第二章 彼らの名前は「ガーディアン」
翌日。
作業室に三人が集まっていた。
「ガーディアン」とヨーコが言った。「それが奴らの名前だ」
タブレットの画面をテーブルに投影する。解析データが広がった。
「昨夜の人物が使ったステルス技術の残留信号を解析した。微量だけど電磁痕跡が残ってた。その痕跡を辿ったら——一件のニュースアーカイブに行き着いた」
画像が表示される。
地球の報道番組の録画。二年前のものだ。
「ガーディアン。正式名称『地球守護機構』。三年前に設立された非公式の地球防衛組織。メンバー数は不明。活動実績は——」
「俺たちと同じような活動か?」と駿。
「似てる。でも違う部分がある」
ヨーコが画面をスクロールさせた。
「これ」
報道の一場面が映し出された。
廃墟になった建物。煙が上がっている。
「三年前、火星コロニーの第七居住区で起きた爆発事故。公式発表は『設備老朽化による配管破裂』。でも——爆発パターンを分析すると、これは内部からの意図的な爆破だ」
「何のために」
「第七居住区には、バロス連合の潜入エージェントが三名住んでいた。彼らを排除するために——ガーディアンが居住区ごと爆破した」
沈黙。
「……住民は?」と甚之助が低い声で聞いた。
「コロニー全体の人口は二百名。爆発による死者は——十三名」
ヨーコの声は、意図的に感情を削いでいた。でも指先が、かすかに震えていた。
「バロス連合のエージェント三名を排除するために、無関係な人間十三名を殺した」
「それが奴らのやり方か」と駿は静かに言った。
「これだけじゃない。似たような事案が、この三年で六件確認できる」
「六件」と甚之助が繰り返した。「俺たちは一度も一般人を巻き込んでいない」
「私たちと根本的に違う」
駿が腕を組んだ。
「昨夜の人物は——ガーディアンの一員だ」
「そう思う。バックドアを消したのは本当だった。でも目的は?俺たちを試した?仲間に引き込もうとした?」
「わからない」と駿は言った。「でも——俺たちに接触してきた。それ自体が意図的だ」
「放っておけない」と甚之助は言った。「もしガーディアンが「アマテラス」で同じことをやったら——」
「やらせない」と駿は言った。即座に。「俺たちの守り方は、俺たちが決める。奴らのやり方と一緒にはできない」
ヨーコはその言葉を聞きながら——画面を閉じた。
十三名、という数字が、まだ頭の中に残っていた。
◆
午後の講義が終わった後、ヨーコは一人で外部デッキに出た。
宇宙の闇に、地球が浮かんでいる。
青い球体。
守るべきもの。
昨夜の影を思い出した。
迷いのない、速い手の動き。バックドアを消す作業は完璧だった。自分より技術が上かもしれないと思った——それは本当だ。嘘をつく理由がなかった。
でも。
(十三人を、手段として使える人間が作ったコード)
同じ技術が、同じ目的のために使われても——それが誰の手によるかで、全く違うものになる。
ヨーコはそれを知っていた。
技術は中立だ。使う者が意味を作る。
(だから私は駿と一緒にいる)
突然そう思って、少し驚いた。
なんで今、そんなことを考えるんだ。
でも——そうなのかもしれない。
ヨーコには能力がある。ハッキングすれば何でも覗ける。壊せる。奪える。それをやろうと思えば、できる。
でも、やらない。
駿がいるから。駿と一緒に守る側にいるから。
(私の中にも、ガーディアンになる可能性はあった)
デッキの窓に額を当てた。
ひんやりとしている。
通信音が鳴った。駿だ。
「どこにいる?」
「デッキ」
「一人か?」
「そう」
少しの間。
「……今日の情報、ショックだったか」
直球だ、と思った。ヨーコは少し笑った。
「少し。自分もああなる可能性があったと思って」
「ないよ」と駿は言った。
「なぜ」
「お前は数字に強いくせに、数字の後ろに人間がいるのをいつも見てる。そういうやつはならない」
「……根拠は?」
「十三年の観察結果だ。IQ三〇〇の俺が言ってるんだから信じろ」
ヨーコは少し笑ってしまった。
「バカじゃないの」
「俺もそう思う。合流する。甚之助が面白いものを作り終えたって言ってた」
◆
作業室に戻ると、甚之助が作業台の上に拳大の装置を置いていた。
銀色の球体。表面に細かい溝が刻まれている。
「なんだこれ」と駿が触ろうとした。
「触るな」と甚之助が手を払った。「まだ安全ピンが入ってない」
「それ、爆弾か?」
「違う。逆だ」
甚之助が球体を持ち上げて説明する。
「量子絡合ジャマーだ。起動すると半径五十メートル以内の全量子通信を同時に遮断する。暗号鍵を使った通信も、量子暗号も全部だ。ガーディアンが使ってきたあのステルス技術も、量子通信で制御してるはずだから——これを使えば強制的に可視化できる」
「すごいな」と駿は素直に言った。
「昨夜から考えてた」
「昨夜からって、寝たか?」
「三時間」
ヨーコが球体を観察した。
「副作用は?」
「俺たちの強化スーツの通信系統も全部落ちる。使ったら五分間、互いに通信できない状態になる」
「五分か」
「それだけあれば十分だろ」
駿が球体をじっと見た。
「ガーディアンがまた接触してくると思うか?」
「来る」とヨーコは言った。「昨夜のあれは、始まりだ。奴らは俺たちを仲間に引き込もうとしてる」
「断ったら?」
「……それが問題」
誰も答えなかった。
甚之助が球体にそっと安全ピンを差し込む音だけが聞こえた。




