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寺生まれの橘くんと女子大生の木花さん ~小早川探偵事務所の怪異録~  作者: アオギリ ユズル
第9話【トイレの花子さん】

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第9話【トイレの花子さん】3

 『祓い師認定試験』の試験会場は札幌駅周辺のビルの三階にある貸会議室だった。試験時間は午前十時から正午までの百二十分。私は受付時間の開始五分前に会場について会場のドアが開くのを待つ。同じように開場を待っているのは五人ほど、全員が私より年上に見える。


 時間となり会場のドアが開くと受付には所長がいた。


「こんにちは木花さん。試験、頑張って下さいね」

所長は決め決めの営業スマイルで言った。私を祓い師にさせたくないが、協会の人間の目があるのでそういう表情になったのだろう。


 会場は中会議室で三人掛けの長机が二列に並び合計十台。本来的には三十名が受験可能なのだろうが、机に乗っている番号プレートは十五枚。今回の受験者は十五名なのだろう。所属している組織の推薦がなければ受験できないという規定があるのでこんなものなのかも知れない。


 私は自分の番号プレートの置かれた席に着座する。すると、私の後ろで開場を待っていた少し派手目なお姉さんが隣に着座し声を掛けられた。


「ねえ、あの受付にいるイケメンのお兄さんってあなたと同じ組織の人?」

派手目なお姉さんは妖艶ようえんな笑みを浮かべて私に尋ねる。


「は、はい、私の働いている探偵事務所の所長です」

急に話しかけられた事に少しだけ驚いて私は答える。


「探偵事務所の所長……じゃあ、あの人が小早川樹か……。噂以上のイケメンだし後で声かけちゃおうかな」

お姉さんは先ほど以上に妖艶にほほ笑む。


「お姉さんはすごく美人だけど、たぶん無駄ですよ。心に決めた人がいるみたいなので」


「そう、それは残念。彼女持ちか~」

お姉さんはいたずらっぽく笑う。《《彼女》》ではないが、所長が舞さん以外の女性に気持ちが移ることは無いような気がする。はっきりとは聞いていないが、あの様子だと子供の頃から一途に想っているのだろう。


「所長って噂になるほど有名人なんですか?」


「ん~、祓い師って意味ではNOかな。私、今占い師なんだけど前の仕事がキャバクラ嬢だったの。夜職よるしょく界隈かいわいでは有名だったよ。イケメンで話しやすくて、お金も取らずに怪異相談からストーカー相談までしてくれるホストがいるって」


「あっ、そういえば名乗って無かったね。私は水沢みずさわ 天音あまね、といっても本名ほんみょうじゃ無くてキャバ時代の源氏名げんじなを占い師になった今も使っているだけなんだけどね」

そう言って水沢さんはバッグから名刺を取り出し私に差し出す。


「すいません。私、名刺とか無くて……木花咲耶です」


「咲耶ちゃんか~本名?キャバクラ嬢みたいな名前だね。いやいや、変な意味じゃなくて可愛い名前って意味だよ」

水沢さんは否定の意味で手を振っている。


「ありがとうございます。それで、水沢さん?占い師さんの祓い師って多いんですか?」


「どうだろう。多くは無いと思うよ。それで占い師の売上があがるわけじゃないし。あと、私も私の師匠の……あそこで仏頂面してるババアも清めることは多少出来ても祓うことは出来ないから」

水沢さんは強面こわもての六十歳くらいの女性を指差す。


「でもね。私たちにはこれがある」

水沢さんはそう言って自分の目を指差す。


「目ですか?」


「そう、目。私と師匠は人のオーラが視えるの。それで能力の有無や加護の有無。私にはまだ無理だけどしっかりと腰を据えて視れば、人の運命の片鱗へんりんまで視えるみたい。だから師匠は『天眼通てんがんつう汀子ていこ』って呼ばれてる」

鏡花と同じ能力を持つ人間もいるのか、でも鏡花から運命の片鱗が視えるという話は聞いていないので『天眼通の汀子』さんはより上位の能力を持っているのだろう。


「だから、ああして受験者の能力の有無を視て不正が無いように……」

水沢さんの顔が青くなり言葉が止まる。


 『天眼通の汀子』さんが水沢さんを強面の顔をより強面にして睨みつけている。秘匿ひとくしているのであろう自分たちの能力をペラペラと隣の見ず知らずの人間に話しているのだ。それは怒るだろう。汀子さんの口元が動き「あ・と・で・お・ぼ・え・て・ろ」と水沢さんに伝えている。

 そうこうしている間に試験の開始時間となり答案が試験官により配られる。


 試験は学科項目、実技項目合わせて二十問の四択問題と小論文。『清祓協会の成り立ちと目的』、『消費者契約法に関して』が十五問の穴埋め式で正しい文字の組み合わせを選ぶ。『こういった場合どうするべきか』は清めや祓いの業務の中で誤った行動を選ぶものだ。今回の試験では、


『呪われた写真を清めて欲しいと依頼者がやって来た。しかし、写真はピントがぼやけた写真で呪いの痕跡こんせきられない。この時の間違った対応を下記の①~④から選べ。


①.自分の判断の誤っている可能性を考慮して上司に相談した。

②.ピントがぼやけただけでは無いかと説明した上で一応清めることを伝えた。

③.規定された相談料を貰ったうえで最寄りの精神科への受診をすすめた。

④.どうして呪われていると思うようになったのかを親身に話を聞き助言を行った。』

といった問題が出た。


 この問題の答えは③だ。精神科への受診を勧めるのは間違った対応とは言えないが、その前文『規定された相談料を貰った』が良くない。精神疾患により判断力が不十分では無いかと疑われる依頼者に対して相談料を頂くのが良くない。消費者契約法の契約の取消対象になるということもあるが、職業倫理しょくぎょうりんり的にアウトだ。


 小論文『過去の大規模な霊感商法被害に対しての私見を述べよ』に対しては実例を挙げて『消費者契約法が無くても、洗脳による脅迫きょうはくじみた行いは倫理的に到底とうてい許されるものではない』という言葉で締めくくった。

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