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Crazys!  作者: ノンアルコール
C,4-2 Every Metro For Your Safety.
24/65


 日が傾き始め、窓から西日が差しこむ時間帯となった頃。ノアメトロの警察署内に、巨大な爆音が鳴り響いた。

 灰色の暗い壁に囲まれた警察署内は、一時騒然となり、署内の警察官たちは、街から強盗事件の通報があった時なんかよりも慌ただしく動き出して外に出た。

 数台のライトバンの並ぶ駐車場には、なんだなんだと騒々しくざわめきながら爆音の音源を探ろうとする警察官たちで一杯になっている。その様子は、街の野次馬たちとなんら変わらない。

「騒々しいな。何の騒ぎだね」

 色褪せた白いコンクリート製の警察署の、二階に位置する署長室から、顔をしかめた初老の男が窓から外を見下ろして煩わしそうに言った。

 二階の窓からは、僅かではあるが壁の外の様子がうかがえる。警察官たちが群がる外では、壁に激突したライトバンから黒い煙が立ち上がっており、赤いマントとヘルメットが目立つ少年が、何やら一心に警察官たちに頭を下げているのが見える。

 男は、それを見ただけで何が起きたのかを理解した。

「はっ……! 申し訳ございません署長。なにやらまた……」

「皆まで言わんでいい。大体分かる」

 同室にいた、若い警察官が額に手を当てて慌てて言い繕うのを聞いて、署長と呼ばれた男は呆れたように溜息をついた。

 男は、その若い警官よりもしっかりとした警察服に身を包み、胸には権力の証である金で出来た勲章をいくつも飾っている。それを見ただけで、彼が署内でもどれだけ高い地位についているのかがわかる。

「全く、彼は本当に、毎度毎度やんちゃが過ぎる。そろそろ、器物破損等の容疑で留置所にぶち込んでみてはどうかね」

 署長が、酷くイラついた様な口調で吐き捨てる様に言った。それを聞いて、若い警官は慌てて答える。

「それもそうなのですが……。何分、民衆の支持と言うモノもありまして。破壊はしますが、彼の働きの為にノアメトロが平和になったと言うのも事実なわけでして……」

「わかっている。わかっているとも、君に言われなくてもな」

 まるで八つ当たりでもするように更にイラついた声音で警官の言葉を遮ると、署長は不機嫌そうに鼻を鳴らして腕を組んで外を見る。

「……君も、さっさと下に行って後片付けをしてきたまえ。あの少年は帰していい、邪魔だ」

「……了解いたしました」

 警官は素早くそう答えると、足早に署長室を後にした。足音に焦りが混じる。よほど、署長室での空気は彼にとってのストレスだったのだろう。

 そんな事を署長本人が知る由も無く、室内に残った男は、後ろで腕を組んでニタリとあくどい笑みを浮かべながら、光に群がる蛾の様に集まっている警官達を見て、誰に言うでもなく呟いた。

「綺麗にしてもらわないと困る。今日は、大事なお客様が来る予定なのだから」



<Cookie 4-2> Every(エブリィ) Metro(メトロ) For(フォー) Your(ユア) Safety(セーフティ)



