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寺生まれの橘くんと女子大生の木花さん ~小早川探偵事務所の怪異録~  作者: アオギリ ユズル
最終話【橘くんの敗北】

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最終話【橘くんの敗北】6

「誘いに乗って、来てくれたんだねぇ~。橘ぁ~」

そう言いながら“田中”の意識は俺の後ろに向いている。


「心配すんな。お前が《《苦手》》な樹さんと鏡花なら来てねぇよ」


「おいおい、あんな雑魚が《《苦手》》だなんて心外だなぁ~。あれは姑息な手段を使ったラッキーパンチみたいなもんだろ~? ノーカウントだよ。今日来ていたら真っ先に殺してやろうと思ったんだけどぉ~、残念、残念」


「雑魚という割にずいぶんと警戒して恨んでるようじゃねぇか」


「そりゃそうだぁ~。ラッキーパンチでも痛いものは痛いからなぁ~。実際に急いで切り離したせいで十体操れていた死体が、今は九体しか操れなくなっちまったんだから、人間なら指を切り落とされたようなもんだぁ~。恨んで当たり前だろ~」


「じゃあ、指どころかお前をこの世から消滅させたら、そうとう恨まれちまうな~。茶番はもういい! かかってこい!!」

俺は拳を握って腰を落とす。


「おいおい、前にも言ったけどオレは強い怪異じゃないんだぜ~。無策でお前みたいな化け物と戦うわけないだろ~」


「芸がねぇなぁ! また“出来損ない”かよ!」


「いやいや、今日は新作怪人のお披露目だぁ~! 出てこい怪人“ギャルおとこ”!!」


 “田中”が手の甲を打合せて裏拍手をすると、地面からカタカタと音を鳴らして黒髪ベースに明るい色のメッシュが入ったウルフヘアが出てくる。その下はピンク色の淵のサングラス、金色の安っぽいネックレス、白色の柄が入ったシャツ、腰履きでパンツが見えたジーンズ、先のとがった靴、手にはバタフライナイフを持っている。全体はこんがりと茶色に染まった骸骨だ。


カタカタッ


「ちーっす、“田中”さん。召喚に応じてきましたー。“ギャル男”っす。マジ頑張りまーす」

“ギャル男”が話す度に骨と骨が当たってカタカタと音を立てる。存在の全てが不快だ。


「おい……ふざけてんのか……」

俺は“ギャル男”の先にいる“田中”を睨みつける。


「フォー! 橘っちって、マジで強いんすよね。殺せたらいっきに幹部昇進とか? マジでアガるわぁー」

カタカタと音を立てて“ギャル男”はバタフライナイフを構えて俺の方へ駆けてくる。


 俺は突っ込んできた“ギャル男”のバタフライナイフを持った方の腕を裏拳で消滅させた。消滅した腕は“なり損ない”の時のように灰に変わって地面にサラサラと落ちていく。


 カタカタカタカタッ……


「チョッ!! マジで……」

“ギャル男”は消滅した腕と俺を交互に見て一丁前に身震いしているようで、先ほど以上にやかましくカタカタしている。


「カタカタカタカタうるせぇんだよ!!」


 “ギャル男”の肩に踵落としをきめると、失敗した達磨落としのように崩れて、安っぽいアクセサリーのような頭蓋骨部分だけを残して灰になった。


「マジで……?」


「おい! ふざけてんのか!?」

俺は腕組みをして“田中”を睨みつけ、“ギャル男”の頭蓋骨を踏みつぶして灰に変える。


「マ、マジか……橘を倒せるなんて思ってなかったがこんなにあっさり……」

“田中”は俺の方を見て引きつった顔をしている。


「クソみたいな怪人なんて何匹出しても同じだ! さっさとかかってこい!! それが嫌なら木花を返せ!!」

ゆっくりと“田中”との距離を詰めていく。


「やっぱり、物量戦しかないみたいだなぁ~」

“田中”は再び手の甲を打ち合わせて裏拍手をする。波打った地面から複数の黒い人型の塊が這い出してくる。


「最後はそれか……本当に芸の無いやつだな!!」

俺は戦闘態勢を取り、地面から出てくる“出来損ない”をモグラ叩きの要領で片っ端から殴りつけ、蹴りつけ、踏みつぶしていく。


 だが二週間まともに休んでいない俺のコンディションは最悪で、前回戦った時よりもかなり消耗は激しい。そして“田中”が呼び出せる“出来損ない”のストックがわからないことで先の見えないマラソンをしているようだった。


 これで百体目くらいだろうか“出来損ない”を灰に変えたのは……。それにしてもこいつらは何人の命を奪って“出来損ない”に変えたのだろうか?


