最終話【橘くんの敗北】5
汽車で江別駅から札幌駅に到着して改札を出た所で携帯電話が震えて、表示を見ると樹さんのようだ。俺は通話ボタンを押す。
「お疲れ様です。橘です」
「橘くん! 先ほど“天眼通の汀子”さんのお弟子さんから電話がきて、“田中”の居所がわかりました!!」
(……“天眼通の汀子”……は、たしか協会所属の有名な占い師だったはずだ。失せもの探しと人探し、あと未来予知のようなことができると聞いたことがある。“田中”を探すなら最適な人選だ。しかし、予約が半年待ちで協会が妥当と判断した占い金額も三桁万円を超えることもあるという。そんな大物に依頼できるなんて、さすがは樹さんだ!)
「それで! どこにいるんですか“田中”は!!」
「汀子さんが天眼通で覗いた“田中”の傍に例の穢れの塊……“穢れ様”がいたようで覗いた汀子さんに卒倒するほどの負荷が掛かったとお弟子さんが言っていました。汀子さんは今も目を覚まされていないようですが、失神する際に『豊平の閉店したパチンコ屋、これで嬢ちゃんへの借りは返したね』と呟いたそうです」
(……借り? あいつはいつそんな大物に貸しを作ったんだ? そんなことよりあいつの居場所だ)
「『豊平の閉店したパチンコ屋』か……それって何件もあるものなんですか?」
「知り合いの不動産屋さんに確認していただいたら、現在完全に廃墟になっている元パチンコ店は豊平区内では複数ありますが、豊平地区では一軒だそうです」
「じゃあそこが……」
「汀子さんの言っていたのが豊平地区を指すならばそこでしょうね」
「住所を教えて下さい! 今から乗り込みます」
「住所は豊平○○××△△です。おそらく奴らも汀子さんが覗いていたことに気が付いています。というよりも、今までまったくわからなかったことを考慮するとわざと覗かせるために姿を現したと考えるのが自然です」
「じゃあ、あいつらの罠ってわけですね。上等だ! あいつらを根こそぎ祓って木花を救い出してやる!!」
「橘くん、落ち着いて下さい。僕も合流して……」
「いや、樹さんは来ないで下さい!」
俺は樹さんの話しを遮る。
「えっ!?」
「正直、足手まといです。二人を庇って戦う余裕は多分ないので!」
「そうですか……」
俺は樹さんとの電話を切って目的地に向かうことにした。
本当は樹さんにあんなことは言いたくなかった。子供の頃から年の離れた本当の兄以上に兄のように思っている。俺がこの二年間をそれなりに自由に過ごせているのも、樹さんのお陰だと分かってもいるし、当然感謝もしている。それ故に、樹さんを連れて行くわけにはいかない。
“田中”は油断などせず、次に樹さんが姿を現せば何かを話す前に殺すだろう。方法はいくらでもある。“怪人のなり損ない”を俺と樹さん両方にけしかけたり、自身で物理攻撃を仕掛けたり、どちらにせよ加護の無い樹さんではなすすべなど無く命を落とすだろう。
地下鉄をおりて目的地のパチンコ屋の廃墟へ向かう。歩きながらふと、木花と並んで歩いたことを思い出す。
思えば俺はいつから木花に惹かれていたのだろう。最初は俺とは違う普通の家庭で育った普通の女子大生というものへの興味だったのかもしれない。それがいつしか……具体的には小樽へドライブに行ったあたりだろうか? 自分が好意を持った……いや、ここは正直に言おう。木花咲耶のことが好きだと自覚したのは……。
あいつと接している内に『普通』とはかけ離れている変わった奴だと気がついたのだが、それも含めてあいつのことが今まで会ったどんな人間より好きになった。
あれこれ考えている間に目的地の廃墟についた。そうとう昔からあるのだろうか、それとも廃墟という固定概念により実際より古く見えるのだろうか。年季が入ったモルタル壁にヒビが入っており、正面入り口のガラス部分はコンパネが打ち付けられている。側面の窓のガラスは所々割れていた。一階建てで地面から屋根まで十メートルほどの高さで面積はコンビニなら三軒分ほどの広さがある。商業施設として見れば大きい方だが、パチンコ店としてみれば小規模店になるだろう。
戦闘前に普段なら九字を切って能力を解放するが、二週間前から解放状態の俺にその必要などない。奴らを祓うための準備は常に万端だ。
正面入り口はコンパネが打ち付けてあって入れそうにないので裏口に回る。裏口のドアには当然、鍵がかかっており、ノブを踵落としで破壊してからドアを蹴り破る。
廃墟の中は空気が淀んでいて埃くさい。怪異が好みそうな環境だ。従業員用玄関、通路を抜けてホールに出る。ホール内は遊技台や椅子が外されておりガランとした天井が高く広い場所となっていた。
正面入り口の上のガラス部分から入る月明りに照らされ、ホールの真ん中で気味の悪い笑顔を浮かべる半袖ポロシャツの肥満体型の中年男性が見えた。