「ほんっっっっっと――――っに!! 申し訳ありませんでした!!」

 今にも、地面に額を擦りつけんばかりに両膝をついて深く頭を下げるヘルメットの少年に、対面した警察官は困った様に顔をしかめて腕を組んだ。

「その、わかったから。わかったらか顔を上げてください、……我らがヒーロー……」

 酷く言い難そうに、警官が視線を少年から逸らしながら言う。それを聞いて、少年は今にも泣き出しそうな顔を上げて勢いよく立ちあがった。

「それはいけない! 警察署の壁を壊したのは、完全に僕の過失だ! 僕にはそれの弁償をしなくてはならない義務がある! 謝って許されることではないんだ!」

 少年の後ろで、壁に衝突したライトバンから漏れたガソリンに火がついて、大きな爆発を引き起こし、今も尚煌々と燃えあがる炎を見た後、警官は呆れた様な半眼で少年を見た。

「そんな事言ったって、アンタ金持ってないでしょう」

「……大丈夫だ! すぐにギャングの一つや二つ潰して、報奨金を手に入れる!」

「でもどうせその過程でまた壊すんでしょう。返済が間にあってないって、街の人から苦情が来てますよ」

「……」

 少年は、バツが悪そうな顔をして言い淀む。だが次の瞬間には、キッと両目に光を宿して力強く拳を握った。

「だ、大丈夫! 今回の強盗の報奨金を、街の家具店の修理に宛ててくれ。そうすれば、今のところ街で返済待ちをしている所は無いはずだ!」

「駅前の、バザールの露店主からも苦情が……」

「それはこれから考える!」

 力強く自分の胸を叩いて、少年は言いきった。未定の事柄を、こうも胸を張って自信満々に言いきれる人間を、警察官は彼以外に知らない。

「とにかく、ヒーローとは言え、貴方も一人のメトロ市民です。署内で事情聴取を……」

 そう言いかけた警察官の元に、署内からもう一人の若い警察官が走り寄って来た。

 若い男は、慌てたように少年に一礼すると、警察官の傍によって何やら耳打ちしてその場を去った。

「あ、あー……、やっぱりいいです。事情聴取は無し。もう帰っていいですよ」

 疲れたように溜息をつきながら告げる警察官に、少年は不思議そうに首を傾げる。

「いいのか? 警察署の壁に穴をあけてしまったのに……」

「貴方を取り調べてギャングについての情報が出るなら、いくらでも取り調べますよ」

「じゃあ爆発した車の撤去作業を……」

「いいですいいです。業者の連中に任せますから。貴方はしばらく大人しく、街のパトロールでもしていてください」

 半ば強引に押し返され、少年はしょんぼりと肩を落として警察署に背を向けた。

「すべては、メトロの安全のために」

 しょぼくれた少年を追い払うように、警察官は署内の決まり文句とともに敬礼をした。少年も、それに敬意をもって敬礼を返すも、それでも何やら、物悲しそうにこちらを見てくるので、警察官はまるで犬でも追い払う様に手を振ると、トボトボと歩きだした。警察官の男は再び疲れたような溜息をついた。

「部長! 車の消火が終わり、車内から強盗団のものと思われる死体が出ました」

 燃えあがる炎の消火活動に勤しんでいた警官が小走りで走り寄って報告した。

「車内から、男の焼死体が四体。被害者である古書店の店主の報告と合致します」

「なるほど。金は無事か?」

「いえそれが……、車内には奪われたはずの金品の姿が何処にも…」

「何……?」

 怪訝そうに顔をしかめて、部長と呼ばれた警察官は先程肩を落として去って行った少年の方を見る。しかしながら既にそこには少年の姿はなかった。

 こんなことならば、きちんと事情聴取をしておくべきだった。しかし、少年を帰せと言うのは署長自らの命令である。それに抗ってまで、あの少年を取り調べるメリットなど無いだろう、とも思う。

「そうか。ならば、人員を割いて辺りを捜索させろ。もしかしたら仲間がいたのかも知れん。近くにまだいる可能性もある」

「了解しました。それから、もう一つ報告が……」

 片手を額に当てて返事をする警察官が、更にクチを開いた。

「街道で、署内の白バイを盗み商店の入口に突っ込んだ二人組が連行されてきましたが、処遇はどうしましょう」

 報告を聞いて、部長は呆れを通り越しがっくりと疲れた様にうなだれて溜息をついた。

 なんだ、今日は厄日だろうか。それとも、昨今では車やバイクでどこかに衝突するのが流行っているのだろうか。そんな事を自棄になって考えながら、部長は額を押さえて溜息交じりに頭を抱えて言った。

「留置所だ。とにかく、今回の強盗事件の方が付くまで留置所にでも放り込んでおけ!」




 警察署から追い出されたヘルメットの少年は、強盗団のライトバンを追って走って来た道をトボトボと引き返す。

 警察署から伸びる道は、スラム街となっており、住民たちは道を歩く少年をまるで奇人でも見る様な目で廃れた建物の間から見つめていた。少年を見つめる誰もが、彼と関わり合いになるのを避ける様に姿を隠す。けれど気にはなる様で、誰にも気付かれないように影から見つめている。

