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Crazys!  作者: ノンアルコール
C,4-1 Hello, Villains!
20/65


 メトロの夜の闇は深い。

 道を照らす街灯など無く、街には月明かり以外の光がまるで無い。

 深夜の街道はとても静かで、まるで言葉を失ったかのように、宙を舞う埃と共に木造の商店が佇んでいる。

 そんな、音を殺したメトロの街道に佇むとある商店で、ガタガタと騒がしい物音が響いていた。

「ひぃーふぅーみぃー…、へへへ、これだけありゃ当分は遊んで暮らせるな」

 夜闇の中に、金を数える防毒マスクの男の姿が浮かび上がった。商店の窓から差し込む月明かりに照らされて、猿ぐつわを嵌められ、荒縄でぐるぐる巻きに拘束された商店の主とその女将が、恐怖に顔を引き攣らせて震えているのが見える。

 強盗だ。メトロの夜にはそう珍しくないが、商店を営んでいる人々にとっては一つの大きな脅威である。

「おい、金は詰めたか? こっちも大量だぜ」

 店の奥から、その強盗と同じような身なりの男たちが商品の入った袋を抱えて顔を出した。それを聞いて、金を数えていた強盗は機嫌良く笑って立ち上がる。

「よーし、それじゃぁそろそろずらかるか」

 男がニタリと笑った。後は、恐怖にひきつった顔でこちらを見ている店主たちを口封じし、この家から逃走するだけである。それだけで、当分遊んでいられるだけの金が手に入るのだ。昨今のメトロは、彼らのような暴漢達には生きやすい世の中となっている。

 そう、安易に考えて、男が商品棚の上から腰を上げた瞬間、彼らの耳に爆発的な音量の『音楽』が飛び込んできた。

「!?」

 その場にいた全員が、驚きのあまり一瞬身体を硬直させる。

 シン、と静まり返っていたメトロの街道に、大音量でノイズ混じりの『歌』が響き渡る。やけに騒がしいメロディー、ギターとドラムとシンセサイザーを同時に掻き鳴らした様な、滅茶苦茶に音階をなぞる様な音に乗った、やたらと熱い男の声。

 それは、確かに歌だった。しかし、ただの歌では無い。朝のヒーロー番組のオープニングテーマで流れている様な、ありふれたヒーローソングだ。

 それを聞いて、強盗たちはおろか、商店の店主たちまでもが恐怖に顔をひきつらせた。

「こ、こりゃぁ…まさか…」

「まずい! あいつだ! ヒーローが来た!」

 ラジオのスピーカーから流れている様な馬鹿でかい音楽は、まだ店の外から聞こえてくる。

 強盗たちが騒ぎだした。慌てて金の入った袋を担ぎだし、バタバタと室内を走り出す。

 しかし、強盗たちが逃げ出す準備を始めたのを見計らってか、強盗たちが騒ぎ出すと同時に商店の窓硝子が割れた。

「!?」

 ガシャン、という派手な音と共に、室内に黒い影が勢いよく飛び込んできた。いつの間にか、大音量のヒーローソングの音源は、外から商店の中へと移動しており、耳を塞ぎたくなるような爆音がダイナミックに強盗たちの鼓膜を揺らす。

 そして、その音源である黒い影は、パラパラと衣服についた硝子の破片を床に落としながら、ゆっくりと背を伸ばして真っ直ぐに立った。

「……ヒーロー参上」

 恐怖に顔を歪める強盗たちを前に、メトロの乾いた風に揺れる真っ赤なマントが、にんまりと愉快そうに笑った。



<Cookie 4-1> Hello,(ハロー) Villains!(ヴィランズ)



 エストメトロを出発したエクスプレスは、一日と半分を掛けてノアメトロのステーションへと続く線路を走る。

 エクスプレスのセキュリティの強化により、途中、車内安全点検等を行ったおかげで、いつもよりも遅い到着となってしまった。

 車内にも、乗客の暇を紛らわすための食堂車両や、チェスやカードゲームを楽しめる軽い遊技場、寝台車などもあるので、乗車中はそこまで退屈はしないのだが、流石に一日以上も窮屈な列車内に閉じ込められていると、目に見えて疲れが現れてしまうのは避けられない。

 一日ぶりに乾いた地面に降り立ち、メトロの乾燥した風にあてられたツキシマとカグラとヨツヤは、ステーションの建物を出るとほぼ同時に両手を上げて背筋を伸ばした。

「あー…、疲れた。まさかこのメトロの汚い空気を恋しく思う日が来ようとは、流石に思わなかったわ」

 肩に背負った大型のライフルと、赤いマントが良く目立つ女、カグラが、疲れた様に目を細めて首を回しながら言った。それに、相変わらずごついフォルムの防毒マスクで無音を守るツキシマも、同意するようにコクコクと頷く。

