第十四章 ヨーコが抱えたもの
作業室に戻って、甚之助が肩の損傷を確認している間に、駿がヨーコに声をかけた。
「話してくれ」
ヨーコが少し迷った後、端末を取り出した。
「ライから来た情報だ」
画面を差し出した。
駿が確認した。
名前。データ。一致の証拠——
その名前を見て、駿が固まった。
「……これは」
「そうだ」
甚之助が近づいてきた。画面を見た。
「……本当か?」
「まだ確定ではない。ライも言っていた。でも——データの一致は高い」
駿が画面から目を離した。
「なぜ一人で抱えていた?」
「言いにくかった」とヨーコは言った。「お前に関係する人物の名前だから」
駿が少し黙った。
「親族かもしれないのか」
ヨーコが静かに言った。
「駿の父親——藤堂隆也の研究記録と、バロス連合への情報流出のパターンが、時系列で一致している。隆也さんの研究はEDF内の量子技術開発を担っていた。その技術がバロス連合に流れたタイミングと——」
「一致する」と駿は言った。
「そうだ」
沈黙。
甚之助が何も言わなかった。
ヨーコも、次の言葉を出さなかった。
駿が、ゆっくりと端末を置いた。
「調べる必要がある」
「駿——」
「感情で判断しない」と駿は言った。声は平静だった。「俺自身がそう言ってきた。調べる。事実を確認する。それから判断する」
「私が調べる」とヨーコは言った。
「一緒に調べる」
「お前が感情を切れるのか?」
「切れる」と駿は言った。「と思う」
少しの間があった。
「……ヨーコ、なぜ一人で抱えていた?言えなかったのか?」
「言いにくかった。でも——本当は怖かった」
「何が?」
「お前が傷つくのが。この情報で」
駿がヨーコを見た。
「俺は大丈夫だ」
「そう言う人間が一番大丈夫じゃないこともある」
「でもお前が一人で抱えるより、俺が知っている方がいい。どんな情報でも」
「……ごめん」
「謝らなくていい。でも——今後は一人で抱えるな」
「うん」
◆
調べを始めた。
ヨーコが父親の研究記録にアクセスした。
駿は黙って隣に座っていた。
データが出てくる。
研究の内容。技術の詳細。そして——通信記録。
「ここ」とヨーコが指した。「三年前の通信記録に、バロス連合のプロトコルに似た暗号化パターンがある。でも——」
ヨーコが解析を続けた。
「——これ、改ざんだ」
「え?」
「白峰奈緒の記録と同じパターン。外部から後から埋め込まれた痕跡がある」
駿の肩から、少しだけ力が抜けた。
「俺の父親は——関係ないということか?」
「そうとは断言できない。でもこの証拠は偽造だ。本当の関与があるかどうかは——別の方法で確認する必要がある」
「俺が直接聞く」
「父親に?」
「そうだ。会いに行く」
◆
甚之助が一言だけ言った。
「俺たちも行くか?」
駿が少し考えた。
「……一人で行く」
「それは——」
「心配しなくていい。話を聞いてくる。殴り合うつもりはない」
「殴り合わなくても、傷つくことはある」と甚之助は言った。
「わかってる」
「でも行くんだろ」
「そうだ」
甚之助がため息をついた。
「帰ってきたら話せ。全部」
「ああ」
「約束だ」
駿がうなずいた。
ヨーコが駿の腕に、そっと触れた。
「……行ってらっしゃい」
たった一言だった。
でも、十分だった。
駿が作業室を出た。
ドアが閉まった後、甚之助がヨーコに言った。
「よかったのか。一人で行かせて」
「よくない」とヨーコは言った。「でもこれは——駿が一人でしなきゃいけないことだ」
「そうか」
「そうだ」
ヨーコが端末に向かった。
「その間に私は——ガーディアンの中で、この偽造をやった者を特定する。ライの周辺からだ」
「俺は何かできるか?」
「守ってくれてたら十分」
甚之助が腕を組んだ。
「そういうことは得意だ」
二人が作業を続けた。
駿のいない作業室で——静かに、でも確実に。




