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寺生まれの橘くんと女子大生の木花さん ~小早川探偵事務所の怪異録~  作者: アオギリ ユズル
第11話【人の皮を被るモノ】

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第11話【人の皮を被るモノ】3

 神社は札幌市中央図書館のある山鼻やまばな地区にあり、地方出身で白石区しろいしく住みの私には初めて行く場所だった。その大きな要因は公共交通機関を使うならバスか札幌市電という中央区内だけを走る路面電車でしか来られない場所だからだろう。彩夏さんが大学のレポートを書くために中央図書館に行った話を前に聞いたのだが、乗った事のない市電は信号機で停まる不思議な乗り物だったと言っていた。


 そんな札幌市電と中央図書館を横目に見ながら私たちは目的地の藻岩遠理神社に到着した。私と橘くんは運転手さんに運賃を払って深々と頭を下げて下車する。


 山鼻地区はテレビのローカルニュースで見た通り閑静な住宅街で神社の一つ目の鳥居をくぐると石畳の道があり両端に石灯篭いしとうろうが立っている。向かって左側には児童公園があり、子供たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。二つ目の鳥居をくぐると本殿へとつづいているのであろう階段と2軒の住宅が見える。1軒はまだ新しく玄関前に子供が乗る自転車が置いてあり生活感のあるお家だ。おそらく神主さん家族が住んでいるお宅だろう。もう1軒は築年数は経っているが壁も綺麗で家の前に雑草などない2階建てのお家だ。古めかしいが手入れの行き届いた家の前には所長と白衣と紫の袴を着た60歳前後の男性が立っていた。


「こちらが先ほどお話した木花と橘です」

「この度は急なお願いに対応していただきありがとうございます」

私と橘くんは深く頭を下げる。


「この方がこの神社を取りまとめていて、私の師匠でもある佐伯さえき宮司ぐうじさんです」


「小早川くん、それじゃ私の下の名前が“宮司”みたいじゃない?宮司は役職ね。普通の会社でいうと社長みたいなものかな?とはいっても神職は私と禰宜ねぎの息子と権禰宜ごんねぎで籍だけの小早川くんという小さな神社だけどね。あと、私は宮司ではあるけど能力者ではないから怪異が相手ではあまり力になれそうにはない。その点はごめんね」

宮司さんは目尻のしわが優しそうに垂れた穏やかな笑顔を所長に向ける。


「いえ、これほど強い結界内にかくまってもらえるだけで大変ありがたいです」

所長は宮司さんに深々と頭を下げる。


「私の祖父が能力者だったみたいで結界術について色々と研究してやっていたようだよ。私にはわからないけどその所為かもしれないね」


「そうそう。あと、住んでもらうお家だけど、資料があって使えない部屋があるんだよ。でも、数か月に1回は研修なんかで人が来た際には使っているから綺麗だしお湯も出るから安心してね。それと……木花さん、キミ……巫女装束がすごく似合いそうだね。年末年始、うちの神社でアルバイトしてみない?」


「宮司さん、木花さんは地方出身なのでお正月は帰郷しなければ親御さんが心配してしまいます」


「そうか~それは残念」


「帰郷を遅らせれば年末年始大丈夫だと思います。これからお世話になりますし、私で何かお返しが出来るならやります。でも一番の理由は巫女装束って可愛いから機会があれば一度着てみたいと思ってたんですよね~」

宮司さんは穏やかな笑顔で頷く。


「橘くんは巫女装束、好き?」

私は小首を傾げて頬に指を当てて尋ねる。


「テレビでしか見たことは無いけど巫女装束も服は服だろ。好きとか嫌いとかはねぇよ」

そう言って橘くんは私から視線を反らす。


「やれやれ、橘くんは本物の巫女装束を見たことが無いようだ。初詣にこの神社に来てください。本物の巫女装束というものを見せてあげますよ」

私は某グルメ漫画の主人公のようなセリフをモノマネしながら言った。


「お、おう、楽しみにしてるわ」

私のモノマネがツボに入ったようで橘くんは吹き出し笑いをしている。


「あなたは本当に……狙われているのだから少しは緊張感を持って下さい」

所長は呆れて大きなため息を吐く。


「いやいや、これくらい元気な方が良いよ。怖がって縮こまってたんじゃあ何かあったときには動けないからね」

宮司さんは声を出して笑う。


「あと、これが鍵ね。台所にある調味料や冷蔵庫の中の米や味噌なんかは気にせず使っちゃって大丈夫だからね。日中は社務所しゃむしょに居て夜間は隣の家に居るから、何か不都合があったら言ってね」

そう言って宮司さんは手を振り本殿へと続いているのであろう石階段のある3つ目の鳥居の方へ歩いて行く。私たち3人は頭を下げてそれを見送る。


「宮司さん、すごくいい人そうですね」


「はい。学生でホストをしていた僕を快く受け入れてくれたり、清祓協会に入る際にも口添えしていただいたりと本当に甘えてばかりです。恩返ししなければと思っていた矢先にまた厄介事をお願いしてしまいました」


「それじゃあ、年末年始に恩返ししないとですね。私も巫女として精一杯頑張ります!」


「そうですね。僕たちにできるのはそのくらいですから、少しずつ恩返しをしていきましょう」


 私たちは荷物を置くために屋内に入る。学生時代に仮眠をとるためによく利用させてもらっていたという所長から設備に関しての説明を受けて、私と橘くんは2階にある2室を襖で仕切るタイプの二間続きの和室をお借りすることにした。狙われているとはいえ流石に男女が1つの部屋に泊まるのは良くないが、二間続きの和室なら緊急時すぐに行き来できる。今の私たちに適した部屋があったことはとても僥倖ぎょうこうだった。

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