 ノアメトロのステーションは、エストメトロのそれと比べるととても古めかしい。

 エクスプレスと共にステーションが設立されたのが二十年前なので、築二十年と考えるとそれ相応に思えるが、如何せん、エストメトロのステーションが中々に綺麗だったので、ノアメトロの治安の悪さも相まってステーションの建物の劣化具合が顕著に見える。


 ノアメトロは、メトロ一治安の悪い地区として有名だ。

 夜が明ければ、必ずと言って良いほど、街道の商店の内最低十件以上は強盗の被害が出ているし、路地裏は凶悪なギャングや麻薬中毒者、ホームレス等でごった返している。ステーションから離れた地域には、スラム街も広がっており、窃盗盗難は日常茶飯事である。

 そんな、治安の悪い場所に居られるか、と、ノアメトロを去る商人や住民たちが続出し、今では街は、ゴーストタウンさながらに廃墟化してしまった……、と言うのは大げさかもしれないが、それほどまでにノアメトロは、闇の深いメトロのその最深部と言われているのである。

 それが、カグラが今まで聞いていた、ノアメトロの噂だ。


 しかしながら、ステーションに降り立ったカグラ達が見た光景は、その伝聞された噂から想像したノアメトロのイメージ像とは大きく異なっていた。

 まず、エクスプレスからノアメトロに下車する人々もたくさんいて、ステーションの前にも多くの露店が開かれており、小さなバザールになっている。エストメトロやサースメトロの賑わいに比べたらまだ劣るかもしれないが、駅前は、そこそこの活気があった。

「なんだぁ? ここは随分変わったんだな。昔は、駅前に露店なんか出してたら直ぐにギャング共の餌になってたってのに」

 バザールの様子を見たヨツヤが、眠そうな赤眼を怪訝そうに細めて言った。それに、カグラも片眉を吊り上げる。

「何よ、アンタここに来た事あったの?」

「何年も前にな。あん時は、住民や商人どころか賞金稼ぎすら寄りつかない場所だったから、お前らが『お使い』とか言うのにも違和感あったんだよ」

 ふむ、とカグラが頷く。ならば、やはりここ数年でいきなり街の景観が変わったと言う事だろうか。何があったのか、気になるところではあるが、お使いを済ませて早々にサースメトロに帰ろうとしている彼らにとっては、どうでもいい事であった。

 カグラも、大金を手に入れ、エストメトロの銀行でそれを金券に変え、金儲けの面ではもう満足している。後は、道中ひっついて来たうっとおしいことこの上ない二人を、どこかに置いて帰れれば最高なのだが、とカグラは苦い顔をして腕を組んだ。

「うわぁー! お店! お店いっぱいある! すごいすごーい!」

「……!」

 ステーションに降り立った時から、キョロキョロと落ち着きなく辺りを見渡しながら、肩ほどまでの白いサイドテールをユラユラと揺らしていたタツミが、嬉しそうな声を上げて跳ねる様に駅前のバザールに向かって駆けだした。

 それを見て、ツキシマは慌ててタツミを連れ戻そうと手を伸ばした。いくら、活気のある市場とはいえ、ここはメトロだ。確かにタツミは、そこら辺の子供とは違うが、一人で歩くのは危険である。

「ちょっと待ちなさい、何処行くつもり? アンタは私と一緒にお使いに行くのよ」

 タツミを捕まえようと動いたツキシマに、カグラはムッとした様な声で言いながら彼の肩を掴んだ。子供と遊ぶのは良いが、まずは自分たちの仕事を片付けるのが先である。

 カグラに肩を掴まれたツキシマは、困惑したように何度かタツミの背中とカグラを見くらべる。メトロ、と言う危険と常に隣り合わせの大地を前にして、全く物怖じせずにバザールに突っ込んで行くタツミの背中は、どんどん小さくなって行った。

 それを見てツキシマは、不安げな面持ち(表情は見えないが)でタツミを指差しながらカグラを見る。

「あー…、心配だって? 大丈夫よ、子供でも、あの子はメトロの子供なんだし、身を守る術くらい心得てるでしょ。それに、あの子も相当変わってるし」

 タツミが特異な性格と能力を持っている事に関しては、カグラもヨツヤもエクスプレス内で確認済みである。

 メトロ広しと言えど、小型のテレビから充電式のレーザーガンを練成する子供などカグラは見た事が無かった。

「……」

「んー、まあ、そんなに心配だって言うなら…、ねぇ、ちょっと保護者よろしく」

 無言のまま、頷こうとしないツキシマに、困った様に顔をしかめるカグラは、思いついたように傍に立ってぼんやりとバザールを見渡していたヨツヤの肩を叩いた。

「…はぁ?」

「保護者よ保護者。ほら、あの子追っかけて」

「何で俺が……」

「どーせ暇なんでしょ? 今日はツキシマと遊べないわよ。お使いがあるんだから」

「……」

 カグラの言葉を聞いて、ヨツヤは不満そうにクチの端を下げて面倒くさそうに沈黙した。確かに、バザールをブラブラしようとは思っていたが、何故あんなガキのお守りをしなきゃいけないのだ、面倒くさい、という思いは確かにあったが、何よりもカグラの言いなりになるのが、ヨツヤは気に入らない。

