第10話【怪人口裂け女】1
「木花さん? 『花ちゃんがプリンを口に入れた瞬間に目をまん丸にして驚く姿がとても可愛かった』って……この調査報告書は何ですか?」
所長は調査報告書を机に静かに置いて私を呆れた顔で見つめる。
「それですか? 所長に花ちゃんの可愛さを伝える為に書いたものですよ。協会に提出するのは二枚目の方だけです」
私は所長の机を指差す。
「二枚目……。なるほどきちんと書けていますね」
所長は調査報告書に目を通して頷いている。
「しかしあなたはふざけているのか真面目なのか……」
所長は自分の頭を押さえてため息を吐く。
「失礼ですね。私はいつも大真面目ですよ。それに一枚目の方も舞さんは楽しそうに読んでくれています」
私はソファーでニコニコしながら私の調査報告書(花ちゃんと私の友達日記編)を楽しそうに読んでいる舞さんの方を見る。
「あなたは……。一応は機密文書なのですよ」
所長は大きくため息を漏らす。
「ごめんなさい、樹くん。私が読んじゃいけない物だって知らなくて……」
舞さんはしゅんとした顔で所長の方を向く。
「いや……やっぱり一枚目は機密文書ではないですね。木花さんがおふざけで書いた物ですから」
所長は焦りながら否定の意味で手を振る。
「おふざけとは何ですか? 私と花ちゃんの友情が戯れの友情だと言いたいのですか!?」
「そ、そうは言っていませんよ。言葉の綾です。言葉の綾」
所長は再び焦りながら否定の意味で手を振る。
「樹……。あなた咲耶にからかわれているわよ」
鏡花ちゃんのその言葉を受けて私は口を尖らせ視線を逸らす。
「木花さん。まったくあなたという人は……」
所長は呆れた顔で私をみてため息を吐く。
そうして談笑していると事務所の電話が鳴った。
プルルルルッ、プルルルルッ
「はい、小早川探偵事務所、事務員の木花です」
「清祓協会の前川です。ああ、君が木花さんか試験のレポート見たよ。良く書けていたね。それにあんな解決策をとるなんて感心したよ。それで今、所長さんは事務所にいるかな?」
低く渋い落ち着いた男性の声だ。前川さん……北海道支部の支部長さんだ。
「お褒めの言葉ありがとうございます。所長はおりますので、今お繋ぎいたします」
私は電話口を手で押さえる。
「所長、北海道支部長の前川さんからお電話です」
私のその声を聞くと所長は眉をひそめて少し嫌そうな顔をする。
「はい、替わりました小早川です。……はい。……はい。……花子さんに続いてまた面倒なことを……。わかりました。今回は調査だけですね。危険だと思ったらすぐに撤退しますからね。……ちょちょいと解決って、橘くんを便利な道具の様に言わないで下さい。……怒ってなどいません。……わかりました。早急に調査書をお願いします」
所長は大きくため息を吐くとガチャリとコードレス電話を台座に置く。
「本当に食えない人ですね」
所長はそう言って机に肘を突いて頭を抱える。
「支部長さんからはどういった用件だったんですか?」
「東区の小学校周辺で“口裂け女”が目撃されたそうです」
所長は納得がいっていない様子で眉間に皺を寄せ答える。
「『私、綺麗?』って訊ねてくる。あの“口裂け女”ですか?」
「そうです。その“口裂け女”です。下校中の小学生がマスクをした女性に『私、綺麗?』と問われて返事をしたら『……これでも?』とマスクを外し裂けた口を見せてきたそうです。そんな事例が数件同じ小学校で確認されたそうです。いたずらの可能性もあるので調査を……」
ピーーーヒョロロロロー
「ちょうどFAXが届いたようですね」
所長は立ち上がりコピーとFAX機能のある複合機の前に移動して協会から届いたであろうFAXに目を通す。
「まったく何も進んでいないようですね。小学生への聞き取りすらしていないようです。人に依頼する前に自分たちで動くのが筋だと思うのですが……」
所長は再び眉間に皺を寄せる。
「小学生への聞き取りですか?私が行きましょうか?」
私は前のめりに提案する。
「あなたはすぐに首を出したがりますが、事務所内では事務員採用なのを忘れないで下さいよ。聞き取りなら僕と橘くんで……」
「ちょっと待ちなさい、樹。あなた、橘と二人で小学生に聞き取りに行くつもりなの? スーツを着た長髪長身の男と金髪のチンピラみたいな男で? 正直あなたたちが並んで歩いていたら借金取りにしか見えないわよ。探偵ならもう少し自分たちのことを客観的に見た方が良いわね」
鏡花ちゃんのすごい罵倒……ではないな。私も初対面の時に舞さんの知り合いとして紹介されていなければ素直に信用できたか怪しい外見の二人だ。
「いや……そんなことは……」
所長は舞さんに助け舟を求めて視線を送るが舞さんはスッと横を向き視線を逸らす。
「そんな……」
所長は肩を落とす。




