第6話【付喪神】2
バイトを終えて家に帰り、ソファーでくつろいでいるとメールの着信音が鳴った。夏美からだ。
メールの内容は『お母さんに確認したら、お金はいくら掛かっても良いから早く何とかしてほしい』という内容だった。その返信として『了解しました。それとお家の電話番号訊いてもいい?所長から日程とか連絡するのに、直接夏美ちゃんのお母さんと話した方が良いと思うから』と書いて送信した。
すぐに夏美からメールの返事が電話番号付きで着たので、所長には以下の様に簡潔に分かりやすいメールを作成し送信を行った
『件名:本日お話した依頼の件について
お疲れ様です。表題に記しました依頼人田畑様と連絡が付きましたのでご報告いたします。
先方様より『金額に係わらず早期の解決をお願いしたい』と連絡を受けました。
先方様にはこちらから依頼の可否を連絡することを伝えてあります。
お手数をおかけしますが下に電話番号を記しますので。依頼の可否や日程などを先方様にご連絡いただけますようお願いいたします。
電話番号:011-○○○-△△△
以上、よろしくお願いいたします。』
15分程度経って私の携帯電話が鳴る。所長からだ。
「はい木花です」
「木花さん・・・何ですかあのメールは?」
「所長が報告は簡潔にわかりやすくと言ったので、ああなりました」
「『ああなりました』って、ビジネスメールのテンプレートみたいじゃないですか。まぁ、ビジネスといえばビジネスなんですが……。携帯電話であれをみたら督促状の詐欺メールかと思いましたよ。とにかく、夕方の件は私が言い過ぎました。多少のおふざけは大目に見ますので今まで通りでお願いします」
「別に夕方に言われた事への意趣返しとかでは無いのですが……わかりました」
所長は面倒な人だ、私が良かれと思い行ったことが全て裏目に出てします。困った困った。
所長と夏美の母が話し合い、夏美の母のパートは土曜日が休みとのことで、お宅訪問は土曜日の午後となった。
その土曜の午後となり、和解?をした私と所長は夏美が待ち合わせに指定したコンビニに向かっている。当初、所長は私が同行することに難色を示していたが、その場にいた凜さんが「旦那さん仕事で居ないんでしょ?女の人2人しかいない家に若い男が1人で行くのは良くないんじゃない?」とのアシストで同行の許可が出た。
待ち合わせのコンビニに近づくと手を振っている女性が見えた夏美だ。私は手を振り返して近づく。
「田畑さん、迎えに来てくれてありがとね」
「木花さん、あのイケメンが所長なの?所長っていうからおじさんが来るかと思って部屋着で来ちゃったよ。もう、イケメンを連れてくるなら『イケメンと行く』って言ってよ。こんな格好で恥ずかしい!」
夏美はニコニコしながら燥いでいる。
困りごとを解決すために、上司とお宅を訪問するのに「イケメンと行くから。お洒落に気をつけて」なんて言うのは、能天気と言われる私でも不可能だ。探偵事務所の信用に係わる。
「だ、大丈夫だよ。部屋着でも可愛いから」
私は顔を引きつらせながら言ったが幸い見えていない。所長の方しか見ていないから。
「ご足労頂いてありがとうございます。小早川探偵事務所の所長をしております。小早川です」
夏美は差し出された名刺を両手で受け取ると胸の前に持って行き恍惚とした表情で所長を見つめている。少女漫画的な表現で言えば目がハートだ。
田畑家に向かう道中、夏美は所長のプライベートに関する質問を延々としている。ホスト経験がある所長でも流石にげんなりしている様子だ。
家に着き玄関を開け、私たちは玄関に入る。夏美は母を呼んでくると1人で室内へ向かう。その後、リビングと思われるドアが開き夏美とその母が現れる。
「本日はお時間を作って頂いてありがとうございます。小早川探偵事務所の所長をしております。小早川です」
夏美の母は差し出された名刺を両手で受け取ると胸の前に持って行き恍惚とした表情で所長を見つめている。うん、母娘だ。反応がまったく同じでリピート映像を見ているようだ。
夏美の母はハッとした表情で気を取り戻すと、初対面でも判るよそ行きの顔で
「どうぞ、お待ちしておりました」
と言って私たちをリビングに招き入れる。
リビングへ向かう途中で、夏美の母が夏美に「あんないい男が来るなら事前に行っておきなさいよ」と耳打ちしているが、声が大きすぎて丸聞こえだ。それは所長の顔も引きつる。
私たちは案内されたソファーに座り、母娘が交互に謎の着替えを終えるのを待ってから所長が話を切り出した。
「問題の仏間というのは、あの引き戸の先にあるのですか?」
「はい。娘からお聞きかと思いますが、仏間に入ると気味の悪い音と声が聞こえて来るんです。旦那には聞こえないようなのですが、私たち母娘は怖くて、怖くて夜も眠れません」
演技掛かった口調で夏美の母は答える。所長に対する態度を見る限り元気そうに見えるのだが……。
「それでは早速ですが仏間の方を拝見させて頂きます」
私たちは立ち上がり仏間に向かう
所長が引き戸を開けて仏間が視界に入る。仏間は6畳程度で、入口から正面に仏壇が左側に小さな箪笥があるだけだ。おばあちゃんが私室として使ってたという割に何も無く寂しい印象を受けた。
そして所長は仏間に足を踏み入れ、付いて行こうとする私を手で静止する。
金属でガラスを引っ掻いたような、鼓膜の奥を逆撫でする『キーッ、キーッ』という高い音とともに
「ここから出せー、ここから出せー」
という声が仏壇の方から聞こえてくる。
所長が仏壇に近づき声が何所から聞こえてくるのか聞き耳を立てている。
「キーッ、キーッ、ここから出せー、ここから出せー」
依然声は聞こえ続けている。
声の発生源を発見したのか所長は勢い良く仏壇の引き戸を開ける。
「えっ!わっ!」
という声が仏壇の方から聞こえてくる。
所長は恐る恐る引き戸に手を入れて何かを取り出した。
裏向きの手鏡だ。真鍮製でずいぶんと古い物に見える。持ち手には何かの草の模様が彫られ、鏡面の裏に可愛らしい花の刺繍をした生地が張られている。
所長は持ち上げた手鏡を掲げてくるりと鏡面を向ける。
「な、何よ!急にびっくりするじゃない!!」
持ち上げた鏡の中には、フォークを片手に持った高校生くらいに見えるロングヘア―の少女が写っていた。