「めんどくさ……」

「反論が無いなら行くわよツキシマ。とっとと面倒な仕事を片付けて帰るのよ」

「……」

 先手必勝は、カグラの座右の銘の一つである。共に、押し付け、とも言う。

 戦闘時とは異なり、ローテンションで反論しようとするヨツヤの言葉を遮ってカグラが素早く言ってさっさとバザールとは反対方向の街道に向かって歩き出した。それに続いてツキシマも何度か縦に頷いて、安心して弾む様に地面を蹴って歩き出す。ヨツヤとはいえ、保護者がいれば、タツミをメトロで歩かせても平気だろう、と安心したようである。

 言葉を発しかけたヨツヤは、文句を言う相手も失い、眠そうな半眼を不機嫌に濁らせて、遠慮なく舌打ちを零すこととなった。



 *


「わわー! すごいすごいすごい! これ何なになに?」

「なんだァ? お嬢ちゃん、ラジオも見た事ねぇのか?」

 人の並ぶ露店通りの一角に、店を構える電気雑貨屋の店頭で、タツミは自分と同じくらいの背丈の台の上に置かれた商品を見るために、一生懸命背伸びをしながらはしゃいだ。

 古ぼけた中古のラジオを指差して言うタツミに、店の主は驚いたように目を丸くしながら、煙草の煙を吐いた。

「ないなーい。これ動く? 撃つやつ? てっぽう?」

「違う違う。こいつはなぁ、イースメトロの電波塔から飛んでくる電波を受信して、何処に居ても歌やコメンタリーを聞く事が出来るんだぜ。たまにシティの電波も拾ったりな…、まあ、よくわかんねぇだろうから、一回聞いてみると良い」

 そう言って店の主は、ラジオをタツミに渡すと電源を入れてチャンネルを合わせた。

 とたんに、タツミの両手で抱えられる程度の大きさの直方体に取り付けられた、二つのスピーカーから若い女の声が流れ出した。

『今日の…ノアメトロの、お天気は……晴れ…のち……』

「わ! しゃべった!しゃべった! 鉄くずがしゃべったよ!?」

 スピーカーから流れ出した女の声に、びくりと肩を震わせた後、興奮したように目を輝かせながら店主に報告するタツミに、店の主はどこか微笑ましげに笑った。

「ははは! 鉄くずとはひでぇな! ラジオごときでビビってちゃぁ、通信機や自動計算機なんか見たらお嬢ちゃんぶっ倒れちまうんじゃないか?」

 店主が楽しげに笑う。タツミは、ラジオのチャンネルを回しながらスピーカーから流れる声に耳を傾けた。酷いノイズの混じった音声だが、確かに人と人が話す声や、リズムに乗った軽快な音楽が聞こえてくる。

 タツミは、銀色の細い棒が括りつけられている、この鉄の塊をいたく気に入ってしまった。

「イイ! これイイです! おじさん、これ買った! おいくら!?」

「おお、いいねぇ、お目が高いお嬢ちゃんだ。とは言っても、それは中古品でね。かなり古い型だから、一五〇〇エイルってとこかな」

「せんごひゃく…」

 タツミは値段を聞くとキョトンとして、ラジオを小脇に抱えるといそいそと持っていた斜め掛けのカバンを開けた。中には、愛用の大きなモンキーレンチと、昼寝中のコルト、それから小さなガマグチとエクスプレスの中で作ったレーザーガンが入っている。

 タツミは、そのガマグチを取り出してパチンと蓋を開けた。目を凝らして中を覗いてみると、硬貨が数枚しか入っていない。どう見ても、一五〇〇Eも入っているようには見えない。

「…おじさんおじさん、おかねがないので、ブツブツコウカンでどうですか?」

「んん? 物々交換? 何をくれるって言うんだ?」

 しょんぼりとして、言い難そうに視線を上げるタツミに、店主は首を傾げて問いかけた。

 そしてタツミは、カバンの中から一丁の拳銃、とも見えない、滑稽な形の銃を取り出して台の上に乗せた。

 バレルとトリガーは付いているのだが、銃口がどの口径とも判別できないひし形で、バレルの先の方には傘の様な円形の物体が取り付けられている。まるで、銃口から弾が飛び出す瞬間を見ないように配慮されている様にも思える。

