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第十三章 「アマテラス」有事

 ヨーコが結論を出す前に、状況が動いた。


 「アマテラス」全域に緊急警報が鳴り響いた。


【全居住者に告ぐ。宇宙ステーション外部に未確認の飛翔体が複数接近中。現在状況を確認中。居住者は各区域の指定シェルターへ避難してください】


「くそ」と甚之助が作業室で言った。「タイミングが悪い」


 ヨーコが即座に解析を始めた。

「外部スキャナーが捉えた。飛翔体の数——三十二。小型だ。でもシグネチャーが——」


 画面を見て、ヨーコが顔を上げた。


「オムニアじゃない。ガラン族でもない。バロス連合の無人攻撃艇だ」


「バロス連合?」と駿が通信に入った。「今?」


「ヴェルスの確保に対する報復だ。速い。こいつら、あらかじめ配置してたな」


「「アマテラス」を直接攻撃するか?」と甚之助。


「無人艇の目標を解析中——」


 ヨーコが止まった。


「目標は、「アマテラス」全体じゃない。学術区域の特定の建物だ」


「何の建物だ」


「……生命多様性研究センター。白峰奈緒の研究拠点でもある場所だ」


 甚之助が立ち上がった。「俺が行く」


「待て」と駿が言った。「状況を整理する。EDFは動いているか?」


「動いてるが——「アマテラス」内部での防衛は、ステーション独自の防衛システムが担う。あれは外部からの大型艦には対応できるが、小型無人艇が大量に来た場合は——手薄になる。設計上の盲点だ」


「つまり俺たちが動く必要がある」


「そういうこと」



「強化スーツ展開。三十秒で集合」と駿が言った。


 三人が動いた。



 学術区域への経路は、避難中の居住者で混雑していた。


 三人が黒いスーツ姿で現れた瞬間、周囲が驚いた声を上げた。


「——あれ、誰?」

「地球防衛——?」

「懸賞金の——」


 声には反応しない。前だけ見て走る。


「無人艇の第一波、ステーションの外壁に到達した」とヨーコが走りながら通信で言った。「外壁の防衛砲台が応戦してるが、数が多すぎる。突破されるまで——三分」

「三分で研究センターに着くか?」

「ギリギリだ」


 甚之助が走りながら、背中のバッグから新型装置を取り出した。


「量子絡合ジャマーを使う」

「今?」と駿。

「無人艇は量子通信で制御されてる。ジャマーを外壁の近くで起動すれば、全艇の制御が乱れる。転倒、衝突、自爆——五十パーセントは機能しなくなる」

「残り五十は?」

「防衛砲台が対応できる範囲になる」

「やれ」


 甚之助が外部デッキへの扉を蹴破った。

 真空ではない——「アマテラス」は気密保護されているので、外部デッキも空気がある。

 しかし宇宙が、すぐそこにある。


 外壁に複数の無人艇が群がっていた。

 ハチのような小型機体。表面が銀色に光っている。


 甚之助がジャマーを起動した。


 青白い球が展開した。

 半径五十メートルに広がる量子干渉波。


 無人艇が——一斉に動きを乱した。

 直進していた機体が方向を失う。互いに激突する。火花が散る。

 五機が連鎖爆発した。


「効いてる!」と甚之助が叫んだ。

「残りは防衛砲台が対応できる数だ」とヨーコが計算を告げた。「センターに向かって」



 研究センターの中では、白峰奈緒がスタッフを避難させながら残っていた。


「あなたたちが——」

「逃げてください」と駿は言った。「でも——このセンターのデータは?」

「バックアップを取り出している。でも時間が——」


「ヨーコ」


「わかった」とヨーコがサーバー室に走り込んだ。


 データのバックアップは、物理的なキューブ型の量子記憶媒体に格納されている。一つで研究データの全量が入る。


「十秒で終わる」


 ヨーコがサーバーに接続した。転送開始。


 七秒で——センターの外壁が破られた。


 無人艇が二機、内部に侵入した。


「ヨーコ!」


「あと三秒!」


 甚之助が侵入した無人艇の前に立った。


 機体が攻撃モードに入った——エネルギー照射。甚之助が前に出た。強化スーツが光を受ける。スーツのエネルギーシールドが最大展開される。


 光が弾かれた。


「ぐうっ——」と甚之助が声を出した。腕が痺れた感覚。「効く……でも大丈夫だ!」


「完了!」とヨーコが叫んだ。量子記憶媒体を掴んで立ち上がる。


 駿が無人艇二機の前に出た。


 一機が照準を向ける——駿が左に跳んだ。弾道が外れた。


 跳びながら、右手で機体の外板を掴んだ。引きちぎる。内部の制御ユニットが剥き出しになる——


 もう一方の手で、甚之助が使用前に渡しておいた小型の電磁パルス爆弾を押し込んだ。


 無人艇が内部から爆発した。

 火花と煙。


 もう一機が駿に向かってきた——後ろから甚之助が体当たりした。百二十キロの質量が衝突して、機体が壁に激突して停止した。


「終わった」と甚之助が言った。肩で息をしている。


「終わった」と駿は言った。涼しい顔だ。


「……なんで俺だけ息切れしてるんだ」



 その後、ステーションの防衛砲台が残りの無人艇を全滅させた。


 三人が研究センターの前に立った。


 白峰奈緒が量子記憶媒体を受け取って、深く頭を下げた。


「ありがとう」


「礼は受け取らない」と駿は言った。「でも——一つだけ聞いていいですか」


「なんですか」


「今日の攻撃は、バロス連合にとってリスクがある行動だ。これだけ大規模なことをして、それまでの内部浸透計画を台無しにする可能性がある。なぜ今、こんな動きをした?」


 白峰奈緒が少し考えた。


「内部浸透者が複数特定されたことで——計画が遅れることを悟ったのでしょう。だから焦った。焦りが、こういう動きを生んだ」


「計画が遅れている?」


「そうだと思います。でも——計画は終わっていない。バロス連合は、次の手を持っているはずだ」


 ヨーコが黙っていた。

 駿がちらりとヨーコを見た。


「ヨーコ、何かあるか?」


 ヨーコが少し止まった。


「……後で話す」


「今じゃないのか?」


「後で」


 駿はそれ以上聞かなかった。

 でも——ヨーコが何かを抱えていることは、わかった。


 「アマテラス」の防衛警報が、ゆっくりと解除されていく音が遠くで聞こえた。


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