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69 転送箱

 食事が始まりセフィアの父が裕介に話しかける。

「ルルドとパストゥールの工事はユウスケ君がやったそうだな」

「ええ、俺の土魔法で結構やりましたね」


「国交正常化交渉の切り札として、ルルドとパストゥールをフレーブに返却したのだ。フレーブ側は驚いていたよ、ルルドに至っては奪われる前よりも機能的で美しい街に生まれ変っているのだからな。しかも、どちらもトンネルと橋を通って、ベイグルに入国できる。もう、川の水量の多い季節を避ける必要も無くなったわけだ」


「ルルドは、海野さんが初めから国交を行うための国境の橋として計画していましたからね」

「そうらしいな。あれほど長い、馬車のすれ違いが出来る幅の広い石橋とトンネルなど、私は初めて見た」

「パストゥールの方は人しか通れませんし、川を作ってしまいましたから、不便ですよね」

「それが、そうでもないのだ。あの川の分岐部を細く調節して、フレーブは水路として有効利用するつもりらしい。一度水が入って湿地となったことで、畑としてパストゥールの東一帯は肥沃になったそうだ」

「しかも、キミ達が入った温泉なるものが喜ばれてな、国境の温泉街を作るのだと、フレーブはもう工事に入っているよ」


「何が喜ばれるか分からないものですね」

「フハハハハ!」

 セフィアの父エスパールは楽しそうに笑った。外務長官として、難題であったフレーブとの国交正常化が、この娘婿のお蔭で予想を超えてスムーズに行ったのだ、娘の魔力といい幸せそうな様子といい、この婿を手放しで歓迎していた。

 ベイグルの有力者たちは、新国家の骨組みとなっているミステイクのメンバーと繋がりを持とうと躍起になっている。政府を離れたとはいえ、元ミステイクの土の勇者である裕介とセフィアが結婚したことは、今のベイグルでは願ってもない良縁だったといえる。


「それで、ユウスケ君はこれからどうするつもりでいるのだ?」

「言い難いのですが、俺は、セフィアと世界を旅してまわろうと思っています」

「ほう? 生活… いや、仕事はどうするつもりだ?」

「カワハラギケンという屋号で商業登録してあります。これで新商品をいろいろ開発しています。セフィアとも一緒になってから既に、いくつかの商品開発を済ませました」


「カワハラギケン…?! 待ってくれ、あの絹やサイクルを生み出したカワハラギケンはユウスケ君の店なのか?」

「そうよ、お父様。私の魔法陣を使った機械も彼が考えてくれたの」

 とセフィアが説明する。

「そうか、あのカワハラギケンはそうだったのか! いや、これは参った! いや、もし生活に困るようなことがあれば力になろうと思っていたのだが、それでは私にはもう出る幕もないな。いや、参った! 今のベイグルの外貨獲得を支えている、あのカワハラギケンだったとは!」

「いえ、パルージャ商会のお蔭です」

「いやいや、キミの力は直ぐに、このエスパール家をも超えることになるだろう。思う様にやりなさい!」


 エスパールに誇れる娘婿だと太鼓判を押され、セフィアの実家から自分たちの借家に戻った二人は、やっと肩の荷を降ろしていた。

「ふぅ、緊張したな」

「うふ、ご苦労様でした」

 セフィアは父母に裕介が認められて嬉しそうである。


「そうそう、あなたお願いがあるのですが」

「なんだ?」

「このくらいの大きさで、前の扉が開閉できる小箱を作っていただけませんか?」

「こういう感じか?」

 裕介は、紙に絵を描く。まるで家に備え付ける郵便ポストだ。

「そうそう、こんな感じです」


「どうするんだ? こんなもの?」

「今日、お母様に旅に出るのなら、旅先から手紙を書くようにとうるさく言われたのです」

「うん、それで?」

「ですから、この箱に空間魔法の魔法陣を描いておいてですね、私が旅先でこの箱に繋がる魔法陣を描いて手紙を入れれば、たぶん手紙のやり取りが出来ると思うのです」

「えっ? それって、俺たちがこの世界に来たような召喚魔法なのか?」

「いえ、アイテムボックスの一種です。あなたがこの世界に来た召喚魔法とは全く別のものです、アイテムボックスの出入り口が二つあると思ってもらえればいいでしょうか」


「そうか…」

「召喚魔法は私には出来ない禁忌の魔法なのです。賢者の使う召喚魔法は、魔物を使役する能力が賢者には元々あるので、その魔物を呼び出すだけなのですが、あなたが連れてこられた魔導士の使う魔法は、言い方が悪いですが例えば悪魔を呼び出す魔法と同種のもので、例え賢者でも不可能です」

「命とか大切な何かを犠牲にしてやっと起動できるものですが、正確に描けていないととんでもない災いを巻き起こすものです。この世界の多くの人が勘違いしているのですが、あの魔法で黒龍を呼び出せると思っている方が間違っているのです」


「帰りたいですか?」

 セフィアは、優しく、だが不安そうに、裕介に聞いた。

「いや、もうセフィアと生きると決めたから未練はない。ただ帰る方法があるのかと思っただけだ」

「気の毒ですが、ありません」

 セフィアは裕介を抱きしめて言った。


「それで、その転送箱だけど、少ない魔力で使えるものなのか?」

「ええ、アイテムボックスの簡易版のようなものですから」

「それって、また画期的な新商品じゃないのかな?」

「えっ?」

「だって、対で箱を置いておけば、遠く離れた片側で入れた手紙や品物を、もう片側で受け取ることが出来るんだろ?」

「そうですね」


「俺たちが旅先で作った商品を、アコセイサクショやステラのところで受け取ったり、その反対も出来るわけじゃないか?」

「あら、本当」

「雪で閉じ込められた村でも、注文書とお金を入れたら街の食糧が買えたり。前の世界では宅配とか郵便と言ったが、わざわざ自分で届けに行く必要も、旅の商人も伝書鳩も要らなくなるじゃないか」

「あら? あらあらあら! やっぱりあなたは凄いです」

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