 その、なんとも言えない奇妙な物体に、店主は怪訝そうに首を更に傾げた。

「お嬢ちゃん、こりゃ一体…」

「あのねー、これ、レーザービームなんだよ! 光の弾を見ると危ないからねー、ちゃんと光ガードできるようになってる!」

「レーザービーム?」

 怪訝そうに顔をしかめながら、店主は銃を手にとり珍しげに観察してみる。子供用の玩具だろうか、とも懸念する。形以外は、普通の銃と変わらないように思うが、ただ、弾薬の入ったマガジンの有るべき場所に、なんらかのプラグの差し込み口があった。

 思っていたほど、良い顔をしてくれない店主を、タツミは不安げな面持ちで見上げる。

「ダメかなぁ?」

「まあ、まずは試し撃ちだな」

 店主は未だ銃の構造が理解できず、不思議そうに銃を見つめながら呟いて、その銃口を店の壁にひっかけてある鉄製のフライパンに向けた。

 火薬の詰まった黄土色の弾丸が飛び出してくるならば、弾は鉄製のフライパンを貫通できずに跳ねかえってくるだろう。メトロで言えば『銃』とは、全て例外なく鉛弾を発射する銃火器を意味する。

 なので、店主は何のためらいも無く、そのフライパンに向かって引き金を引いた。


 その瞬間。ジィィィィ、とモーターが回る音がして、銃口から眩い光が放たれた。

 青く、触れれば火傷では済まされないほどの熱を持った光の弾丸が銃口から発射され、一ミリの照準ズレも無く真っ直ぐにフライパンの底に当たり、ドロリと鉄を溶かして、それは空中の光に溶けて消えた。

 店主は、ビリビリと片手に銃の振動と発砲時に発生した熱を感じながら、何が起こったのか理解できず、正に開いたクチが塞がらなくなってしまった。

 なんだこれは、なんなのだこの恐ろしい銃は。店主は、困惑する。鉄をも溶かす銃など、メトロでは見た事が無い。

「なっ…ななななな…!」

 店主は驚愕に震えながら、ゆっくりとタツミを見下ろした。自信満々、とでも言う様なタツミが首を傾げてにんまりと笑った。

「ブツブツコウカン、おっけー?」




 軽快な足取りで、露店に挟まれた細い道を走って行った小さな背中を追い掛けると、とある露店の前でラジオを抱えながら、困った様に眉を寄せるタツミの姿を見つけた。

「……おい、何やってんだ」

 重く、だるい黒革のブーツの底を引きずりながらヨツヤはタツミに歩み寄ると、ヘンテコな銃を片手に、魂が抜けた様な白い顔をしている店主を見て、面倒くさい問題を起こしていないか不審に思って問いかけた。その声に反応して、タツミは素早く顔を上げる。

「あ、ヨツヤだ。……うわぁ、ヨツヤかー」

「何でそんな不満そうなんだよ」

 人の顔を見て、嫌そうに表情を歪めるタツミに、ヨツヤはイラついた声音で言った。

 感情をオブラートに包まない、馬鹿素直な子供はこれだから嫌いだ。

「ヨツヤは子供に冷たいからきらい! ツッキーとカグりんは優しいのに! ヨツヤは冷たい!」

「はぁ? 俺がいつお前に冷たくしたよ?」

 濡れ衣である。ヨツヤは、タツミに冷たく接した覚えなど無い。そりゃあ、ツキシマやカグラと比べたら、エクスプレスの中でもタツミをうっとおしがったりした気がするが、それだけである。

 にもかかわらず、タツミはまるでヨツヤを親の仇でも見るかのような目で見上げた。

「だってだって、ヨツヤはタツミとババ抜きしてくんなかった! 夜、トイレいくのこわいのに、ついてきてくんなかった! しかもしかもしかも! タツミのおやつのアイス勝手に食べた!」

「……それかよ」

 先日の、エクスプレス内での出来事を思い出してみる。

 確かに、タツミにねだられたババ抜きの相手を断った。だって、二人しかいないババ抜きの何が楽しいと言うのだ。アホみたいに詰まらないに決まっている。相手をしていたツキシマの気が知れない。

 それから夜に、タツミに起こされたような気がする。眠かったので良く覚えていないし、なんて答えたかも曖昧だ。多分その後は、カグラに付き添ってもらったのだと思う。

 後は今日の昼、食堂車両の机の上にあったアイスを食べた。同じ席にツキシマがいたので、普段食事をとらないツキシマが何でアイスなんか頼んでるんだ、と不審に思い、彼に断ってからそれを食べた。後からそれがタツミの物だった事が判明した。この世の終わりの様な顔で絶望するタツミに、謝って食べかけを返したので、自分は悪くないとヨツヤは思っている。

