を上げる。薄気味悪い笑みを浮かべながら、彼は言った。

「どうだ、実験の具合は。良い個体は手に入ったか? 何せ、今までで最も個体数の多い回だからな。もしかして五人くらい生き残ったんじゃ……」

『あ…署長さん、署長さん、あの、エエト…大変、申し上げニクイのデスが……』

 受話器の向こう側で、研究者のどこか気だるげな声が聞こえた。聞き覚えのある声である。研究員たちの代表として、よくノールズと連絡を取っていた人物である。

 室内に引き籠って延々と何の変わり映えの無い試験管やフラスコの中身を凝視している彼らとは、中々上手くコミュニケーションが取れない。そんなノールズに、受話器の向こうの研究員には世話になっていた。

 しかし、どこか不安の漂う研究員の声音に、無意識にノールズは顔をしかめる。

「なんだどうした。勿体ぶっていないで早く言いたまえ」

『……ハァ、それが、試験は想像以上にスムーズに進みまシテ……。開始から約十分後には、一人の個体を除いた全員が死亡したもの……と思われマス』

「じ、十分で皆殺し…!? それは、それはすごいぞ!」

 それは、強力な化け物を造る実験体として最高ではないか、とノールズが狂喜したのもつかの間。研究員の不穏な語尾に、ノールズは怪訝そうに顔をしかめる。

「……思われる? 何故推測なのだ」

『……それが、申し上げニクイのでシテ……。実は、試験の最中に留置所に仕掛けられていたカメラが破壊されまシテ、中の様子が確認できないのデス』

「……はぁ?」

 不満げなノールズの声が上がる。

『研究員に、様子を見に行かせたのデスが……、その研究員も帰らズ……。ワレワレは、留置所の中の様子がマッタクわからないのデス』

「なっ……! そんなの数に任せて大人数で確認しに行けばいいだろうが! 何を怖がって……」

『無茶をオッシャル。ワレワレは唯の研究員、一人と言えど、犯罪者にナンて束になっても敵いまセンヨ』

「な、ななな……!! 使えない連中め! じゃあいい! 私の部下に見に行かせる!」

 苛立ったノールズの言葉に、今度は受話器口から呆れた様な溜息が聞こえた。

『ソレハ、宜しくお願いします、と言いたいところデスガ……。何分侵入者も出たとのコト……。そっちの排除もお願いしてもよろしいデス?』

「は? 侵入者?」

 受話器を持ったまま、ノールズは驚いたように目を丸くする。それは、受話器の向こうの人物も同様だったようで、僅かの間をおいてから研究員がクチを開いた。

『……マサカ、ご存じないヨウデ?』

「しょ、しょ、署長! 大変です! き、緊急事態!!」

 研究員の気だるげな声を掻き消す様に、応接室の扉が勢い良く開き、酷く慌てた様子の警察官が室内に飛び込んできた。地下室に、麻薬の確認をしに行ったノールズの部下である。

「け、警察署内の警官が、全て何者かによって殴り殺されていました! わ、私が地下に行っている隙に……、留置所からは奇声と銃声もするし……一体何が起こっているんです!?」

 頭を抱えて叫ぶ警官に、ノールズはこっちが聞きたいと心の中で毒ついた。

 そして、後頭部に銃口を向けられていたクラインが、状況はイマイチわからないが、どうやらノールズにとって不利な出来事が続いている事を理解すると、愉快そうな声を上げて笑いだした。

「は、ははは! なんだか知らねえが、ざまあ無いですなノールズ署長! 世の中はそう思い通りにはいきませんよ! ふは、ふははははは!!」

「薬の確認に行ったところ、室内にいたゴロツキたちも殺されていました。これは、侵入者がいるのでは……」

「な、なにぃ!?」

 部下が殺されたと聞いて、クラインは驚いたように声を上げた。その声を無視して、ノールズは険しい顔をすると受話器を耳に当て直す。

「それで、ご立派な研究員様方は今どこにいる?」

『当然、お先に逃げさせていただきマシタ』

「はぁ!?」

 ノールズの苛立ったような声に、受話器の向こう側の人物は不満そうに反論する。

『当然デショウ? ワレワレは、安全で資金豊富でしかも自由な実験設備が整っている、という状況下で研究を行うという契約だったはずデス。その中の一つが欠けた今、惜しいデスが、貴方のスポンサーの元で研究を続ける事はできまセン』

「き、き、貴様!! わわ、私がどれだけ貴様等の研究に投資を……待て待て、実験室には試作品Ⅰ号があるはずだろう? それはどうした!?」

『ハァ、当然置いてきマシタ』

「…………」

 もはやノールズの頭は、怒りと驚きのせいで正常に機能しなくなっていた。

『マァ、アレは正直失敗作デスシ、ワレワレの言うことも聞きまセンシ。そんなコトより何なんデスかあのガスマスクとヘルメットは。優秀な研究員も殺されて、コッチの被害も相当……』

「黙れ使えないクズ共が! 貴様等なんぞに頼った私が馬鹿だった!」

 怒鳴り散らして、ノールズは叩きつけるように受話器を置いた。

 次から次へと良くないことが怒っているようだ。留置所の犯罪者を虐殺した大量殺人犯に、警察署内の警官殺しと侵入者、更に、留置所から発砲音が聞こえるとも聞いた。ロクなことが起きていない気がする。

 と、次から次へと嫌なことばかり考えているノールズの耳に、巨大な爆発音が鳴り響いた。

「な、今度は何だ!?」

 地鳴りに揺れる様に、警察署全体がビリビリと震える。耳をつんざく様な爆発音が次から次へとノールズ達の鼓膜を揺らし、彼らは思わず頭を抱えた。

「しょ、署長! そ、そ、外です!」

「!?」

 警察官の一人が、カーテンが引かれた応接室の窓を指差す。時刻は二十時を回っているにも関わらず、厚い雲に覆われた朝日よりも眩い白い光が、耳障りなエンジン音と共にカーテンの向こう側からノールズ達のいる応接室を照らしていた。



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