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寺生まれの橘くんと女子大生の木花さん ~小早川探偵事務所の怪異録~  作者: アオギリ ユズル
第7話【嫉妬の蛇】

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第7話【嫉妬の蛇】7

 何だ?この茶番は、それではまるで私の事を心配して家を訪ねて来たみたいじゃないか。誰のせいで私がこんな目に遭っていると思っているのか?


 私の怒りは限界に達して隠れていることも忘れ立ち上がる。


「ば、化け物!!」

私の姿を見た佐々木は腰を抜かして地面に座り込み、足をバタバタさせている。


「ブスの次は化け物!?お前は本当に失礼な奴だな。佐々木!!」

私がそう叫ぶと佐々木は「ヒッ」と小さく声をあげて目を丸くしている。


「岩崎さん……なの?」

木花咲耶がそう言うと、佐々木は驚いた表情で私の顔と木花咲耶の顔を交互に見ている。


「『岩崎さんなの?』じゃないよ、白々しい。お前が呪いで私をこんな姿にしたんだろうが!!」


「呪い!?何のこと?私、そんなこと出来ないよ?」

木花咲耶は得意のぶりっ子演技をして私をけむに巻こうとする。


「今の姿になって、木花咲耶、お前の正体がやっと分かった。この右目で見れば、お前から出ている不快なピンク色のもやが見えるんだ。魔女か悪魔なんだろ?魅了の魔法で周囲にちやほやされて、魔法が効かない私をうとましく思って蛇の姿にしたんだろうが!!」


「ごめんなさい……何を言っているかよく分からない」


往生際おうじょうぎわの悪い奴だな!ここまで言い当てられた犯人なら、崖の上から飛び降りるか、自ら罪を認めて両手を前に出すもんだろうが!!」

私はそう叫んでテーブル上のペン立てに立ててあるはさみを手にする。


「鋏?それで何をするつもりなの……?」


「こうするんだよ!!」

私は肩甲骨まである自分の髪を鷲掴みにして無造作に切り、佐々木と木花咲耶の方向へ投げつける。


 私の手を離れた髪は大量の黒い蛇へと姿を変えてじりじりと2人に向かってい寄っていく。


 どうせあの女のことだ、腰を抜かしている佐々木を身代わりにして自分だけ助かるために逃げ出すのだろう。この締め切った部屋の中で逃げ場など無い。逃げ惑うあの女を追い詰めて困惑と絶望の表情を眺めながら足から丸呑みにしたら、さぞ美味いことだろう。私の口から自然と「アハハハハッ!」という高笑いと大量の涎が地面に零れ落ちる。


 しかし、木花咲耶は逃げなかった。しかもかばうように佐々木の前に踏み出し腕を前に出して手の平を広げる。何のつもりだ?この女。こんな根性も利用価値も無い男を庇った所でお前に利は無いだろうに。


 私がそう思った瞬間、木花咲耶の胸元がまばゆく光る。そして、木花咲耶の手の平から大量の桜が吹き出し2人を覆い隠すように舞うと激しく燃え出した。


 私の眷属けんぞくの蛇たちは炎におびえて動きを止めた。何のつもりだ。炎の魔法なんて使って、私の家を燃やして私もろとも焼身自殺でもするつもりか?とも考えたが、炎は2人の周囲にとどまり燃え広がる様子は無い。それと不思議なことに炎に囲まれているのに暑がる様子が一切見られない。


「やっぱり魔女じゃないか!魔法で炎を出すなんて卑怯だぞ!!」

私は思い通りにならない苛立ちで地団太を踏む。


「だ・か・ら!私は魔女じゃないし、これは魔法でもない。神様から頂いたご加護なの!」


「何だ?それ!?神様からも愛される可愛い私ってか!ふざけるな!!憎い、憎い、憎い」

体が炎で焼かれても良い、直接あの女を殺してやる。


 私がそう考え木花咲耶に向かい一歩踏み出した時、玄関のドアの方から大きな音がする。


ガゴンッ!!


 何者かがドアノブが壊れるような勢いで下方に力を加えて、私の抜け殻の蛇は引きちぎられた。そいつはバンッと玄関のドアを乱暴に開くと室内に土足で入ってくる。


「ハァ、ハァ、ハァ……ちょっと橘くん、ドアノブに踵落としって……。それに走るのが早いよ〜」

石永瞳の声だ。橘を連れて来ると言っていたが、あいつは何を連れて来たのだ。


臨兵闘者皆陣列在前りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん

橘が何かを唱えながらリビングに駆けてくる。


 あれはなんだ?化け物じゃないか。左目で見た橘は普通の青年のように見えるが、右目で見ると様々な色が混在した巨大な禍々《まがまが》しいもやの中心で私をにらむ鋭い眼光が見えた。


 直感的に『あれはやばい』と感じた私は木花咲耶の前に配置していた眷属の蛇を全て橘の方へ向かわせる。それでもまったく恐怖はぬぐえない。私の体は震え奥歯がガチガチ音を立てた。


 眷属の蛇は橘に近づき襲い掛かる。直進した蛇は踏みつけられ消滅し、飛び掛かった蛇は手刀しゅとうで薙ぎ払われ消滅した。橘はちらりと木花咲耶の方を向くと、すぐに私の方を向き近づいて来る。


「ば、化け物が!近づいてくるんじゃねぇ!!」

化け物の私が相手を化け物というのは滑稽こっけいではあるが、なりふり構わず叫んだ。


 それでも橘は私に近づいて来る。恐怖に打ち負けた私は先制攻撃と言わんばかりに自分から橘に近づき拳を振り出すが、手刀で軽くいなされてしまう。


「クソ、クソ、クソ、クソ」

私は何度も殴ろうと拳を前に出すが、橘は眉一つ動かさず無表情で私の攻撃をいなす。


 これは最後の手段だ。私は切らなかった髪を蛇に変えて拳での打撃と交えて橘に向ける。


「くらえー!!」


 それでも橘に拳も蛇も届かなかった。私の拳はいなされ、蛇は手刀で消滅した。死を意識して体が硬直した瞬間、橘は背後に回り込み私を羽交い締めにする。


「離せ―!何するつもりだ!!」

私は羽交い絞めから逃げようと藻掻もがくが、鉄柱にでも固定されたかのように体が動かない。


「木花!!鳩尾みぞおち寸勁すんけいを打ちこめ!!失敗しても良い!俺が何とかしてやるから!!」

寸勁?とはなんだ?今更、木花咲耶に何をさせようとしているんだ。

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