「……めんどくせぇガキだな。ちゃんと謝っただろーが」

「あやまってすむならケーサツはいらないの! ヨツヤはタツミが、デザートのアイスをどんだけ楽しみにしてたか知らないんだ!」

「はいはい」

 全く反省の色を見せず、欠伸を噛み殺しながら相槌を打つヨツヤの態度が、更にタツミの怒りを助長させる。

 ムッとして、拳を固く握りしめながらタツミは小さな体で怒りを体現するかのように、じたばたと暴れた。

「キー! もっとちゃんと話聞いて……」

「うわあああぁ! ひったくりだああ!」

 タツミが喚きだすと同時に、遠くから悲鳴のような叫び声がバザールの中に上がった。

 辺りを歩いていた住民たちと一緒に、ヨツヤとタツミは声の上がった方向を見る。すると、商品の入ったバックを抱えた若い男が、全速力でこちらに向かって走ってくるのが見えた。

「ひったくりって、ちっせぇなぁ」

 このメトロで、ひったくりとはなんとも矮小な犯罪であろうか。犯罪を肯定するわけではないが、せっかく法を犯すのならば、もっと大きく犯した方が何となくお得の様な気がする。

 冷めた様な口調でため息交じりに呟くヨツヤを余所に、タツミはきらりとその大きな瞳を煌めかせた。

「これは! ショーキンカセギのでばん!」

「あ、おい」

 ヨツヤの短い静止の声も聞かず、タツミは勢い良く道の真ん中に立ちはだかった。両手を広げ、にんまりと笑いながら正面から走ってくる男の行く手を阻む。

「!?」

「まてまてぇ! メトロをさわがす悪者め! 賞金稼ぎのタツミがぶっころしてや…はれ?」

 正面から来るひったくり犯を指差して、声を大にして言うタツミ。しかし、犯人の男は、いきなり道におどり出して来たタツミを避けられないとわかると、その腕をタツミの首に回して拘束し、頭にリボルバーの銃口を突き付けて叫んだ。

「動くなァ! このガキの命が惜しければ、テメェら一歩たりとも動くんじゃねぇ!」

 驚愕し緊張した面持ちで男を囲む人々の視線を浴びながら、前後左右を睨みつけて、男がじりじりと後ずさる。その腕に捕らわれたタツミは、何が起こったのかイマイチ理解できずにキョトンとしていた。

 それを見て、ヨツヤはがっくりと肩を落とす。

「マジでめんどくせぇ事になってんじゃねぇかよ……」

「動くな! 動くなよ貴様ァ!」

 ヨツヤの溜息を聞いて、男はヨツヤを睨みつけると頭に銃を突き付けたタツミを盾にして怒鳴った。近距離で怒鳴り声を聞いて、ヨツヤの脳が微かに揺れる。

「うるせーなぁ、そう怒鳴んなくても、そのガキがどうなろうが俺はしらねーよ」

 大声に苛立ったヨツヤの非道な言葉を聞いて、男は驚いたように目を丸くした。しかし、一番驚いていたのは男では無く、ようやく自分の置かれた状況を把握する事が出来たタツミ自身である。

「ひどい! ヨツヤひどい!」

「何言ってんだ。勝手に道に飛び出したオマエの自業自得だろうが」

「それは、そうかもだけど…… でも子供を見殺しにするヨツヤは冷たい! 冷たいよ!」

「おーおー、なんとでも言え。俺はお前のアイスを勝手に食べた奴だからなぁ。冷たい奴なんだ」

 ヘラヘラと笑ってからかう様な声音で言うヨツヤ。先程、些細なことでタツミに冷たいだのなんだの言われた事を根に持っているようである。大人げない話だ。

 対して、そんなヨツヤの笑い声を聞いたタツミは、ムッと小さな頬を膨らませて怒りだした。

「ヨツヤのばかー! ろくでなし! ひとでなし! うわーん!」

「う、うわ! このガキ、暴れるな!」

 怒りのあまり、自分の置かれた状況も忘れて、タツミは男の腕の中でジタバタと暴れた。暴れるタツミを押さえこもうと、よろける男の手に握られた銀色のリボルバーは、今にも銃弾を発砲せんと不安定に揺れる。

 頃合いか、とヨツヤは暴れるタツミを見て愉快そうに笑う。僅かに気分も晴れたので、しょうがないから助けてやるか、とヨツヤは腰の刀に手を掛けようと手を伸ばした。

 しかしその瞬間、バザールに、鼓膜を突き破らんばかりの爆音が鳴り響いた。

「!?」

 音で、直接脳味噌を揺らす様な爆音に、ヨツヤは思わず顔をしかめ、タツミは慌てて両耳を塞いだ。

 派手な音楽である。ドラムとギターとシンセサイザーを同時に掻き鳴らしたうえで絶叫する様な男の声がメロディに乗り、やたらめったら熱い歌が響き渡った。

 朝のヒーロー番組で流される歌だろうか、ノイズ交じりの聞くに堪えないヒーローソングを聞いて、ひったくり犯、そして傍に露店を出していた商人や買い物途中の人々は、騒音に耳をふさぐことすら忘れて、顔を蒼白とさせた。

