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第三章 接触、第二夜

 連絡は、二日後に来た。


 今度は暗号通信ではなかった。

 駿の端末に——物理的な紙のメモが、どういうわけか挟まっていた。

 強化スーツのポケットに。

 スーツは常に作業室の鍵付きロッカーに保管している。


「……侵入された」

 駿がメモを広げた。甚之助が顔をしかめる。


【話し合いたい。対等に。第五ブロック、廃区画C-12、今夜二十三時。一人で来い。武装は自由。ただし三人で来るなら応じない】


「行くな」と甚之助は即座に言った。

「行く」と駿は即座に言った。

「お前は——」

「一人で来い、と書いてある。でも俺が一人で行くのと、俺が先行してお前たちが後から来るのは別だ」

「詭弁だ」

「そうとも言う」


 ヨーコが腕を組んだ。

「私たちが行けないなら——私たちは外から監視する。C-12は量子通信の死角になってる空間だ。でも物理的なカメラなら設置できる」

「今から仕込めるか?」

「三時間あれば十分」



 廃区画C-12は、「アマテラス」の古い区域だ。

 第一期拡張工事で使われた建設資材の保管場所として作られ、今は役目を終えて封鎖されている。

 薄暗い。金属の骨格だけが残り、壁は張られていない。宇宙ステーションの内部なのに、どこか廃墟めいた雰囲気がある。


 駿が一人で入った。

 フェイスシールドのスキャナーが周囲を解析する。赤外線映像には——一つの熱源。


「来たか」

 合成音声だ。昨夜と同じ声。

 影が暗闇から出てきた。


「一人で来たのか」と影は言った。

「そうだ」と駿は答えた。

「仲間は?」

「この会話が終わるまでは、来ない」

「……正直だな」


 影がヘルメットを外した。

 現れたのは——青年だった。駿とほぼ同じ年齢に見える。短く刈り込んだ金髪、彫りの深い顔立ち、目が鋭い。

 地球人だ。


「名前を名乗る気になったのか」と駿は言った。

「ライ。それだけでいい」

「ガーディアンの一員か」

「ガーディアンの一員だ」とライは言った。否定しなかった。「お前たちのことは調べた。東大地球防衛同好会。三人。正体不明だが——能力は本物だ。あの強化スーツの設計、相当な技術者がいる」

「それで?」

「勧誘しに来た」

「断る」と駿は即座に言った。

「理由を聞け」とライは言った。声に感情はなかった。「俺たちとお前たちの目標は同じだ。地球を守ること。ただし俺たちは——本気でやってる」

「俺たちも本気だ」

「お前たちは優しすぎる」


 駿が少し止まった。


「火星コロニーの件を知っているか」とライは続けた。「第七居住区の爆発」

「知ってる」

「あれは必要だった」とライは言った。「バロス連合のエージェントを排除しなければ、そこから流れていた情報によって——三ヶ月後に火星全体が攻撃を受けていた。俺たちの試算では、死者は一万を超えた」


「十三人を殺して、一万人を救った、と言いたいのか」

「そうだ」

「俺はその計算をしない」と駿は言った。


 ライが眉を動かした。


「計算しない、ではなく——できない、だろ?」

「違う」と駿は静かに言った。「しない。一万人を救うために十三人を殺すという計算は、最初の十三人を数字に変えることから始まる。俺はそれをやらない」

「感情論だ」

「そうかもしれない」


 沈黙。


「お前は正義のヒーローに憧れてる、という話を聞いた」とライは言った。「子供みたいな動機だな」

「かもしれない」

「子供のまま戦えると思うな。宇宙はそんなに甘くない」

「知ってる」と駿は言った。「でも俺は、大人のやり方で守れないものを守りたい」


 ライがじっと駿を見た。

 数秒の沈黙。


「……わかった。今日のところは引く」

「また来るか?」

「来る。お前たちが俺たちのやり方を認めるまで」

「認めない」

「そうかもしれない」とライは言った。「でも——状況が変わることもある」


 ヘルメットをかぶり直す。

「一つ言っておく。俺たちには今、お前たちにはない情報がある。宇宙人が地球を狙う理由——本当の理由だ」

「どういうことだ」

「いずれわかる。その時に、お前たちの『優しい正義』で対応できるかどうか——俺は興味がある」


 影がまた消えた。

 今度は量子ジャマーを使う間もなかった。



「本当の理由」とヨーコが画面越しに繰り返した。「宇宙人が地球を狙う理由」

「奴が嘘をついてる可能性は?」と甚之助。

「ゼロではない」とヨーコは言った。「でも——あの発言を否定する材料が私には今ない」

「気になるな」と駿は言った。

「当然気になる。でも今は——奴らのことを優先する。ガーディアンが「アマテラス」で活動しているなら、いつ一般人を巻き込むかわからない」

「監視を続けるか」

「続ける」とヨーコは言った。「あと——甚之助に聞く。量子絡合ジャマーを複数個作れるか?ガーディアンが使ってくるステルスに対抗するために」

「二個なら今夜中に。三個は明日の朝」

「頼む」


 駿がメモを折りたたんだ。

 「状況が変わることもある」——ライの声が、まだ耳に残っていた。


 変わらない、と言いたかった。

 でも——言えなかった。


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