第7話【嫉妬の蛇】4
翌朝、両足の違和感で目を覚ました。シーツに引っかかる感じがする。起きあがり布団をめくると私は小さな悲鳴をあげた。
「ヒャッ!!」
私のつま先からふくらはぎまでが鱗で覆われていて、色も他の部位の皮膚とは違い白と黒のまだら模様。まるで夢で見た蛇のようだ。そして、足元には脱皮した蛇の抜け殻のような物が落ちていた。
私はベッドから飛び起きて眼鏡をかけて再度確認するが足は鱗に覆われたままだった。触ってみるとザラザラやヌメヌメしているわけでなく、むしろスベスベでしっとりしていて意外に触り心地は良い。ふくらはぎを触ったり、押したり、軽く叩いたりしてみる。ふくらはぎから受ける感覚は他の皮膚より少し鈍い。
そうこうしているうちに少しだけ混乱が収まってきた。とりあえず気持ちが悪いので抜け殻をゴミ箱に入れて考える。
皮膚科を受診した方が良いのだろうか……
しかし、昨日のように「特に異常は無いですね」と言われたらどうしようか。その時私の精神は正常でいられるだろうか。怖くなった私は受診しない事にした。
翌朝とは言ったが、早く就寝したはずが起きたのは昼近く。私は大盛りカップ麺にお湯を入れてきっちり3分待ってから食べた後、身支度を整える。
右目に引き続き今度は両足。私の体はどうなっているのだろうか?鏡に映る自分の右目を眺めながら考えたが、考えても不安になるだけだ。もしかしたら、明日目覚めたら元通りになっているかもしれないのだから。
しかしどうしようか、今日はバイトの日でもうすぐ家を出なければいけない。右目は眼帯で隠すとして、制服がひざ下丈のスカートなので足が出てしまう。そうだ、冬用の黒いタイツなら隠せるだろう。そう考え私は箪笥を開けてタイツを探す。まさか夏の時期にこれを履くことになるとは思わなかった。
真夏ではないとは言え北海道でも7月の上旬はそれなりに気温が高く、冬用のタイツ着用での外出は暑い。不幸中の幸いなのが、ふくらはぎから下が蒸れていないので不快感が少ない。蛇には汗腺が無いというから私の変質した皮膚もそうなのかも知れない。
バイト先に着くと店長の佐藤が声をかけてきた。
「岩崎さん右目どうしたの?あと、すごい汗だよ」
「ちょっとものもらいで、汗は外が暑かったので」
「今日バイトの人結構いるし、体調悪かったら早退しても大丈夫だからね」
くそ、木花咲耶め!そうやって店長に言わせて私を邪魔者扱いしてバイトから追い出すつもりなんだな。
「大丈夫です。働けます!」
私は木花咲耶の思惑に負けないよう少し大きな声で言った。
「そ、それなら良いんだけど」
佐藤は私の声に驚いているようだ。私が木花咲耶になど屈しないことが伝わっただろう。
しばらくして、ホールで接客を終えた私に石永瞳が話しかけてきた。
「岩崎さん、店長からものもらいの事聞きましたよ。大変ですね。って、何で冬のタイツ履いてるんですか?」
「ちょっと冷房が苦手だから」
「そうなんですか。いつも岩崎さんには助けてもらってるんで、何かあったら言ってくださいね!」
そう言って石永は腕まくりをする。私は石永に同情している。石永を単独で見れば美人の部類だろうが、木花咲耶と比べれば見劣りする。それ故、木花咲耶の引き立て役として連れ回されている可哀そうな女だ。
「その時はお願いね」
木花咲耶の手下とはいえ可哀そうな人間にはどうしても優しくなる。
ホールから厨房に入ると佐々木と目が合った。佐々木は何かを言いたそうな顔をしていたが私が睨むと顔を伏せる。どうせ木花咲耶に良からぬことを命令されていたのだろう。本当に小賢しい女だ。
「憎い……憎い……憎い……」
「どうしたの?岩崎さん?にく?」
長谷川のその言葉で我に返る。
「あ!肉が食べたいなー。と思って。賄いはハンバーグにしようかな」
咄嗟に出た嘘ではあるが、賄いはハンバーグにしよう。
私は賄いにハンバーグセットを食べて、仕事を終えていつもの牛丼チェーン店で豚どん大盛りを食べてから帰宅する。
今日を何とか乗り越えられた。浴槽の下に沈んだ白と黒の斑の足をぼやけた右目で眺めながら呟く。
「くそ、くそ、くそ、木花咲耶め。こんな呪いじみた事までして何のつもりだ。私が何かしたっていうのか」
私は悔しくて、憎くて、涙を流した。
少し泣いてスッキリした私は少し早いが寝る事にした。明日は朝から講義がある。昨日の失敗もあるので目覚まし時計を7時にセットして就寝する。