「あ、あああ! アイツが来た!」

「皆急いで逃げろ! 商人は店を畳めええ!」

 バザールに響き渡る爆音にも負けずに、人々は声を張り上げて逃げ出した。商人は、店の商品を荷物に詰め、買い物途中の人々は、持っていた買い物かごを放り投げて逃げ惑う。

 その、異様とも言える光景に、ヨツヤは騒音に頭を痛めながら怪訝そうに額に眉を寄せた。

「…一体何が……」

「人有る所に仁徳有り。悪有る所に正義有りィ!」

 爆音の音源が、すぐ傍まで迫り、その音に負けない大きな声が市場に轟いた。耳を塞ぐヨツヤもタツミも、タツミを捕えていた男も、逃げ惑っていた人々も、その声の主に一斉に注目する。

 爆音の音源、また、声の主は、露店を支える細い柱の上に直立していた。柱の上に片足を乗せて、少しもバランスを崩すことなく腕を組んで、メトロの乾いた風にその首に巻いたマントを揺らしている。

 それは、少年だった。色褪せたブルーのジャージに、裾がほつれてボロボロになった赤いマントを首に巻き、青いヘルメットの上にゴーグルをつけた少年だ。

 歳は、十四歳前後だろうか、幼い無邪気さの残る黄土色の瞳は大きく見開かれており、自信に満ちた笑みを携えている。ボロマントと共に風に靡く赤い髪は、後ろの低い位置で結われていた、なんとも可笑しなカッコウをした少年だ。

「ハロー、悪党達ヴィランズ! メトロに蔓延る有象無象の、悪の権化となりし外道たちよ! 今日こそ観念するが良い!」

「うわああ! 帰れ! このクソガキ!」

「市場を荒らすな! 頼むから壊さないでくれえええ!」

 ビシリ! とタツミを捕える男指差して声高らかに言う少年に対し、逃げ惑う人々は口々に叫んだ。しかし、そんな人々のブーイングも、爆音のヒーローソングに掻き消されて聞こえないようで、少年はそれを無視して、うんうん、と頷きながら腕を組む。

「歓声ありがとう、メトロの住民たち! この僕が来たからには安心だ。一瞬にして悪党どもを滅ぼしてやろうじゃないか! とう!」

 少年は、声高らかに言うと掛け声と共にボロボロになった便所サンダルで柱を蹴って宙に舞った。どうやら、人々のブーイングは、爆音のヒーローソングというフィルターを通して、少年にとっては華やかな声援に聞こえているらしい。

 どうやら、相当おめでたい頭の持ち主の様である、と、ヨツヤは少年と言葉を交える前から確信した。

 宙で数回転すると、少年はヨツヤと男の間に、両手を広げて華麗に着地する。効果音に、シュタッと言う文字を背負っても良いくらいの軽やかな着地である。正に、アニメーション等で見るヒーローの登場シーンそのものだ。少年が、色褪せたボロボロのジャージを着ている事以外は。

「弱きを助け、強きを挫く! 正義のヒーローここに参上!」

 薄汚れた便所サンダルで、地上の乾いた砂を僅かに巻き上げると、少年はスクっと立ち上がり片手の拳をグッと握り締め、もう片方の手をピンと前方の斜め下に伸ばし、扇形を描く様に宙をなぞって、滑稽なまでのヒーローポーズを決めた。

 ヨツヤの幻覚だが、少年の背後で粉塵を巻き上げる爆発が起こった様なきがする。確実に、幻覚だが。

「…なんだあ? この茶番は……」

 辺りは、すっかり人がいなくなり、乾いた風が粉塵を巻き上げて駆け抜ける。バザールの騒がしさは、いつの間にか少年が肩に斜め掛けしている、ラジカセから流れるヒーローソングのみとなってしまった。

 タツミを人質にとる男の方向を向いて仁王立ちする少年の背中を見つめながら、ヨツヤは余りにも子供染みた茶番に対して呟くように問いを投げた。

 アホすぎる。ヨツヤは、何処かの異次元に迷い込んでしまったのではないだろうか、という錯覚すら覚えた。

 しかし、少年と対峙した男は、この呆れかえる様な茶番をそうとは思っていないようで、青くしていた顔を更に蒼白とさせると、持っていた銃を震えながら地面に落とし、次いでタツミを捕えていた腕の力を緩めた。

