第9話【トイレの花子さん】9
帰宅後、電話で所長に中学校での出来事を説明すると「あなたらしいと言えばそうなのでしょうが、橘くんの気持ちも分かりますね。とりあえず、あなたたちが無事でよかった」と言って安堵のため息を吐いた。あの場面に居たのが私じゃなくて所長でも同じような顛末になっていたと思う。その証拠に私の行いを否定せず、乗り気では無かった試験レポートの添削にも協力してくれた。そのおかげで私は無事に納得するレポートを作成し提出することが出来た。
レポートの提出から二週間後、清祓協会から私宛に角2封筒と所長宛に長3封筒が簡易書留で届いた。私宛の封筒の中身は合格通知書と祓い師資格免状。免状は可愛い額縁を買って部屋に飾ろう。祓い師の免状なのにピンクの額縁は変かな?そんな下らないことを考えていると自分宛の文章を読み終わった所長が顔を上げる。
「封筒の大きさと木花さんの顔を見れば分かりますが、合格したのですね」
「はい。免状を飾る額縁はピンクにしようと思うんですが、祓い師にピンクって変ですかね?」
「ピンクですか……一応、民間とはいえ資格免状ですからね。もう少し厳かな方が良いのでは……という話は置いておいて、花子さんの沙汰が出ました」
「花子ちゃんはどうなるんですか?」
「心配しなくても大丈夫ですよ。一か月に二度、中学校に祓い師が赴き調査を行って花子さん自体とその他の怪異を監視していくということです。つまり処分は保留ということです。そしてその担当はこの事務所となりました。木花さんがレポートを頑張ったおかげですね」
所長は優しく笑う。
「良かった……頑張った甲斐がありました。この事務所が担当ということは……また花子ちゃんに会えるんですね」
「初回の訪問は僕も同行します。安全だと判断したら木花さん単独で行っていただくかも知れません」
「はい!!」
私は満面の笑みで返事をする。
初回の訪問時、前回私と橘くんが来校した際以上に訝しんだ目で見る用務員さんから鍵を受け取りトイレに向かう。三階のトイレで華麗……とは言えないターンを決める私を所長は苦笑いで見つめる。苦笑いするなら何か言って欲しい。恥ずかしいじゃないか。
「花子ちゃーん、遊びに来たよ!」
私がそう言うと個室の扉が開き腕組みをした花子ちゃんが姿を現す。
「桜のお姉さんと……誰?」
「私の上司」
「はじめまして、花子さん。小早川探偵事務所所長の小早川です」
所長は丁寧にお辞儀をする。
「そして、私がこの度、祓い師になりました。木花咲耶です!」
私は声と胸を張り腰に手を当てる。
「それで、花子さん今回の件で清祓協会の考えが決まったそうで、それをお伝えに来ました」
所長は私をチラリと見て話す。あ、私の名乗りが流された。
「それで、私はどうなるの?」
花子ちゃんは身構えて所長を睨む。
「心配しないで下さい。担当になった我々が月二回訪問して花子さんやお友達の様子を協会に報告することになりました」
「私たちは監視対象ってこと?」
「平たく言えばそうですね。でも、木花さんも僕も可能な限り花子さんが不利になるような報告はしないつもりです。正直、僕もあの花子さんの行いが悪かったとは思えませんしね」
そう言って所長は花子ちゃんに優しく笑いかける。花子ちゃんは安心した様子で体の力を抜き表情を緩める。
所長は花子ちゃんの《《友達》》について質問する。私と橘くんが見た二宮金次郎像と人体模型の他に音楽室でピアノを弾くベートーヴェン、夜になると増える階段、自分の死に顔を映す鏡、校舎から見えないはずの墓場が見える窓。彼らと花子ちゃんで『学校の七不思議』ということだ。話を聞く限りでは怖い怪異にも思えるが、以前花子ちゃんが『大人しい子たち』と言っていたのできっとそうなのだろう。今後の訪問で会えるかも知れない。質問を終えると次の訪問の予定を話して、
「花子ちゃん!また遊びに来るね」
と手を振る私と軽く会釈をする所長は校舎を後にする。
「どうでした花子ちゃん。良い子でしたよね?」
私は所長に尋ねる。
「まだ何とも……でも、敵意は感じませんでしたし、話は通じる印象ですね。次は僕が単独で訪問して大丈夫そうだったら木花さんに引継ぎを考えても良いかもですね」
所長は次の訪問で危険性は無いと判断し、私に調査業務を引き継いでくれた。試験で初めて訪問した際は晩夏だったが秋も深まり肌寒さを感じる季節となっていた。