「ハァハァハァハァッ……」

足元はフラフラで目がかすむ。そして圧倒的に酸素が足りていない。


「正直に話すと~、“出来損ない”は、あと百体くらいかな~。ちょうど折り返しだぁ~。でも~橘ぁ~、そんな調子でお前は最後まで立っていられるかなぁ~」


(……クソッ、まだ半分もストックがあるのかよ)


 俺はフラフラで何発も“出来損ない”に殴られながらも、何とか膝をつかずに攻撃に転じて、一体、また一体、灰に変えていく。ずいぶん前から何体倒したか数えるのは止めた、そんな余裕は今の俺には無い。


「そんな状態で……本当の化け物だな……。もう“出来損ない”が無くなったじゃねぇか……」


「ハァハァハァハァッ……」


 俺は“田中”に向かってフラフラの足で駆けだして“田中”の正面につけると鳩尾みぞおちに正拳突きをいれる。殴られた“田中”は壁まで吹き飛び動かなくなる。


「おいおい、話もせずに急に殴りかかるのは、ひどいんじゃないかぁ~」


 背後から声が聞こえて振り返ると、髭面で気味の悪い笑顔を浮かべた、二メートル近い筋骨隆々の上半身裸の男が、俺に殴りかかろうと腕を振り上げていた。俺に向かって振り下げられた腕をバックステップで避けて、胴体に回し蹴りをいれる。巨体の“田中”は倒れて動かなくなった。


「ちょ、ちょっとまてよぉ~、話しをしようぜぇ~」


 俺は声の方を反射的に向いて駆け出す。拳を振り上げてそのまま殴りかかろうとしたが、そこには木花……と同じくらいの背丈の女子中学生の姿をした“田中”が立っていて殴るのを一瞬ためらった。


「お前が俺を祓うのは簡単かもしれないけどぉ~、それじゃ木花咲耶は戻ってこないぜぇ~」


「ハァハァハァハァッ……どういうことだ!?」


「木花咲耶は“穢れ様”の中だから、俺が“穢れ様”を呼びだしてお越し頂かないとダメだろうがよぉ~」


 たしかにこの場所には“穢れ様”といわれている怪異はいない。癪ではあるが、あいつの言う通りにしないといけないだろう。


「わかった……、ならさっさと呼び出せ。祓ってやる」


「さぁ~お前に“穢れ様”が祓えるかなぁ~」

その言葉を聞いて俺は拳を振り上げる。


「待て待て! 今お呼びするから待ってろ!」


 “田中”ヘラヘラした笑い顔を止めて真顔になり、壁の方を向いて四回深々と礼をすると、四回手の甲を打ち付けて裏拍手をする。そして床に膝をついて土下座のような礼をした。すると、小さくて真っ黒な穢れの塊が“田中”の前に現れて徐々に大きくなる。穢れは二メートルくらいの円形になると、その状態のまま床ギリギリに浮いていた。


「“穢れ様”、お越しいただきありがとうございます」

“田中”は土下座の姿勢のまま穢れに向かって話すと立ち上がる。


「“穢れ様”は降臨された。後は勝手に“穢れ様”の中を探すといい。無事に帰ってこられたらいいなぁ~。橘ぁ~」

そう言って今まで以上に愉悦に満ちた気味の悪い顔を浮かべる“田中”を尻目に、俺は穢れの塊に向かう。


 穢れの塊、“穢れ様”は俺でも怖気が走るほどの高濃度の穢れの塊だ。俺は大きく深呼吸をして真っ黒な“穢れ様”の中に足を踏み入れる。


 “穢れ様”の中は外からの見た目とは違いかなりの広さがありそうだ。しかし、穢れの濃度が濃すぎるせいで黒い霧に包まれているような状態になり全容はわからない。目を凝らすと喪服の女性が数メートル先に横たわっているのが見えた。


「咲耶ぁー!!」

俺は思わず木花の下の名前を叫び走り出す。


 木花の前で膝をついて手を握る。とても血が通っているとは思えないその冷たさに脳がフリーズする。


「嘘……だろ……?」

俺の視界が涙で歪んだ。


 爺ちゃんの言っていた『怪異は人につけこみ、人を騙す。絶対に信用するな』という言葉を俺は再び胸に刻んだ。

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