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68 エスパール伯

 裕介とセフィアは、ゲルト市内に家を借りて住み始めた。お金持ちなんだから、借りずに建てればいいのにとステラが言ったが、どの道一年しか住む予定はないのだと裕介は説明した。

「新しい家ですね」

 家財道具も小物や布団、ほとんどをアイテムボックスに入れて持ってきたので、借りた家には、備え付けの家具もあるため、セフィアの魔法でパッパッパと配置すれば、もう引越しは完了だ。


「何も手伝うことがないわね」

 ステラは手伝いに来てくれたのだが、セフィアの魔法に驚きながら、テーブルで優雅にお茶を飲んでいる。

「で、ゲルトで一年、何をするつもりなの?」

「先ずは、セフィアの父上、エスパール伯に挨拶だな、それから、アコセイサクショとの業務提携というか、旅に出た後の連絡方法なんかの確立。魔道モーター技術の商品開発。出来ればアコセイサクショみたいな釣り道具を作る会社を立ち上げておきたいと思ってる」

「どうして誰もやっていない、魚釣りにこだわるわけ?」

「そりゃ、亜湖さんとの約束もあるけど、本来の俺の夢だったからだ」

「そうなの?」


「そうだよ、俺は日本にいる時は、釣り具製造会社に就職して釣り具を作るのが夢だったんだ」

「それは、初めて聞きました」

 セフィアが口を挟む。

「そうだな、俺もその夢はずーっと忘れていたんだ。こうして、幾つか釣り具を作ってみて、やれる気がしてきた。怪魚ハンターとして旅に出ると、作ったもののテストにもなるから、もっと、欲しいものや必要なものが出てくる。これだけ魚がいるんだ、ベイグルは未だでも、他の国には釣り文化が栄えているところもあるかも知れない」


「そんなに釣りって面白いものなの?」

 今度はステラが聞く。

「そうだな、前の世界にはこんな格言がある」

「釣りを知らないことは、人生の楽しみの半分を知らないことだ」

「こんなのもある」

「もし釣りが仕事の妨げになるのなら、仕事の方をあきらめなさい」


「そこまで?!」

「それほど、前の世界では釣り好きが多かったんだ。俺はこの世界にも釣りが楽しいことを広めたいっていうか、自分が釣りたい」

「ふーん、ちょっと驚いたわ」

「この世界にも漁師はいるんだろ?」

「ええ、でも魚は網で獲るものよ、一匹づつなんて気の長い話しじゃ仕事にならないわよ」

「まぁ、確かにな」


「それはそうと、セフィアさんのお父さんにはいつ会いに行くの?」

「まだ決めてない。っていうか、セフィアに任せてある」

「あら、あなた、今夜来いって言ってたわよ」

「今夜~?! 聞いてないぞ!」

「大丈夫よ、父母に会うだけだから」

「お前はそうでも、俺はそうじゃない!」


--------------------------


 いきなりだったが、夜はエスパール家の夕食に招かれていたらしい。裕介は大統領祝賀パーティに着ていった限りだったフォーマルな服に着替えて、迎えの馬車に乗り込んだ。

「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 流石、貴族。ゲルトの屋敷は小さいとセフィアが言っていたが、どこのホテルだ?と思うような敷地と建物。その玄関にずらりと並んだ、執事やメイド、使用人たちに出迎えられた。


 そして、玄関でセフィアの母と父が出迎えてくれる。

「ただいま帰りました。こちらが主人のユウスケ・カワハラです」

 セフィアは両親とハグした後、裕介を二人に紹介する。


「は、初めまして、セフィアと結婚しましたユウスケ・カワハラです」

「キミがユウスケ君か。やっと会えたな。セフィアからも、政府関係者からも詳しく聞いているぞ。ミレザ革命の時は、ミステイクの皆さんには返しようもないほど世話になった。キミと家族になれて、こんなにうれしいことはない。これから、よろしく頼む」

 たぶん、エスパール伯は、この挨拶を大分考えてくれていたんだろう。政府の要人だし、伯爵なんだからもっと尊大でも良いのだが、自分たちの結婚が既に認められていて、こんなに歓迎してもらえるなんて思いもしなかった。裕介は、緊張して噛みまくりの挨拶をしながらも、そう思う。


 次に母親とあいさつする。

「セフィアをよろしくお願いしますね」

「は、はい!」

 両親の他にセフィアには兄夫婦がいるが、この二人は元エスパール領の実家で父母の留守を守っている。


「ささ、広間で食事の用意が出来ている。こちらへ!」

 ザッザーっと、裕介たちが移動すると、出迎えた全員がほとんど衣擦れの音だけで、広間に移動を始める。貴族の館って、みんな、すごい訓練されているんだなと裕介は驚いた。


「お父さん、お母さん見てください!」

広間に入ると、セフィアは真っ先にテーブルのフォークとスプーンを魔法で持ち上げて家族に見せた。

「セフィア… これは! 魔法なのか? なんと言う事だ!」

「セフィア…!」

 両親は、セフィアの魔法を見た途端に泣き出してセフィアを抱きしめている。


「ユウスケさんの魔力でね、私に魔法マエストロの文様が現れたの」

「そうなのか! 良かったわねぇ〜 セフィア!」

「ありがとう! ユウスケ君、本当にありがとう! キミとの結婚を許して本当に良かった。じゃあ、今日はダブルでお祝いだ!」


 この世界では、魔力が無いと『親の愛情に恵まれ無かった気の毒な人』と思われるとマカロン君が言っていたのを裕介は思い出していた。

 魔力の無かったセフィアが、そう言う同情や差別に耐えたのと一緒に、きっとこの両親も周りの目に耐えながら、自分達を責めてきたのだろう。

 裕介は、この両親の喜び様をそのように解釈した。

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