 しかし、そんな住民たちのネガティブな視線に少年は気付く事はなかった。彼の心の中には、警察署の壁を壊してしまった事に対しての罪悪感でいっぱいなのである。

「えーとえーと、ジェットエンジンがだめでー、制御装置もだめでー、装甲もぐしゃぐしゃだからー……。うーん、全部だめ!」

 少年が歩く道の真ん中に、ブリキ装甲の巨大な鉄の球体が白い煙を放ちながら無造作に転がっていた。

 その球体の周りを一人の少女がくるくると回りながら、困った様にブツブツと呟いていた。

 ライトバンを追う際に、少年の後を追っていた少女、タツミである。彼女の姿を見止めると、少年は驚いた様に目を丸くした。

 どうやら、少年を追う途中で、球体ロボットが壊れてしまった様である。もはや鉄クズの塊と化したそれは、高温の蒸気を放ちながら沈黙していた。

「あ! ヒーロー、ヒーローだ! 悪者たちはやっつけた?」

 タツミは、少年の姿を見つけると、球体のロボットを放り投げて嬉しそうに彼に走り寄った。少年は、駆けよって来るタツミに気付くと、気落ちしていた気持ちを無理矢理振るい上げて得意げに腕を組んで笑った。

「当然さ! 悪人を懲らしめる事が僕の役目だからね。君も協力してくれてありがとう! ええと……」

「タツミ! 名前はタツミ!」

 タツミは、少年に感謝されたのが嬉しかったようで、満面の笑みを浮かべて自分の名前を述べた。

「タツミか。僕はの名前はカナメ。よろしく」

 ヘルメットの少年カナメは、ニッコリと笑ってタツミに向かって手を出した。タツミは、嬉しそうに笑ってその手を握る。

「ヒーローとあくしゅ! あ、そだ。ねえねえカナメちゃんカナメちゃん、ツッキーは? ツッキーいなかった?」

 タツミが首を傾げながら問う。カナメは『ツッキー』が何なのか理解できず顔をしかめて腕を組んだ。

「ツッキー? 友達かい? そういえば、君は強盗団の誰かに手を振ってたな」

 ライトバンを追い掛けていた時の事を思い出し、カナメは言った。それを聞くと、タツミは嬉しそうに何度も首を縦に振る。

「そ! ツッキーいたの! ガスマスク! 賞金稼ぎなの!」

「そうだったのか……。じゃあもしかしたら、人質か、あるいは巻き込まれただけだったのかもしれない。それは申し訳ない事をした」

 カナメはそう思い申し訳なさそうに肩を落とした。タツミには言い難いが、バンは警察署の壁に激突した。その後、さらにガソリンに引火して爆発を起こしたのだ。車内に乗っていた人間が、生き残っているとは思えなかった。

 しかし、そんなカナメの不安など気にもせず、タツミはニッコリと笑った。

「大丈夫! ツッキー死なない丈夫だから! たぶん元気!」

「……?」

 いまいち、タツミの言いたい事が掴みとれず、カナメは不思議そうに首を傾げる。対してタツミは、再びくるくると回りながら道の真ん中に転がっている鉄の球体に走り寄った。

「でもこっちはだいじょぶじゃない……。もうジュミョウかなー」

 鉄の塊を見上げて、タツミは寂しげに言った。あまり素敵なデザインではないものの、エストメトロからわざわざ持ってくるほど思い入れの強かったロボットである。壊れて動かなくなってしまうのは、悲しいものだ。

「壊れてしまったのか? 僕も一回乗ってみたかったよ」

 カナメが惜しそうに言ってロボットを見上げた。巨大ロボットなどと言うのは、ヒーロー物のお約束要素である。

「んー、部品あればなおるかなー? ちゃんと見ないとわかんない」

「部品……」

 タツミの言葉を聞くと、カナメはふと思いついたように顔を上げてタツミを見た。

 このゴミの溢れるメトロには、エストメトロ問わず多くのジャンク品が転がっている。そして幸運にも、カナメはそういう品が多く集まる場所を知っていた。

「なら、直そうじゃないか! 僕の知り合いにエンジニアがいる。その人の所なら、部品になりそうな物があると思うよ」

 カナメが言うと、タツミは嬉しそうに両目を輝かせた。

「ほんと!? いくいく! あ、でも……」

 タツミは喜んで飛び跳ねるも、ハッとして思い出したように自分の身体の大きさよりも三倍はあるであろう球体ロボットを見上げた。

「これ、どうやって持って行こう?」

 動かない鉄の塊は、ただのガラクタのゴミである。タツミの不安に、カナメはふふん、と余裕の笑みを浮かべて手を腰に当てて高らかに言った。

「無論! 僕が……転がして行こう。危険だから、ゆっくりとね!」

「……転がすのかー。なんかちょっとカッコわるいね」

 心なしか残念そうなタツミの声をカナメは華麗に聞き流し、得意げな笑みを絶やさぬままロボットを転がす準備にかかった。



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