「わっ!」

 緩んだ腕の隙間をくぐって、タツミは重力に従って地面に尻もちをつく。

「たっ…たすけて…! 助けてくれ! 盗ったカバンは返す!ガキも返す! だから頼むから見逃してくれええ!」

 タツミを解放すると、男は情けなく地面に尻もちをついて、蒼白した顔に滝の様な冷や汗を流して狼狽した。

 今にも泣き出しそうな男に対し、少年はマイペースにポーズの構えを解くと、ラジカセの電源を切った。

 とたんにバザール内に響き渡っていたヒーローソングはぱったりと止み、逆に、寒気すらする様な静寂が辺りを包みこむ。

 ラジカセの電源を切った少年は、男のいる方に顔を向けると、悪意の全く見えない笑顔を浮かべてゆっくり男に歩み寄った。

「イイね、イイ判断だ! ヒーローを前にして、悪人が勝てるはずがない! 命が惜しいなら、命乞いをするのは当然の正しい選択だ! 何故そんな事が言えるかって? それは、常に正義が勝つと決まっているからだ。その真理を理解している貴方は、実に殊勝だ! 偉い! そこら辺の悪人たちよりはよっぽど教養があると見た!」

 ニッコリと笑みを浮かべながら近づいてくる少年に、男は恐怖のあまり竦み上がった。頭が、半分ほどパニックになっているのか、少年の言葉を聞いてもその意味が理解できていないようで、ガクガクと震えながら後ずさる。

 男の背中に、露店の商品台が当たった。男の目の前まで歩み寄った少年は、ピタリと歩を止め、黄土色の瞳を細めて笑顔のまま男を見下ろした。

「だが、答えはノーだ。死ね、悪党」

 少年は言いながら、拳を強く握り締めて身を屈め、へたり込んでいる男の腹部めがけて強烈なパンチを繰り出した。

 瞬間、人間の攻撃音とは思えない、まるで暴走車両が衝突した様な音がして、男の身体が宙に浮き、背後にあった木造の露店を破壊しながら吹き飛んだ。

 露店に並んでいた陶器を、日除けに張られていたテントを破って男の身体は宙を舞い、見事な弧を描いた後で乱暴に地面に叩きつけられる。

「ガッ…! アガッ…!」

 胃液を吐きながら地面に落下した男は、動く事もままならずガクガクと痙攣しながら声にならない悲鳴を上げる。そんな男に、再び絶望の足音が近づいて来た。

「罪の無い人々を苦しめる悪党が、命乞いをして罪を認めたからと言って、その罪を無かった事にしていいのか? 苦しんだ人々の悲しみは?辛さはどうなる? 人を苦しめる悪人は、全て等しく死を以て償うべきだ! 情状酌量の余地は無い! だって、正しく慎ましく生きて来た人々が悲しんで苦しんで、悪人共がのうのうと生きていると言うのは、どう考えてもおかしいじゃないか!」

 少年は、自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら高らかに言うと、懐から赤いグローブを取り出して両手に嵌めた。革製だが、実にがっしりとしたグローブである。殴られれば、素手の倍の威力のダメージを受けるだろう。

「一度黒く染まった水は、決して透明には戻らない。悪党が改心するのと、野放しにして更に罪を重ねるのと、どちらが確率的に大きいんだろうね? 計るのも馬鹿馬鹿しい。確実に後者だ! ならば、悪は死ぬべきだ。悪人が悪に染まった理由などは関係ない。等しく皆、滅びるべきなのだ。か弱き市民の為にも!」

 言って少年は、地面に転がっていた男の首を掴み、片手で軽々と持ち上げた。

「う…うぐ…ぐっ…」

 まだ抵抗する意識の残っている男は、力の無い手で己の首を掴む少年の手を引っ掻くが、喉を締め付ける少年の手は力を緩めてはくれない。

「メトロの平和の為に、死ね」

 光る黄土色の目を、狂的に見開いて、少年は男の首から手を離す。

 呼吸が楽になったと、安心したのもつかの間。一瞬身体が浮いたかと思うと、男の身体は、再び正面から繰り出された少年の拳によって宙に浮いた。

「うおおおおああああああ!!」

 叫び声と共に、少年の両手は目にもとまらぬ速さで男に向かって拳を繰り出した。

 おおよそ、人が普通に生きてきては、聞く事の出来ないようなバイオレンスな破壊音を響かせながら、男の身体は少年の放つ拳打によって地に落ちることなく空中にとどまっている。

 顔に、胸に、肩に腹に、少年の拳は男の身体全身に深く食い込み、骨と肉を砕いて行く。血が飛び散り、腕が可笑しな方向に曲がり、顔はもはや人の物とは思えないほどにむくれて陥没して行く。

「これで…終わりだあああああ!!」

 叫んで少年は、一際大きく男の顎にアッパーパンチを食らわせて、高くその身体を跳ねあげると、軽く地面を蹴り己も宙に跳ぶ。

 そして、力強く拳を握りしめた。すると、今回は幻覚の類などでは無く、少年の真っ赤なグローブを包み込むように炎が上がった。正に、炎の拳だ。

 拳が炎に包まれると、少年は両目を輝かせて、渾身の一撃、とばかりにその炎の拳を、もはや息の無いであろう宙を舞う男の身体に叩きつける。

 再び、ドゴゥッ! と、おぞましいばかりの音が上がると、男の身体は炎を纏いながら、露店のテントをぶち破り、更にその後ろにあった露店も破壊し、乾いた木造のそれを炎で焼きながら、十メートルほど後方まで吹き飛んだ。



「……ヒーローすごーい」

「……」

 少年の、デタラメと言っても過言ではないほどのパンチ力と容赦の無さに、タツミは露店の影に身を隠しながら素直な歓声の声を上げ、ヨツヤは、胡乱な眼差しで火のあがる露店を見つめた。

 ひったくり犯が吹っ飛んだ露店は、見る見るうちに炎に焼かれ、大きな音を立てながら崩落していく。アレでは、火が鎮火したころには男の死体も灰と成り果てていることだろう。これが人間のやることか、と、ヨツヤは呆れ果てた。

 普段のヨツヤならば、この少年ほど強い人間を見れば、スイッチが入って問答無用で刀を抜き、赤いボロマントをはためかせる少年に斬りかかっているところだが、今日はどうもそういう気分になれなかった。

 と言うのも、少年の登場シーンが余りに茶番染みていたせいである。

 耳をつんざくヒーローソングと、ブラウン管越しに見ているのではないか、と思えるほどの荒唐無稽さ。それでは、上がるモノも上がらない。

 それに何より、相手は子供だ。子供相手に遊ぶほど、ヨツヤは退屈していない。

「おや? 仲間がやられているのを見ながら逃げていないとは、その勇敢さには恐れ入ったな!」

 崩れ落ちる露店から顔を出したヘルメットの少年は、ヨツヤを見るなり意味不明な事を口走り始めた。

「……はぁ?」

「仲間の仇取りか、はたまた僕への挑戦か。真意はわかりかねるが…いいだろう! 掛かってくると良い!」

 そう言って少年は、ヨツヤに向かって拳を突き出した。炎の収まったグローブが、ビュ、と風を切ってヨツヤに向けられる。

 何やら、この自称ヒーロー様は、ヨツヤを先程のひったくり犯の仲間だと思っているらしい。

 面倒くさい勘違いに、ヨツヤは溜息をついた。

「おいおい、俺はさっきの奴の仲間じゃねぇぞ。ただの一般市民だ。お前みたいなガキと殺し合う気は無いね」

「何を言ってるんだ? 正義と悪が戦うのは、世界の理だろう? それを避けて通れるはずがない!」

「だから、俺は賞金稼ぎで、ただの一般市民だっつの」

「貴方みたいな凶悪な目つきをした人が、悪では無いはずが無いじゃないか!」

「……」

 ダメだこれは、会話が出来ない。それと同時に、とんでもなく失礼な事を平気な顔で堂々と言ってのける少年に、怒るのも面倒なヨツヤは呆れた様な顔をして肩を竦めた。

「それとも何か? やはりヒーローと戦うのは怖いと言う事かな?」

 首を傾げながら、なんの悪びれも無く屈託の無い笑顔で言う少年の言葉を聞いて、ヨツヤはピクリと身体を強張らせた。そして不機嫌そうに眉をひそめる。

「はぁ?」

「戦うのが、怖いんじゃないか、と聞いたのさ」

 無意識であろうが、挑発するように少年はゆっくりとした声で言った。その少年の、無邪気な子供らしい態度が余計気に障り、ヨツヤはギリ、と奥歯を噛み締める。

 戦うのが、怖い? 誰に、一体誰にそれを問うているのだこのガキは。

 戦いは至高だ。恐れなんて抱くはずもない。どんな強者でも弱者でも、戦闘に置いて、恐怖などと言う感情を抱く事は、このヨツヤにとっては冗談でもあり得ない話なのである。

「は、はは…く…あはははは。バカかテメェ。クチを慎めよ、クソガキ」

 喉奥から、金属すら震わせるような低い笑い声を吐き出しながら、ヨツヤはフツフツと煮える様な怒りを両目に映しながら、クチ元に引き攣った笑みを携えて少年を見据えた。

 ただならぬヨツヤの殺気を、真正面から当てられて、少年は驚いたように目を丸くし、短い口笛を鳴らした。

「…これは、ラスボスの臭いがするな」

 呟くように言うと、少年は、どこか楽しげにニッと笑い、拳を強く握り締めてヨツヤと対峙する。

「……わーお」

 少年の背後では、煌々と赤い炎が、メトロの乾いた風に煽られてゆらゆらと揺れていた。

 そんな、言葉に現しがたい緊張の漂う空間で、タツミは露店の影からこっそり顔を覗かせ、その大きな瞳をクルクルと動かして、すぐさま顔を引っ込めた。


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